第三十七話 バーン・ザ・インフェルノ
「研冶、ライト、やはり貴様は甘過ぎる。あの場で全員斬り捨てて、感電死させて仕舞えよかったものを。」
研冶はため息をつき、男を睨み返す。
「俺は俺のやり方を突き通してるだけに過ぎん。俺から言わせて貰えばアンタは過剰だ。罪のない人々まで、一体何人を燃やし尽くした。」
金髪の少女はティッシュにガムをぺっと吐き出し、ゴミ箱に投げ捨てる。
「少なくとも、あーしは殺したりとか殺しに行ったりとか、暗くて嫌いだね。」
辺りに、黒い風が鳴く。
「……オレが行く。
奴を知る者は、全て燃やし尽くす。」
黒髪の男の毛先が、赤色に染まる。辺りに陽炎が揺らめく。
「…どうかな。
『レイラさん』がどう思っても、俺は知らねぇぜ。」
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「……けほっ。」
やはり、彼女みたいにタバコを吸うのは、私には合わない。
煙がきつくてむせる。
タバコの火を消し、喫煙所の灰皿に投げ捨てる。
…背から、煉獄の様な気を感じる。
強いとか、その様な次元ではない。想像したのは活火山。それが、生きて私の背に立っている。
振り返った時、魂が悲鳴を上げたのを感じた。
執行官第2位。コードネームは『劫火』。燃え盛る炎の権化にして、世界を焼き尽くす劫火の名を与えられた。
「……絶対的秩序の名において、此処で貴様を焼き尽くす。」
私の生存確率は、限りなくゼロに等しい。
「……私は秩序に反した覚えはありませんが?」
「貴様の存在。そして記憶に残る『其れ』。その何れもが、厄災を呼ぶのだ。此処で断罪する。」
話が通じる気配はない。
…念の為、あの装備は携帯しているが、あくまで対アスター用。執行官に通用するという可能性はない。時間稼ぎにすらなるのかわからない。
地面に置いたスーツケースが、形を変えて私の体に纏われる。
有無も言わさず、スピーカーから爆音を放射する。
対抗できそうなのは、これしかない。
爆音によるソニックブームは、喫煙所から、駅内にあるものを全て吹き飛ばす。たった一つの火柱を除いて。
風に揺られる炎は、一切動じず前へ進み続ける。
端的に表すなら『効果なし』。
彼は、私に向かって掌をかざす。
そこから、文字通りの炎の竜巻が私を巻いた。
装甲があるからといって、炎が効かないわけではない。
中で蒸し焼きにされる。
装甲の中の温度が上がり続ける。熱気と皮膚を焼く感覚が、悲鳴を出させようとする。しかし、口を開ければ肺まで焼け焦げる。目の前には、死が広がった。
瞬間、視界が爆ぜた。
私じゃない。日輪が爆ぜた。
「博士ちゃん、こんスパー!今日の配信は…ヒーローのヒーローになってみた!どう?面白そうでしょ??」
〈期待〉
〈久しぶりの英雄コラボきた〉
〈今日もカワイイ!!〉
紅白のツインテール。人の癪に触るのが大得意な喋り方。いつもニヤニヤと笑う顔。
史上最悪の愉快犯。スパークルだ。
「…貴方の登場を喜ぶ日が来るなんて、思いもしませんでしたよ。」
「それどう言うこと??
ま、今はその失言を許してあげる。さっさと逃げちゃいな。すぱの気が変わる前にさ。」
「…心から感謝しますよ。」
そう言って、私はブースターで飛び立った。
「貴様…執行官の邪魔をするのが、どれほどの罪になるのか知らないのか?」
「しらなぁーい。キミが教えてくれるの??
秩序の飼い犬ちゃん?」
「貴様の力は、オレの能力の下位互換に過ぎない。
火力も、範囲も、応用もな。」
「んー?下位互換なんて、どこの誰が決めたのかなぁ??
もしかして、キミの飼い主ぃ??」
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あたしたちが銀史駅に辿り着いた時、そこは荒れ果てている。と言う言葉が一番似合っていた。
辺りが焼け落ちていて、火が垂れる。
駅の至る所に斬り傷が走り、地面に大穴が開けられていた。
「…銀史駅内で小規模異化が発生したとは聞いていた。
でも、この被害は小規模とは言えないぞ。」
まるで、怪物同士が争ったみたいな跡が、至る所に残る。
奥の柱からピンク色の髪がちらりと見えたのに気づいた。
あたしはそこに向かって、ビームを放つ。
ピンク髪…あたし以外だと、2人該当する。
「…安心しろ。
我は主らの味方じゃ。」
…彼女は、もうあたしたちの背に立っていた。
「お前がこれをやったのか。」
皇楓が槍を刃桜に向ける。あたしは「下げて」と、手で制止。
「…一応、回答はイエスじゃ。
だが、我は不本意だったし、この炎の跡に限っては我は何も知らん。心当たりはあるがな。」
「…我のことは本名の『花見緋桜』と呼ぶがいい。刃桜は、仮の名に過ぎん。」
「…警告をさせてもらう。
オーダー・セレモニーには用心した方がいい。」
キッドが一歩前に出て、銃を向ける。
「…理由がねぇと俺は理解しないぜ。答えろ。」
緋桜は一度だけ周囲を見回した。
誰かを警戒するように。
「……此処では話せん。ついて来い。」
長く歩いた先、着いたのは大通りにあるチェーンレストランだった。
辺りは、駅内よりも人がいる。
「桜を隠すなら桜並木の中。人を隠すなら人の中じゃ。」
テーブル席に着き、メニュー表を持つ。
彼女、ご飯が食べたいだけかしら?
メニュー表を、テーブルに置く。
その上には一枚の紙が置いてあった。
『会話は治安局に筒抜けじゃ』
瞬間、あたしはテレパシーをみんなに繋げる。
「(これならいいかしら?)」
「(最高じゃ。)」
緋桜はスマホを取り出し、いじり始める。
「(行動もカモフラージュしないと、バレてしまう。治安官は、都市全体に耳を張り巡らせているのじゃ。)」
皆は、思い思いが取る自然な行動をし始める。
キッドは寝たふり、皇楓は本を読むふり、ヘヴンは外を見るふりをした。あたしはゲームをするふりを。
「(我は、執行官第1位から言葉を預かっている。
どうか『ヘンリー』を助けてくれ。とな。)」
「(ヘンリー…彼がなにか関係しているのか?)」
「(あぁ。ポールは、セレモニーを利用してスティーブ、もといヘンリーを誘き寄せるつもりでいる。
少なくとも、邪な考えを抱いているのは確実じゃ。)」
「(…彼がなにをしようとしてるのかって、知ってたりするかな?)」
「(すまぬが、回答はノー。
ヘンリーをポールに合わせたらやばい。我が知っているのはこれだけじゃ。)」
「(我から、主らに頼みたいことが3つある。1つは、執行官第1位に会いに行ってほしい。2つは、スティーブの行方を探してほしい。3つは、我と共に、ポールの動向を監視して欲しい。
頼みばかりで申し訳ない。)」
数秒の沈黙が流れる。元から黙りっぱなしだけど、誰の思考も流れてこない。
「(俺、1位に会いに行ってやるぜ。)」
一番最初は、大体キッド。
「(スティーブ君の行く場所には、心当たりがあるんだ。私に任せて。)」
ヘヴンは、やっぱり安心感が違うわ。
「(なら、俺が緋桜に同行しよう。)」
「(あたしもよ。)」
あたしと皇楓がいれば、まあ大概どうにかなるわ。攻守隙がないわよ。
「(…心から感謝するぞ。本物の英雄たち。
あと、そろそろ何か注文しないと勘づかれてしまう。)」
「メニュー表くれ。」
一番最初に口を開いたのは、キッドだった。
後から知ったけど、今日何も食べてなかったみたいね。
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スティーブが向かった先は、七十八番街の郊外にある廃工場だった。
ここに来たばかりの頃は、この廃工場で暮らしていた。
隠れられて、ある程度点検できる設備がある。私たちには、これ以上ない環境だった。
しかし今となっては、朽ちて封鎖されている。
スティーブは鉄柵をへし折り、中へ無理矢理侵入する。
真っ黒で油だらけのベルトコンベアを進み、何に使われたのかもわからない機械の隙間を通る。この奥の制御室、そこで私たちは寝泊まりをしていた。
あの頃は、ある程度の生活感があった。
一応、スティーブは食物からエネルギーを得る構造をしているから、食べ物や飲み物を摂取しないといけない。そのゴミや、点検用のスパナ、あとは、多少良く寝れるようにダンボールとかが敷いてあったはずだ。
しかし、今となってはもう何も残されていなかった。
残されていなかった。じゃない。明らかに『破壊』されていた。
そして、唯一一つの紙が貼られていた。
『重要指名手配犯 ヘンリー・フリーマン』
そして、手書きの字で綴られていた。
『自分の命が惜しければ、父を差し出せ。』
……スティーブの体が震え出す。金属の歪む音が、涙を啜る音のように響いた。
「ググ…ギュグゥゥゥーーーン!!!」
スティーブは全力でその手配書を殴りつけ、貼ってあったコルクボードごとバラバラに引き裂いた。
「ギュゥゥゥゥーーーーン!!!」
怒りの咆哮は、何時間も上げられた。
親として、子を止めるべきなのだろう。でも、私はスティーブにどう言えばいいのかわからない。
スティーブは、私がいなくなってしまうかもしれないことに怒っているのだ。
そして、スティーブは部屋の角でうずくまった。




