第二十二話 柳の枝葉は淑やかに
ピンポーン。
────来たか。
僕は椅子から立ち上がり、玄関へ歩みを進める。
床のフローリングが、やけに輝いて見える。
大きく息を吸った後、ドアノブに手をかけ、戸を開けた。
「こんにちは。ソルさん、だったかな。
──────決まった?」
「…あぁ。」
一秒間を開ける。
「7人、行かせてくれ。」
七星さんは、あどけない少女のような笑顔を見せる。
「じゃ、早速行きましょうか!」
え?今すぐ?
「来る人たちを呼んでもらえる?荷物とかは別に必要ないよ。」
「…あ、あぁ、分かった。」
僕はスマホを開き、グループチャットにメッセージを送る。
「どうやら、すぐに出発のようだ。」
エリ
「ハーイ(^ー^)
すぐ準備して行くわね٩( 'ω' )و」
皇楓
「分かった。」
レヴェル
「OK!」
キッドは、サムズアップのスタンプを送ってきた。
スティーブ
「りょうかい!」
シャムルは、既読だけ付けて返信はしなかった。
「準備、できたけど。」
彼女は、いつのまにか僕の後ろにいた。
「早いな。」と言うと、フードを外して、ジトっとしているが、意志のある瞳でこちらを見た。
彼女の考えていることは僕にはわからないけど、きっと、強い決意を抱いているのだろう。
「ん、まあ行きたかったし。」
シャムルは衣服だけを入れた大きめのバッグを持って、壁に寄りかかる。
「待たせたか。すまない。」
皇楓が、大荷物を背負って階段を降りて来た。
「わぁ、凄い荷物だね。服とか、こっちで用意しておく予定なのに。あっ伝え忘れてた。」
七星さんは顔を赤くし、てへっ、と言わんばかりに頭を軽く小突いた。
そして、皇楓に続き、続々と、みんなが降りて来た。
「に、し、ろく、なな。よし、みんないるね。
それじゃ行こっか。車を手配してるから、荷物はトランクに乗せてね。」
彼女が指差した先には、黒い一台のバンが止められていた。
彼女が歩いて行ったのを確認してから、もう一度、僕はグループにメッセージを送る。
「発信機はちゃんと入ってる?」
アンサー
「勿論、全員の荷物に仕掛けさせてもらいましたよ。」
よし、行こう。
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覇導観のある五十一番街は、海辺の町だ。
片田舎で、どこか懐かしい。特に、海が好きだ。
どこまでも続く青い地平線は、見ていると悩みなんてどうでも良くなっていく。
時たま電車で通るが、毎回、僕は目を奪われる。
───それにしても、長いトンネルだ。
かれこれ10分以上はトンネルを進んでいる。やっと、出口の光が見えてきたってところだ。外はどうなっているんだろうか。
丁度、トンネルを抜けた。
眩しい。目を細める。
目が光に慣れた。その時見た光景を一言で表すなら、僕は陽光って答えるだろう。
太陽の光が煌めく水面を反射し、峠の先がきらきらと輝いている。僕の目にも、それが突き刺さって見えた。
「……まぶしっ。」
さっきまで寝ていた隣席のシャムルが、目をこすりながら体を起こす。
「……海、だよね?」
「そうだ。」短く答える。
「…あたし、生では初めて見たかも。
ずっと、中央区で生きてたし。」
シャムルは車窓を開けて顔を出す。
そうか。海を見たことないのなら、潮風の匂いも初めてか。僕は、その匂いは結構好きだ。どこか、爽やかで、心を青く澄み渡らせてくれる。
「すご……なんか、よくわかんない。」
シャムルは目を細め、座席に座り直す。
「ふぁ〜ぁ。そろそろ町につくから、起きててね。」
運転席の七星さんがあくびをしながら言う。
彼女、人のことは言えるのだろうか。
車は、大きな門の前で停車した。
日本…いや、中華な雰囲気の、古びた木の扉と、石垣に囲われた大きな建物。道場だろうか。
どこか、荘厳な雰囲気を感じさせられる。
隣に目をやると、穏やかとも言えるし、寂しげとも言える顔をした皇楓が、門を一点に見つめ続けていた。
「…どこか、懐かしい。
故郷に、少し似ていたんだ。」
皇楓は、目を瞑った後、一呼吸おいて、目を開いた。
「それじゃ、行こっか。」
七星さんは力を入れる様子はなく、大きな扉をすっと押し開ける。
木の軋む音を立てながら扉は開き、赤と白のニ色を基調とした大きな建物が、顔を見せた。
カンフー映画でしか見たことなかったが、本物は、雰囲気が違う。
七星さんは白い髪をたなびかせながら振り返る。
「休憩室を貸すから、荷物置きと、寝泊まりに使ってね。右に行けば着くよ。
準備ができたら、道場に来て。」
彼女はそう言うと、まっすぐ建物へ歩いて行った。
「行こうぜ。」
キッドは言うと、右へ歩き出した。その彼をみんなでついて行く。
少し歩くと、別棟のような建物が顔を出した。
比較的綺麗で新しい外観だ。築10年ってところだろうか。
キッドは扉をノックする。
コンコンコン。
内側から、誰かが扉を開けた。
「…こんにちは。朧師範からあなた方のことは耳にしています。
私は雨京柳と申します。」
そこには、藤色の髪をした、お淑やかな雰囲気の少女が立っていた。ここの門下生の一人だろう。服装こそ私服だが、彼女のつけているスカーフに、覇導観の紋様が描かれている。
「英雄様方、こちらへ。私が案内いたします。」
随分と、かしこまった口調だな。ちょっと苦手な喋り方かもしれない。
彼女が2つ廊下を曲がった先にある部屋の扉を開ける。
中は思った5倍は広く、20人以上は入れるだろう。
慣れない畳の匂いが、鼻をつく。
「今お布団をお持ちしますね。」
「僕も手伝おう。ついでに、迷子にならないように、道を覚えたい。」
僕は持っていた大きなカバンを部屋の扉のすぐ近くに置いて、彼女と一緒に布団を取りに行った。
「普段は、どのような活動やお仕事をされてらっしゃるのでしょうか。」
「そうだな、都市災害の鎮圧だったり、あとは依頼とかを受けてることが多いな。」
僕は視覚と聴覚で情報を集める。
歩きながら、景色を頭に叩き込む。
柳さんと会話を続けつつ、周囲の門下生の声にも耳を傾けた。
まず、門下生たちだが、みんな揃いも揃って顔のどこかに青タンがある。男も女も、ほとんど関係なくだ。
そして、師範七星朧はだけではない様だ。『顎』と言う名の人物がいるらしい。どうやら、その人物が、顔に青タンを付けている、ようだ。相当なスパルタ教官なのだろうか。




