第十一話 月曜日、悪魔の仕事
第一章の、はじまりはじまり〜!
年越しから大体1週間。
英雄達はまたそれぞれ、任務やバイトなどに出ていた。
残った連中は、だらだらとリビングで寝転がっていた。
薪の英雄は、主に都市災害の鎮圧や、被害者の救助を専門として活動している。
新年早々、都市災害が起こらない…訳がなかった。
「五十三番街でBランク相当の都市災害発生だって。
誰か、初めの仕事に付きたい人はいるか?」
僕、ソルはテレビを見ながら軽く呟く。正直、寒すぎて家から出たくないっていうのが本心だ。でも、そろそろ動かないと…という思いが混ざり合い、僕を悩ませる。
「ギュゥゥーン!」
唸り声の様な金属音が鳴る。
「スティーブがトップバッターになりたいらしい。」
機械怪獣のスティーブ唸り声と、その父ヘンリーが言う。
「はいはーい!私行きたい!」
栗色の髪をした少女、レヴェルがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「なら、私も行こうかな。ヘンリーさんがいるとはいえ、子供達だけじゃ心配だもの。」
長い黒髪をさっとかきあげながら、ヘヴンは口を開いた。
「他はいないのか?」
皆が黙り込む。テレビのがやがやした音だけが、広々としたリビングに響き渡った。
「アタシは絶対に嫌。仕事したくないからね。」
半音低く、エイヤは声を小さく出した。
「俺も遠慮しておこう。今は怪盗の花形である道具を失った身だからな。まだ、舞台で踊る気はない。」
怪盗、ヴラドはコインを手の上に転がせる。
その他のメンツは、声を出しすらしなかった。
スマホを机に伏せ、手に持ったコーヒーを一口飲んだ後、一つだけ言った。
「帰りに歯磨き粉を買ってきてくれ。」
「いつものミントのやつでいいのかな?」
「あぁ。」
そう言うと、ヘヴンはすっと立ち上がり、壁に立てかけてあったライフルを手に持ち、コートを羽織った。
スティーブは大きな手で器用にウッドデッキに繋がる窓の取手を開け、外に出た。
階段からどたどたと降りてきたレヴェルは、一本の剣を持ち、リビングの皆へ手を振ってきた。
「それじゃ、行ってくるね。」
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五十三番街。
火の上がる通りの真ん中、1人の怪物が佇んでいた。
異様に肥大化したその身体の頭部だけは、人の姿を残している。
皮膚はぐちゃぐちゃに爛れ、あたりに血の匂いと、吐き気を催す腐臭が満ちる。
数分前に到着したはずの治安官たちは、バラバラの肉塊だけを残して皆姿を消していた。
「わぁ、結構な大物ね。それじゃ、行きましょうか。」
ヘヴンはパチンと指を鳴らす。
同時、空に暗い夕暮れが訪れた。
黄昏の森。それこそ、夜の結界を持つ彼女を象徴するべき名だ。
この黒夜の
「黄昏れ様の力を見せつけてやりましょう。」
ライフルを構え、ヘヴンは引き金を引く。
無音。
草木や風の音すら凪がれる。
あるのは、フクロウの鳴き声だけだった。
ぶちっという音と共に、怪物は血を噴き出す。
弾が飛んできた方向に向け、怪物は近くに落ちていた、壊れた車の部品を投げつける。
しかし、今度の狙撃は、背後からだった。
右、左、後ろ、前、四方から、無音で、弾丸が飛び交う。
怪物は堪え、叫び声を上げる。弾丸程度でくたばるほど怪物は弱くはない。しかし、確かな痛みと、叫び声を出させるのには、十分だ。
その声は、地下へこだました。
こだまが返る。
しかし、この怪物のものではなかった。
地面から、赤い機械の手が現れた。
その手は、とてつもない力で怪物の足首を掴み、地面へ引き摺り込んだ。
悲鳴を上げ、地上へ這い出そうとする怪物へ向かい、宙から無数の剣が襲いかかった。
まるで、各々が意思を持つように、剣たちは怪物の体を切り刻んで行った。
怪物は、動かなくなった。
その頭部を、ヘヴンが撃ち抜く。
地面からスティーブが、空中から、スケートボードの様に剣に乗ったレヴェルが現れる。
「意外と早く終わったね!」
3人はハイタッチを交わす。
勝利の後の余韻は、普段は5秒にも満たない。しかし、今日だけは、長く長く感じられる。辺りに、どこか嫌な気配が漂い始めた。
スティーブの体からけたたましいブザー音が鳴り響く。
「まずいぞ。レーダーに凄まじい程の反応が出ている。
なにか…やばいのが近づいてきている。
ソルやエリにも匹敵…いや、それ以上だ。」
ヘンリーの声だ。しかし、相当な焦りが見える。
3人に一気に緊張が走る。
我らが2トップを超える力を持つ者は、この都市でも相当限られる。
たった3人では、絶対に勝てない。
死ぬ、殺される。そう、皆に直感させた。
「どどど、どうする?」
ヘヴンの声に、明らかな動揺が混じる。普段は冷静で、大人びた彼女でさえ、死への恐怖を前にしたら、緊張せざるを得ない。
「私たちじゃ、勝てないよ。」
レヴェルも、元気さを失っている。
「どうするって、逃げる以外ないだろう。スティーブの背に掴まれ。地下から脱出するぞ。」
2人はスティーブの背に捕まり、スティーブはドリルで地面を掘り進める。
しかし、ヘヴンは見てしまった。
遠くの路地からこちらに歩み寄る、男の姿を。
一瞬にして、彼女の脳裏には「死」の一文字でいっぱいになった。
心臓を吐き出してしまいそうになる。
まるで、飢えた狼に睨まれたウサギの様に。
男は足を止め、一言。しかし、ヘヴンたちには聞こえはしない。
「やれやれ、ちょっと顔を見せただけでこれか。
彼女らは、僕の視聴者ではなかったようだな。」
男は手に持つ杖を地面に軽く打ちつける。
地面が、白く腐り落ちていった。
腐った地面には、白い爪痕が残っていた。
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その頃。
家は、殺伐とした空気など一切なく、アンサーが菓子パンを齧っていたり、エリが同人誌を読んでキャッキャしていたり、いつも通りのメチャクチャ具合だった。
「この菓子パン、味が落ちましたね。製造工場が変わったからでしょうか。」
「やっぱり純愛ハッピーエンドは最高ね♪」
突然、地面を砕く音と共に、庭から、スティーブのドリルが顔を出す。
這い出たスティーブの背中から、少し土で汚れたレヴェルとヘヴンが現れた。
レヴェルの様子は、ほぼいつもと変わらないが、ヘヴンは明らかに違う。
明らかに息が浅い。
瞳孔が開き切って、震えている。
目には、薄く涙が滲む。
それに気づいたアンサーが窓を開ける。
「貴方たち…酷い汚れですね。風呂に入ってきなさい。」
「待って!アンサー、ヘヴンの様子がおかしいの!」
アンサーはヘヴンに近づき、彼女の様子を軽く診る。
ヘヴンは、無理に笑おうとするが、かえって嗚咽が止まらなくなり、よろめく。
それをアンサーが肩で軽く受け止める。
「…貴方たち、何かあったのですか?」
いつもより、少し強張った声で、彼は問う。
それについて、ヘンリーが事細かに説明をした。
異化した怪物を鎮圧した後、レーダーに異常反応が出た事。
ヘヴンが振り返って、何かを見てしまったと言う事。
「───そうですか。状況は理解しました。
とりあえず、ヘヴンが落ち着くまで見ておいてください。
彼女が話せる様になったら、私が調べます。」
アンサーはそう言い残し、二階へ上がっていった。
同時、コンビニに行っていたソルが帰宅。
「歯磨き粉…って場合じゃ無いな。」
僕はすぐに状況を理解し、ヘヴンの元へ行く。
「ゆっくりでいい、話せそうなら、話してほしい。」
彼女の肩にそっと触れる。
震えがはっきりと伝わってくる。
相当な事があったのだろう。
いつもニコニコしている彼女が、こんなになっているのは、初めてだ。
「ぁ…ソルく…ゔっ…ぉ"ぇ…」
「大丈夫だ、もういい、ゆっくり息を吸うんだ。」
さすがのエリも、純愛欲よりも心配が勝ったみたいだ。
命とも言える同人誌を置いて、こちらに来た。
「ヘヴン、大丈夫よ。あたしがいるから、ね?」
ヘヴンの横にぴったりとくっつき、優しく背中をさする。
「ソル、そこを退きなさい。私が見ます。」
階段から、アンサーの声が聞こえた。
彼は中々の荷物を持って階段を降りてきた。
彼は小さなケースの中から、一つの錠剤を取り出す。
「安定剤です。飲めば少し楽になれますよ。」
ヘヴンはそれを手に取り、一飲み。
少しずつだが、彼女の息遣いが元に戻ってきた。
しかし、手の震えは治らない。
「話せそうですか?」
「え……えぇ。」
その声はまだ弱々しい。まるで、蛇に睨まれたカエルってところだろう。
「貴方は何かを見た、そうですね?」
ヘヴンは軽く頷く。
「具体的に、何を見たか伝えてくれますか?
人間だったか、機械だった、とか。」
「…男の人よ。見た目だけなら、普通の人。ただ、杖を持ってた。」
アンサーは、カルテに何かを書き込む。
「そうですか。
ヘンリーのレーダーには、強い反応があったそうですが、
その者の能力の影響を受けた、そんな感じはしましたか?
あるいは、その者の能力を見た、なら教えてください。」
首を横に振る。
「…杖を地面に付けたら、そこが白く、腐っていってる感じだった。
腐ったところに、なにか、爪痕みたいなのもついてたの。」
アンサーがカルテを書く音が止まる。
「────その男は、私と同じくらいの長さの灰色の髪をしていて、赫い瞳をしていた、違いますか?」
頷く。
アンサーは目線を落とす。が、すぐにスティーブやレヴェルの方も見る。
「…単刀直入にいいます。貴方たちが出会ったのは、『ハレミチ』で間違い無いでしょう。」
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