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1話:あの日、体育館で 

二作品目頑張ります

 春。


 桜が咲き始めた通学路を、俺は幼馴染の蓮と並んで歩いていた。


「なあ、悠真。部活どうする?」


「部活?」


「そう。高校入ったんだから、何か入るだろ?」


「うーん……」


 俺は空を見上げた。


 中学では特に運動部に入っていたわけじゃない。


 高校では何かやってみてもいいとは思っている。


 でも、これといってやりたいものがあるわけでもなかった。


「蓮は?」


「俺は武技部」


「武技部?」


「ああ」


 蓮は当然のように答えた。


「中学の頃からやってるし。高校でも続けるつもり」


「へえ」


 武技。


 火、水、風、無。


 人間が生まれつき持っている属性を利用して身体能力を高め、武器や体術を使って競う競技。


 俺も名前くらいは知っていた。


 テレビで大会を見ることもある。


 でも、自分がやるとは考えたことがなかった。


「この学校、武技部かなり強いらしいぞ」


「そうなのか?」


「全国大会にも普通に出てる」


「へえ……」


「去年も団体で全国に行ってるし、個人でも上位に入った先輩がいるって」


「そんなに?」


「ああ。県内じゃ有名だぞ」


 蓮は楽しそうに話している。


 俺は適当に相槌を打ちながら歩いた。


 全国。


 強豪校。


 正直、俺にはあまり関係のない話だった。


 放課後。


「じゃあな、悠真」


「おう」


「俺、武技部行ってくる」


「頑張れよ」


 蓮と別れた俺は、一人で校内を歩いていた。


 さて、どうするか。


 帰ってもいい。


 何か部活を見学してみてもいい。


 そんなことを考えていた時だった。


 ――カァンッ!


 体育館の方から、鋭い音が響いた。


「……?」


 気になって足を止める。


 もう一度。


 ――カァンッ!


 どうやら体育館で何かやっているらしい。


「……武技部か?」


 少し迷った。


 でも、暇だった。


 俺は体育館へ向かった。


 扉の隙間から中を覗く。


 最初に目に入ったのは、たくさんの部員だった。


 練習着。


 整列。


 無駄話をする人もほとんどいない。


 それだけで、普通の部活とは少し違う空気を感じた。


 体育館の壁際には、全国大会出場を示す賞状や大会記録が並んでいる。


「……すげえ」


 思わず声が漏れた。


 その時。


 体育館の中央で、一人の女子生徒が前に出た。


「次、一本お願いします」


 相手は三年生らしい男子。


「了解」


 二人が向かい合う。


 女子生徒の手には、大太刀。


 長く、大きな刀身を持つ武器だ。


 俺は少し驚いた。


 あんなものを高校生が扱うのか。


「始め!」


 審判役の先輩が声を上げた。


 次の瞬間。


 女子生徒が動いた。


 速い。


 大太刀を持っているとは思えないほど、身体の動きが軽い。


 相手の攻撃を受け流す。


 一歩下がる。


 そして、踏み込む。


 大太刀が大きく振られた。


 ――カァンッ!


 相手の武器が弾かれる。


「一本!」


 体育館に声が響いた。


「ありがとうございました」


「ありがとうございました」


 二人が礼をする。


 女子生徒は大太刀を下ろした。


 俺は、しばらく動けなかった。


「……なんだ、今の」


 武技なんて興味がなかった。


 強い人を見ても、すごいと思うだけで終わる。


 そう思っていた。


 でも。


 今の人だけは違った。


「誰だ……?」


 近くにいた先輩たちの会話が聞こえてくる。


「やっぱ神楽坂は強いな」


「今年は主将だからな」


「二年なのに大変だよな」


「でも実力なら文句ないだろ」


「そりゃそうだ」


 二年。


 主将。


 俺はもう一度、彼女を見る。


 大太刀を片付けながら、周りの部員と話している。


 さっきの試合とは違って、少し普通の女子高校生らしい表情をしていた。


「神楽坂……美月」


 その名前を聞いた瞬間。


 胸の奥が、妙にざわついた。


「……やばい」


 何がやばいのか、自分でも分からない。


 ただ。


 もっと、この人のことを知りたいと思った。


「朝倉?」


「うわっ!」


 突然、後ろから声をかけられた。


「蓮!?」


「何してんだ?」


「いや、その……」


 俺は体育館の中を見る。


 ちょうど美月先輩がこちらを向いた。


 目が合った。


「……っ」


 思わず目を逸らす。


「?」


 美月先輩は不思議そうな顔をしている。


「お前、まさか……」


「何も言うな」


「まだ何も言ってないぞ」


「顔に出てるから」


「お前がな」


「……うるさい」


 蓮が呆れたように笑った。


「で、どうする?」


「何が?」


「武技部」


「……」


 俺はもう一度、体育館を見る。


 さっきまでなら、興味なんてなかった。


 全国大会。


 強豪校。


 そんなものは、自分とは関係ないと思っていた。


 でも。


「……入る」


「え?」


「俺、武技部入る」


「お前、武技やったことないだろ」


「ない」


「大丈夫か?」


「知らん」


 自分でも勢いだけだと思う。


 武技が好きだからでもない。


 強くなりたいからでもない。


 全国大会に出たいわけでもない。


 ただ。


 あの人の近くに行ってみたい。


 それだけだった。


「……決めた」


 俺は体育館の扉を見た。


 この時の俺は、まだ知らなかった。


 この日から始まる毎日が。


 自分の想像していた高校生活を、大きく変えていくことを。


 そして。


 ただの憧れだったはずの先輩が。


 いつか、自分にとって特別な存在になっていくことも。


 ――この時の俺は、まだ何も知らなかった。

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