第一話 英雄は、よく燃える
なろうでは初投稿なので生暖かい目で見てください。
視界が、揺れていた。
正確に言えば、揺れているのは世界ではなく──カメラだ。
「みなさーん、こんスパークー!」
弾む声と同時に、画面いっぱいに少女の笑顔が広がる。
赤と白のツインテールが揺れ、背後では崩れかけの建築物が夜闇に沈んでいた。
「今日も元気に!あっと驚くシーンをお届けするよ!」
──コメントが、流れ始める。
〈きた〉
〈今日も爆発頼む〉
〈ここ十四番街の第三区画じゃね?〉
少女──スパークルは、指を鳴らした。
パチン、という軽い音。赤い火花が散り、空気が弾ける。
「今日はね、スペシャルゲストを呼んでるんだ~」
カメラが旋回する。
瓦礫の影から、一人の青年が引きずり出される。
白い外套。煤に汚れた、鞘に仕舞われた大剣。
その背中には、焦げた刻印──「薪の英雄」の証。
〈……マジ?〉
〈最近噂のあれか?〉
〈英雄じゃん〉
〈本物?〉
青年は、カメラを見た。
その目には、怯えも、怒りもない。
ただ、風を凪ぐような静けさだけがあった。
強者と強者の間には、常に一種の凪がある。誰も、そこを通ろうとしない。通れない。
「はーい、それじゃあ挨拶してもらおっか!」
スパークルが、楽しげに笑う。
「名前は?ランクは?それとも──」
青年が、口を開いた。
「……君は、英雄になりたいと思ったことはあるか?」
一瞬、コメントが止まる。
次の瞬間、爆発した。
〈は?〉
〈なに語りだした〉
〈空気読め〉
〈¥1000 早くやれ〉
スパークルは目を瞬かせ、それから大袈裟に肩をすくめた。
「えー、ちょっと重いかなぁ?でも大丈夫!すぐ終わるから!」
指が鳴る。
火花が走る。
青年の足元で、爆発が咲いた。
炎と煙。悲鳴。
カメラはブレながらも、決して目を逸らさない。
「──ほら、ね?」
スパークルは笑う。
「かっこいー英雄ってさ。燃えると、すっごく映えるんだよ?」
その瞬間、
瓦礫の影で、何かが蠢いた。
無数の脚。
地を擦る音。
コメント欄が、ざわめき始める。
〈……え〉
〈なにあれ〉
〈ムカデじゃね?〉
スパークルの笑顔が、ほんの一瞬だけ、歪んだ。
「あーあ」
彼女は、カメラを向けたまま呟く。
「……最悪。
これ、ガチのやつじゃん」
画面の端で、
闇が、動いた。
闇に向かい、青年は口を開く。
「悪いが、君はお呼びじゃないんだ。シャドウ・リヴァイアサン。」
闇は犇めく。
影の中、とぐろを巻く怪物は、去る。まるで、なにもいなかった様だ。
「さて、火花のお嬢さん。質問の続きだ。
君は、正義を語ることはできると思うか?」
青年は鞘に仕舞われたままの剣を手にし、
その先を少女へ向ける。
「んー、絵面が良ければ正義ってことでいいんじゃない?」
「ふふっ」
青年は少し笑う。
被るフードを脱ぎ、顔を晒して見せる。
白銀の髪。青いサファイアの様な瞳。
「──それじゃあ、犠牲者が増える前に、配信を切らせてもらおうか。」
〈バトルきた〉
〈すぱちゃん頑張れ〉
〈¥2000 すぱちゃん勝利に賭ける〉
青年は手に持つ剣を鞘に仕舞われたまま軽く振るって見せる。
空気が切り裂かれる。
斬撃が、強烈な真空波となって飛ぶ。
──バン。
少女は真隣で爆発を起こし、その勢いで刹那に迫る真空波を回避して見せる。
街は、音を置き去りに、紙のように切れてしまった。
「アハハ!やるじゃん!なら、すぱも負けてられないねェ。
あと、スパチャ感謝!大丈夫、勝つから!」
少女は指を鳴らす。
乾いた音と共に、少女自身の足元が爆ぜる。
〈飛んだ!〉
〈最上位勢ってやべぇ〉
〈見えるかな〉
花火の様に宙を舞う少女は、青年めがけ、彗星の如く降り注ぐ。
彗星を前に、青年は少し構えを取った後、
二度、剣を振るう。
青い斬撃が、弾丸の様に突き進む。
電柱や駐車場を切り裂いても止まることはない。
彗星と斬撃が混ざり合った時、
────空気が飲まれる。
辺りが白くなる。
直後に押し寄せる爆風は、電線、止められた自転車、電気の消えたビルさえも飲み込む。
〈なんか通知アラートきた〉
〈Bランク相当の都市災害発生、第三区画にいる住民は避難だってさ〉
〈もう絶対これのせいやん〉
灰色の煙の中に立つのは、少女と青年のみ。
青年は服についた汚れを払い、剣を構える。
額には少し赤々とした血が滲んでいる。
「さ、まだこんなもんじゃないだろう。
100位近く下のランクの僕に負けるなんて言わないでくれよ?」
少女は全くの無傷。
カメラのレンズを拭き、髪を結び直す。
「勿論もちろん!すぱ、勝てる相手としか戦わない主義なんだよねー」
「───なら、僕は勝てる相手、ということかい?」
「さぁ?どうかな!」
少女は両手に火花を纏い、前に爆風と共に飛び出す。
両者が飛び出し、再び衝突する瞬間。
ピンク色の光が、既の間に差し込まれた。
神々しさを秘めるその光に、カメラを越しにいる者さえ目を奪われた。
「君…ありきたりな登場すぎやしないか?」
青年はため息をつき、文句を言いたそうに呟く。
「もう再生数は稼いだんじゃないかしら?
ここからは、ヒーローの邪魔にしかならないわよ。」
宙から長いピンク髪の少女が舞い降りる。
一目見ただけで、永遠に目が離せなくなるような、どこか吸い込まれる、ピンクのダイヤモンドのような瞳は、まっすぐと、スパークルを見つめていた。
〈誰この美少女〉
〈好きです付き合ってください〉
〈なんか見たことあるような…〉
「ちょっとぉ、予定にない登場はやめてくれる?」
スパークルはあからさまに不機嫌だ。
「ハーイ、視聴者のみんな!
あたしは薪の英雄の『エリ』よ。」
ピンク髪の少女、エリは、ぱちりとカメラに向かってウインクして見せる。
〈薪の英雄キター!〉
〈白い兄ちゃんの仲間か〉
〈¥2000 共闘きた〉
「ねぇ『ソル』、さっき、Bランク級の都市災害が発生したって聞いた?」
ソルは首を振る。
「いいや、多分、僕と彼女の戦闘が、そう認識させたんじゃなか?」
エリはスマホの画面をソルは見せる。
「ううん、第三区画の『メカニカル・コーポレーション』の工場付近で『異化』が発生したの。
今、皇楓とキッドが市民の救援に向かったわ。」
エリは話途中にもチラチラとカメラを見ながら、ピースを折り込む。
「それと、近くにシャドウがいるわ。
多分、決着が着いた時、弱ったあなたたちを狩るつもりなんでしょうね。」
瞬間、2人の真隣が爆ぜる。
「もうお話は済んだ?!トークパートは一番映えないんだよ!?
いいもん!2人同時に掛かってみたら?!
勝てるもんならね!」
スパークルは地団駄を踏みながら、2人を睨みつける。
〈やべぇ、すぱちゃんキレたぞ〉
〈キレ顔もカワイイ‼︎〉
〈¥2000 1v2希望〉
ソルは首をポキポキと鳴らし、今一度スパークルへ剣を向ける。
「悪かったね、お嬢さん。
準備はいいな?エリ。」
「えぇ、勿論!」
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