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ソーダバー・ストラット  作者: 藍澤ユキ
12/24

【12】

 その日やってきた亜美は白いポロシャツにデニムのミニスカート、足元は赤いローテクスニーカーという出で立ちで、ショートめのふわっと軽いヘアスタイルと相まってスポーティーな印象だった。可愛らしい童顔の真ん中に大きなふたつの瞳を輝かせて、薄桃色の頬をつやつやさせている。その容姿はどことなくティーン誌を飾る妙に大人びたモデル達を連想させた。亜美に会ったのは久しぶりだったが、記憶にある背丈とあまり変わっていない気がする。なんともちびっ子サイズだ。

「ごめんな、わざわざ来てもらっちゃって」

「いいよいいよ。龍ちゃんの頼みとあっちゃー仕方がないからね」

 亜美は妙に芝居がかった口調で云うとにっと笑った。

「今、二年生だっけ? ってかホントに中学生か? あまりのちびっ子ぶりに小学校卒業できなかったとかじゃないの?」

「ぴっかぴかのー、二年生♪ あ、小二じゃないからね!? って、おいこらっ! 誰が小二だ! 中学行ってるっての! 成長してるっつーの!」

 鋭いローキックが俺の右足に炸裂する。けっこう痛い。

「っつ……」

 不覚にも俺ちょっと涙目。

「随分と仲良しさんなんですね!」

 妙に嬉しそうなつばき嬢が目を爛々とさせてこっちを見てくる。

「龍ちゃんって……」

 何かぼそっと椎花が呟いていたがよく聞き取れなかった。相変わらずの不機嫌そうな顔をして、椅子の上で体育座りをしながら文庫本に眼を落としている。

「んで、訊きたいことってなーに? そうねぇー、将来の夢はお嫁さんですぅ! きゃー! いやー! え? 誰のお嫁さんだってぇ? やだなーそれを言わせる気ぃ!? えー! どーしようっかなぁ? ん? あー訊いてないってぇ!? あはは、冗談なんだけどね。びっくりした? 動揺した? 自分かと思っちゃったぁ? てへっ」

 ものすごくコンパクトに端的に平たく云うと『ウザい』。

 こいつ、こんなにウザいキャラだったかな? どこで間違えたんだか……。そんなことを思いながらふとつばき嬢に目をやると、紅潮した顔で『ムッハー』っと擬音が聞こえてきそうな様子で両手を胸の前で強く握りしめている。

「……かわいい」

 え? なんですと?

「……あ、亜美……ちゃん?」

 つばき嬢がおずおずと亜美に近寄っていく。

「なんですかー?」

「……あ、あのね。ちょっと……ぎゅっとしても……いい? ……ダメ?」

 はい!? つばきさん何を云ってるんですかあなたは……? いや、そんな顔を真っ赤にしちゃって……。

 妙な展開にうろたえて咄嗟に椎花を見ると、椎花も目を見開いて口を開けたまま硬直している。文庫本がいまにも落ちそうだ。

「はっはーん、つばきさん。さては亜美のラブリーさにメロメロですね!? わかります、わかりますよー。みんなそーですから!」

 人差し指と親指を開いて顎に当てながらニンマリとする亜美。なに云ってんだこいつ。

「よーござんしょ。大サービスです。ささっ、ぎゅっとやっちゃってください! ぎゅっと!」

 亜美が両手を腰にやってまっ平らな胸をのけぞらせる。

「亜美ちゃん……」

 膝を折ったつばき嬢が、亜美の身体をゆっくり抱きしめる。

 亜美はつばき嬢のけっこうそれなりの胸に顔を埋めて直立していたが、徐々に両腕をつばき嬢の背中へ回し始めた。

「つばきさん……いい匂いがします」

 えーっと、なにこれ? 事態を飲み込めずにいると椎花と目があった。さっきの表情のまま固まっている。この様子だと椎花も事態をよく飲み込めていないようだ。しかし、そんな椎花を見て、こいつでも驚いたりするんだなっと妙なことに感心してしまった。

「……あのー、つばきさーん。亜美さーん……もーいいですかねぇ……」

 気を取り直しておそるおそる二人へ声をかけてみる。

 亜美の表情は見えないのでわからないが、つばき嬢は頬を朱に染めて恍惚とした表情を浮かべていた。いや、ホントなんなんだこれ。

「つばきさん、ほどほどにしないと別れが辛くなっちゃいますから」

 くぐもった声でそう云うと、亜美は身体を少しだけ離した。

「……妹ってホントにかわいいですね……はぁ」

 なんだかとても熱っぽい吐息と一緒につばき嬢が感想を漏らす。と同時に、急に我に返ったらしく、「すみません、恥ずかしいところをお見せしてしまって……」と、耳まで真っ赤にしながらあたふたし始めた。

「わたし、ずっと妹が欲しかったんですよね。亜美ちゃん見てたら堪らなくなっちゃって」

 全身をもじもじさせながらつばき嬢が照れている。かわいい。

 そんな様子を横目で見ながら俺はさり気なく亜美に近づいて耳打ちをする。

「(お前は何やってんだよ)」

「(つばきさんとは仲良くしておいた方がよいと判断しましたので)」

「(うわぁー打算的だな……)」

「(世渡り上手と云ってください)」

 俺の顔を見上げながら亜美はにやっと笑った。

 その向こうでは椎花があきれた様子でこめかみを押さえながら、落とした文庫本を拾い上げていた。

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