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ソーダバー・ストラット  作者: 藍澤ユキ
13/24

【13】

 それぞれがなんとか落ち着きを取り戻したところで本題に入った。亜美にこれまでの経緯を説明して、下田茜のことを訊いてみる。

「そうですね、下田さんは知っていますよ。クラスは違うけど委員会が同じですから」

「委員会?」

 そういや学校ってそんなのあったな。遠い記憶が蘇ってきそうな心のゆらぎを感じてムズムズした。

「美化委員会です」

「うわっ地味!」

「仕方ないじゃん! じゃんけんで負けちゃったんだからさ」

 不本意感全開の亜美にジロリと半眼で睨まれた。

「けっこうやること多くて大変な委員会ですよね」

 つばき嬢がさり気なくフォロー。やさしいなぁ。

「そーなんです。だから不人気なんですよ」

「地味だしな」

 かぶせ気味に俺が付け加えると、亜美に膝蹴りをされた。地味に痛いから困る。

「学校での下田茜の様子はどうなんだ?」

 これまで沈黙を続けていた椎花が唐突に尋ねる。

「そうですね……けっこうフツーですよ?」

 けっこうフツーってなんなんだよ。あと何で疑問形?

「……そうだな……どういうグループに属している?」

 椎花は質問の切り口を変えてきた。

「かなり目立つグループですね。オシャレで人気のある、男子とあんなことやこんなことしちゃってるかもしれないかもよー的な雰囲気の? 自意識パンパンに肥大化している感じの? 上位グループってヤツですねー」

 えらくドライな物の見方をしているのね亜美さん……腹黒いのは知ってたけど、なんだかさらなる暗黒面を垣間見てしまったような気がする。こわいわー。あと、なぜにまた疑問形?

「まぁ、実際はともかく見た目のイメージはあってそうだな。見た目は」

 とくに感慨もなさそうに椎花は納得する。

「そういうお前はどんなグループに属しているわけ?」

 亜美のような腹黒いやつが学校でどんな立ち位置にいるのか、興味が湧いてきたので訊いてみた。

「どこにでも入れるように万遍なくやってますよー。それぞれの微妙な隙間を埋める、みたいな?」

「八方美人の風見鶏ってヤツか?」

「やだなー違うよ。いろんな思惑の中を流されないで泳ぐっていうのかなぁー、時には目立っちゃうことも恐れないっていうのかなぁー、そんな感じ? 高度な空気を読む力がいるんだよね」

 なんだか難しいことを云い始めたな。中学校ってそんなに政治的に動かないといけない社会だったのか。

「……くっくっく、いいなぁ、鍛冶亜美。賢しい子どもは嫌いじゃない。閉じた世界で必要となる社会性ってのは異常で特殊だからな。折り合いの付け方に正解はない。そういうのも全然ありだ」

 椎花はそう云っていやに楽しそうに笑っているが、シニカリスト同士の邂逅はいまいち理解し難いものがあるな……。


 椎花にとっては予想を裏付けできればそれなりの収穫だったらしく、俺なんかは亜美から有益な話しを訊けたようには思えないのだが、どうやら彼女には十分だったようだ。

「これからはもうちょっと気をつけて下田茜を観察しておいて欲しい」

 そう云うと椎花は亜美の右手を取って手のひらに何かを握らせた。

 おいおい、中学生を金で動かすのか!?

「ちょっとやり過ぎだろ!? 亜美! そんなものを受け取っちゃダメだ」

 すると亜美が手のひらを開いて握っていたモノを見せてきた。

 そこには白地にピンク柄の小さな包が三つ乗っていた。

「……えっ……それって……?」

「このいちごミルクの飴、ついついガリガリ噛じって食べちゃうんですよねー」

「これを最後まで舐めてるやつなんているのか? そもそもが噛じって食べるものだろう」

 亜美が飴の包みを開けている横で椎花が口の中をガリガリさせている。

 いや……意味わかんないんですけど。

「あ、龍之介さんも食べます?」

 つばき嬢が袋をガサガサやりながら一掴み寄こしてきた。いちごミルクの飴……。

「噛じって食べると虫歯になっちゃいそうですよねぇ」

 そう云いながらつばき嬢もガリガリやり始めた。

 ……いや、俺も噛じって食べるけどさ、この飴……。


 亜美と椎花はシンパシーを感じ合ったのか、高レベルでのコミュニケーションに成功したようで、互いの右の拳を付き合わせて何かを確認し合っていた。

 もう勝手にやってくれ……。


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