取り敢えず、ゆっくり寝たい。頼むから!!
「ふぅ」
学園祭が終わり、俺たちの学園、『ラギア魔法学院』はいつも通りの体制にシフトした。
それはそれは早いもので、学園祭の余韻に浸る時間はろくになかった。
とはいえ、自由登校が当たり前の学校だ。
生徒たちの中では、学園祭の時の熱が冷めやらぬままの奴らも多い。
これを期に告白しカップルになった者、ポイントを大量に獲得し学年アップに強い前進を果たした者、目的を達成したことに酔い放心状態の者などなど。
まだまだ、熱は続きそうだ。
「ユ・ウ・マー!」
「…………はいはい、なに」
自分でも不思議なくらい、うっとおしげな声が出た。
「あーそぼー」
「遊びに来たんだったら扉吹っ飛ばすのやめろやっ!? 鍵とかもう今更だから言わんけども! なんなんだよ! 新しい魔法でも覚えたのか!」
「ユウマ荒れてるねー」
「なんでお前はそんな平然としてるんだ……」
頭を抱えて呻く。
この扉をぶっ壊した少女。
学園祭の時のこと覚えてねぇのか。
俺はあの時のアレが忘れられなくて夜も眠れないというのに……
あと、よくわからんが寝ると剣に引きずり込まれそうで怖いという理由もある。
なんで怖いのかわからんのだが、ものすごく怖いのだ。
「いやー、いつまでも引きずってもいられないしね」
「引きずれよ……俺が女々しいみたいじゃないか……」
「人によるでしょ」
また自分の嫌いな部分が増えそうだ。
なんで俺は男なのに女の子に敗北感を味わい続けなければならんのだ。
弱い男だからだよなぁ……
「でもほら、私だってね」
「なんだよ」
「ほら、あの時、さ。ああ言ったの、その、本心だから。忘れられないっていうか、今でも思い出せるっていうか、引きずってはいないんだけど、ね」
「あ、あぁ」
なんとなく居心地が悪くなってきたぞ。
さっきまでの満面の花のような笑顔ではなく。
ちょっとした照れを持った赤色の笑顔が。
なんというか、凄く眩しい。
「そ、その、ユウマ」
「あっれー? ユウマさんの部屋ってここですよねー?」
顔を赤くしたままなにかを言おうとしたハルの言葉を遮るように、廊下の方から声が聞こえて来た。
その声は最近よく聞いた声で。
「……実況ちゃんか」
「もー、その呼び方より、名前で呼んでくださいよー。あ、もちろん下でね」
「前にも言われたが、実況ちゃんの方が呼びやす」
「あ、下の方って、なんかやらしくないですか?」
「もういいよ。お前帰れよ」
人が真剣に話している時になにふざけたこと言ってんだ。
しばくぞ。
「ちょっ! 酷くないですかねー!」
「真面目に喋れこのバカ!」
「な、バカって! もしかしてユウマさん、S趣味ですか?」
「はぁ!」
尚馬鹿げたことをのたまった彼女の言葉が、よく理解できず疑問の声が上がった。
その声に対する彼女の反応は、聞かなきゃよかったと心から思う。
「だって約束したじゃないですか。その、お願い聞いてくれたら……私の体、好きにしていいって」
俺は凍りついた。
いや、俺というより、この場全体が。
実況ちゃんは唇に指を当て、顔を赤くしモジモジと上目遣いで、そんな核爆弾を投下しやがった。
え、え? あれ?
そんな約束、しましたっけ?
記憶にないのだが、俺の本能が「約束した! 約束したぞ! うむ、約束したした!!」とわめき散らして集中できない。
「ちょっと! キョウちゃん! 何ソレ!」
混乱する俺を無視して、さらに別の声が響いた。
そこには俺同様困惑する、『歌姫』。紫吹 恵の姿があった。
「まぁまぁお姉ちゃん。今はそんなこと置いといて」
「置いとけないよ! 私の妹がいつの間にかすごいことになっていることにお姉ちゃん動揺が隠せないよ!」
「まぁまぁまぁまぁ。そんなこと言いに来たわけじゃないでしょ」
じゃあ何を言いに来たというのだ。
さっきまでの変態発言を取り消してくれ。頼むから。
青い顔でゲンナリしながらそう願っていたら、恵さんがツカツカ俺の方へ歩いてくる。
その容姿からさん付けに違和感しかないが、年上というのだから仕方がない。
それに、今この場なら、冷静な判断のできる頼りになる味方だ。
例え、彼女に何を責められようとも、ツッコミ役を兼任してくれるのなら俺は甘んじて受けようと思う。
せめて自分の変態すぎる妹の手綱ぐらい握って欲しいもんだ。
そんなふうに思考を巡らせていると。
気づいたら恵さんは俺の目の前まで来ていて、ハルのすぐ隣で、俺をまっすぐに指差し。
赤い顔をして叫んだ。
「わ、私の唇を強引に奪って…………せ、責任とってよね!」
俺は何も言わずにベットから飛び出し脇目も振らず壊れた扉を全力で目指した。
なぜこうしたかはわからない。
だがこうするべきだと思った。
まぁ、間違いだったのだけど。
ガッシリ、俺の首根っこは掴まれた。
「ネェ、ユウマ」
俺の首根っこを掴む少女、ハルさんの底冷えするような声に俺の体が凍りついたようにいうことを聞かなくなる。
ほんの少しだけ、理性のきく頭が首をギギギと動かし、おそるおそるハルの顔を覗き込んだ。
「ヒッ!」
悲鳴が漏れた。
ハルは笑っていた。
そう、笑っていたのだ。
泣けてくる。
ハルは笑いながら怒っているのだ。
怒りすぎて一周回り笑えてきたのだろうか。
とにかく、笑ってるのに、目がこれっぽっちも笑っちゃいなかった。
「ドウユウコト?」
かくん、と笑えない笑みを浮かべたハルが首を傾げ俺を覗き込む。
ヒ〜……心臓がバクンバクン言ってるよぉ〜。
「あー、あのですねッ! ガクエンサイの時ですねッ! 説明しづらいいろいろがありましてッ!」
顔の筋肉が痙攣し声が裏返る。
「へー…………私のことフッた時に、ねぇ〜。説明しづらいことかぁ……ふーん。何したんだろうねぇ〜。きになるなあっ!」
「ヒィッ!」
語尾がちょっとだけ強かった。
ちょっとだけ。そのちょっとだけは、俺の全身を萎縮させ脳内を恐怖で埋め尽くすには十分だった。
「実況さんのか、かか、体を自由にってッ! しかも、そのお姉さんの唇を! 唇を強引に! ど、ど、どうゆうことッ!! 説明しなさーーーーい! ばかぁぁぁあああああああ!!!」
「ご、ごめんなさーーーい!」
謝罪の声は、虚しくハルの言葉に飲まれて消えた。
◇◆◇
「成る程。だいたいわかった」
「わかってくれたか」
「変態」
「グフッ!」
ハルさんにだけは言われたくなかったッ!
事の全てを、ハルさんに話した。
話したというか、吐かされた。
「俺のせいじゃない……俺のせいじゃないの……」
「いやー、すみませんねえ。彼女さんの嫉妬心を煽ってしまって」
「し、嫉妬じゃないもん!」
「おや。違うので? 彼女でもないらしいですし。じゃあ私がユウマさんと何をしていてもあなたには関係ないですよね?」
「うぐ……そうだけど」
「ユウマさんもそう思いますよねー。ね?」
「……いつか覚えとけ…………絶対に復讐してやる……絶対にだ……」
「ちょ! ユウマさん! 怖い怖い! ダークサイド落ちかけてる! 正気に戻ってぇ〜」
ハッ!
俺は一体何を……
「取り敢えず、だ」
パンッと手を叩き、三人の視線を引き寄せる。
「実況ちゃんと歌姫さん、何しにきたのか伺っても?」
「「(ユウマさん)(あなた)に会いにきました」」
俺に会いにねぇ。
「何のためにって、聞いていいだろうか」
「そりゃあ約束を」
「キョウちゃんちょっと静かにしててね。私があなたに会いにきたのは、謎のスキルが発動してしまったからです」
謎のスキルか。
まさか魔導士がスキル発現とは。
しかも急にって、珍しいもんだな。
「そのスキルが少々厄介で……」
「因みに、どんなスキルで?」
場をまとめようとしたのに、またも発された言葉は爆弾以外の何物でもなかった。
「スキル名『唇に宿る禁断の愛』」
「『王子の口づけ』のスキル保持者から一定期間一定以上離れると、呪いが発動するスキルです」




