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第一話:無自覚な最強、蛇の腹からこんにちは


「……ううっ、ここは……?」

凛が目を覚ますと、そこは湿った暗闇の中でした。

鼻をつく強い酸の臭い。足元には、ドロドロとした消化液が湖のように溜まっています。

「そっか……僕、またやられちゃったんだ」

記憶を辿ります。

新しい世界に降り立った直後、目に入ったのは巨大な大蛇――**『大喰らいのヨルムンヘビ』**が、ドラゴンの卵を次々と飲み込む光景でした。

無我夢中で飛び出した凛は、最後の卵を抱きかかえたまま、大蛇の牙に貫かれ……そのまま飲み込まれたはずです。

「あぁ……女神様。僕、また死んでしまいましたよね……。せっかく新しい命をもらったのに、ごめんなさい……」

凛は暗闇の中で膝をつき、項垂れました。

……しかし、おかしいのです。

熱いはずの胃液は、まるでお風呂のように心地よく、鋭い牙で貫かれたはずの脇腹には傷一つありません。それどころか、肌はツヤツヤとして、生前よりも血色が良いほどです。

「……あれっ? 生きてる? でも、ここはお腹の中だよね?」

ふと横を見ると、一緒に飲み込まれた数個の卵が、消化液に浮かんでいました。殻が少しずつ溶け始めています。

「……僕に、力があれば」

凛は、溶けゆく卵を必死に抱き寄せました。

「僕がもっと、誰にも負けないくらい強ければ……この子たちを、守れたのに……!」

その、純粋で切実な願いに応えるかのように。

凛の右手の甲に、見たこともない複雑な文様の紋章――**『無限(\infty)の刻印』**が浮かび上がりました。

カァァァァァッ!!

「わわっ!? な、何これ、まぶし――」

次の瞬間、大蛇の胃袋の中で、太陽が爆発したかのような光が溢れ出しました。

それは凛の意志とは無関係に放たれた、**「世界を再構成するほどの魔力」**の奔流。

ドォォォォォン!!

悲鳴を上げる間もなく、巨大な大蛇の体は内側から消し飛びました。

数トンの肉塊が四散し、ドラゴンの巣穴に静寂が戻ります。

「……え? ええええ!?」

爆風(のような自分の魔力)に吹き飛ばされたはずの凛でしたが、着地は驚くほど軽やかでした。

あたりを見渡せば、大蛇の姿は影も形もありません。ただ、凛の足元に、無傷の卵たちが転がっているだけです。

「何が起きたの……? 雷? それとも、お腹を壊したのかな、あの大蛇さん……」

自分の右手の甲で淡く光る紋章にも気づかず、凛はおろおろと周囲を見渡します。

その時でした。

――パリッ。

凛が腕の中に抱えていた一番大きな卵に、一本の亀裂が入りました。

「あっ……!」

パリ、パリパリッ!

勢いよく殻が弾け飛び、中から出てきたのは――燃えるような深紅の鱗を持つ、小さな小さな竜の赤ちゃん。

まだ濡れた羽を震わせながら、赤ん坊の竜は、凛の瞳をじっと覗き込みました。

「きゅ、きゅぅ?」

「……よかった。生きてたんだね」

凛がほっとして微笑むと、赤竜の赤ちゃんは、凛の指先にそっと鼻先を寄せました。

その瞬間。

【個体名:リンを「親」として認識。守護対象に登録されました】

という、世界からの通知メッセージが頭の中に響きましたが、凛は「お腹が鳴ったのかな?」と首を傾げるだけでした。

女神のツッコミ

「……凛。あの大蛇、この大陸の災害指定モンスターだったのですけれど。それを『腹痛』で片付けるのは、さすがに無理がありませんか?」

最強の自覚ゼロな少年と、彼を最強の母(?)と慕うドラゴンの赤ちゃんの旅が、今、幕を開けます。

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