学園祭・最終日:後編!!
もし俺に何かできることがあるのなら、と。
一種の決意を持って案内を求め、連れて行かれたその場より
「……」
俺は絶句していた。
「どうしました?」
「実況ちゃん? あの子が、そのさ。えーっと、お姉さん?」
「あそこのカプセルで寝ている女の子を指しているのならそうです。あそこのにいる少女が私の姉、『歌姫』です」
「マジかい……」
そこですーすーと寝息を立てている『歌姫』は、とても実況ちゃんの姉とは思えない幼い姿をしていた。
真っ白のワンピースというシンプルな格好は、何処か病人が着ている服のようにも思える。
とてもとても高校生レベルとは思えないあどけない寝顔を見て、俺は無意識に口を覆った。
「あの子にキスだって…………冗談だろ…………」
「勇魔さんは、グラマーな女性が好みですかー?」
「冗談を突っ込む余裕がねえ。ふざけんなとだけ言っとくぞ」
「なんでそんなキレ気味なんです?」
「そりゃそうだろ。俺にはお前の考えがわからないね」
あくまで見た目だけで年齢は、とも思わなくもないが。
どうかわかってほしい。こんな幼い姿の女の子の顔に自分の顔を近づけるところを第三者的視線で想像して見てくれ。
どーだ。犯罪としか思えないだろう。
「姉は嫌がるかもしれませんが、大丈夫です!」
「嫌がる時点で大丈夫じゃないだろ」
「それ以上に姉は呪いを解いてほしいと思っていると思います。いいえ、思っているんです」
「実況ちゃんの言葉だけじゃ判断しかねる」
確かに先ほどまで自分にできることが〜とか言っていたが。
あくまで、できる範囲でだ。
俺個人、あるいは実況ちゃん個人の考えで動いていい案件ではとっくになくなっている。
だが、何も手がないというのなら。と思う気持ちもある。
今の俺の持っている力にしかとなるのなら、なんとかしてやりたいのはやまやまだ。
何か別の案があるのかもしれないが…………いや、それはないだろ。
わざわさ実況ちゃんが、俺みたいな男に頼ってまで、しかも見ず知らずの男子にキスを要求するほどだ。
よほど切羽詰まっているという考えが無難だ。
「なんにしても、彼女の話を聞かないことにはなぁ……」
始まらない、と続けたいがそうはできないのだろうか。
「今の姉は、起きれないんです……」
「どうしてだ? 呪いで寝たきりとか言ってたが、霊体? とかになって意識はちゃんとあるんだろ? 昨日はミスコンに出てたらしいし。そうゆう魔法なのかは知らんが、そうして貰えばいい」
「できないんです……」
「そうか……」
はぁ〜〜〜……
溜息を吐きながらぽりぽりと頭を掻く。
「なんかのリスクか」
「はい。本来なら今日はなんとか動けると本人が言っていたので心配していなかったのですが、疲れなのか、それとも呪いの進化によるイレギュラーなのか、今朝になって今日は起こさないことが判明しまして」
「そんで、スキルの書を持ってかれたこともあり、俺に話をしたと」
「本当は探すつもりだったんですがね。其方から来てくださったのでラッキーでしたよー」
気楽にしやがって…………
いや、振舞ってるだけか。
こんなにおちゃらけているが、俺が断りを入れればすぐに絶望したような顔になりそうだな。
……してやろうか?
あぁ、いやいやいかんいかん。
今はそんなことをする暇はないのだ。自重したまえ。
落ち着け。俺のいたずら心。
「……だけどキスは嫌だよ……俺がその後どうなるか、わかったもんじゃねぇ」
「あれ? 勇魔さんはハーレムを築いてるんですよね? あの方達、そうゆう面では寛容だと思っていたのですが」
「あれがぁ? まっさかぁ」
俺がそんなことをしてみろ。
次の日から枕を高くして寝ることはおろか、この国にいて生きてられるかいよいよもって怪しいレベルだってのに。
「大変ですねぇ〜」
「あ、やっぱ無理っす。俺なんかじゃとてもとても。別の人に頼んでくださいな。んじゃ、お疲れ様でーす」
「わー、わー! ごめんなさい! すみません! 謝りますから! 謝りますから!」
何が、なーにが、大変ですねぇ〜、だ!
あぁ、そうだろうとも。お前にとっちゃ人ごとでしょうよ。
そっちがその気ならこっちだってもう付き合ってやる義理はない。
俺にとって歌姫は赤の他人。他人事にするのになんの罪悪感もない。
逆に、許可もないのに無防備な状態をまるで利用するようにして唇を奪うという行為自体に、罪悪感が半端じゃない。
「助けてください! お願いします! それに、勇魔さんにもメリットはありますから! 今回の呪いを解く力はきっと今後も使えますから、きっと!」
「……ほんとだろうな」
「えぇ! えぇ! ホントです!」
「取り敢えず、話だけ聞こうか」
「えぇー。それってアレですよね。話を聞くと言っただけでやるとは言ってない、とか言って逃げるやつですよね〜」
む……。なかなか警戒心が強いやつだな。
「あーっそ。まずは話からだと思ったんだがなぁ。まぁいーや。それじゃ……」
「言います! ぜひ教えさせて頂きたいですお願いします! 話だけでも〜、どうかー」
へへぇー……とばかりに頭を下げる実況ちゃん。
この印籠が目に入らぬかー。
「まぁ、聞かないことには話が進まないからな。取り敢えず、その呪いを解く方法とやらを教えてもらおうか」
「ではまず、『男前』の獲得をお願いします」
「それはもう獲得した」
「早いですね!」
「だから元々返すこととかできなかったということさ」
まぁ何かあったときのため本自体はずっとスマホの中に入れといたけどね。
「そのスキルにですね、一定条件を満たすことで手に入る解呪スキルがあるんですよ」
「ほほう。その条件とは」
「恋愛感情を異性に向けられていること。自分は今それを受け入れられないという状況であること。あと、決められたキーワードを唱えること、ですね」
キーワードはともかく。取り敢えず他の前提条件はクリアしていると見ていいのだろうか。
「でも、解呪できたとして、それって良くて一日くらいなんだろ?」
「姉の呪いは持続すると言われています」
「なぁ、それってさ……」
「はい?」
「毎日俺がキスしろって、こと?」
「そうなりますね!」
「そうならねぇよ! アホか!」
キスすることすら嫌なのに、それを毎日だと!
ふざけんな!
「はぁ……ま、やるにしてもやらないにしても、獲得しないことには始まらないな」
男前スキルを発動する。
STRに補正がかかり、俺の体の周りを薄い赤色のオーラが覆った。
「キーワードは、『許されざる恋の悪魔を退け・あぁ、あなたがあなたでないのなら・どうしてあなたは……」
◇◆◇
「派生スキル……『王子の口づけ』」
「獲得できましたか! なんか聞いてたのと違うような気もしますが……まぁ問題ないでしょう!」
「あ、あぁ」
うん。口づけを行なった対象が異性であった場合のみ、解呪の効果が発動するみたいだ。
効果的にも実況ちゃんが言ってるのであってると思うぞ?
「ささ! ではさっそく!」
「いや、でもなぁ……」
確かにこれなら、状態異常にかかった時に色々と役に立つかもしれない。
緊急事態なら、人工呼吸だとでも思えばいいだろう。
そうとは思うのだが。だがなぁ……
いや、確かにこんなスキルを教えてもらったんだから、それなりの誠意ってもんが
いや、でもなぁ〜。
「い・い・か・ら! は・や・く!」
こちらは色々と悩んでいるというのに。
その人ごとの物言いに、イラっときた。
「あのなぁ! この人はあんたの」
「わかってますよ!?」
俺の怒声に被せるように、実況ちゃんの叫びが響いた。
「私だって考えてますよ! 姉が望まない結果かもしれない。姉を傷つけてしまうかもしれない。私のことが……嫌いになっちゃうかもしれない…………他に手はないのか探しましたよ! それでも…………これしか……なかったんですよ……その時行われていた魔力実験は特殊な物で、そんじゃそこらの解呪アイテムじゃ効果がなくて! …………これしか…………これしかっ……」
堪えていた感情が爆発したのか、大声でまくしたてては俯き顔を両手で覆い。
実況ちゃんは嗚咽を漏らし始めた。
チッ!
「だぁ! もう! しょうがねぇなぁ!」
半ばヤケクソ気味に走って今尚眠る少女に近づいた。
確かに色々と言いたいことはある。
だけど、ここで尚迷ったらアホだろう!
できるだけ一瞬で終わらせよう。
ちょっと触れたら離そう。そう、ミリ単位で、あとで言い訳ができるように。
ほとんど触れるか触れないかのギリギリのラインを意識しながら、慎重に顔を近づけていく。
くっそ! 罪悪感が……いや、許せ!
すーっと、少しずつ顔を近づけていき、そして触れるか、と思われた瞬間。
「何やってるんですか! 早くしてくださいよ!」
いつの間に泣き止んだのか、音もなく俺の後ろに立っていた実況ちゃんがいきなり俺の頭を下に押した。
そんなことをすれば何の警戒もしていなかった俺のこと。
どうなるかなど一目瞭然。
「ふむぐ!」
そりゃもうしっかりと、キスさせられた。
あぁ……今世、さようなら。
そんなふうに青い顔をしていたら、俺の中のスキルが発動し少女をオレンジ色のオーラで覆った。
「おお! これは!」
「ぷは! これはじゃねぇわ!」
取り敢えず実況ちゃんをしばいてから、再び少女の方へ向く。
「あ、あれ? なんか聞いてた効果と違うような……」
「はい?」
実況ちゃんのセリフが震えていた。
「いや、その、こんなオーラみたいなの纏うとか、聞いてないんですけど!」
「えぇ! どうすんだよ! なんか違ったか!?」
「効果はどんなものだったんですか!」
「ちゃんと解呪効果だったよ!」
おいおい勘弁しろよ。
二人とも冷や汗ダラダラで少女を見守り。
そして数秒後
「…………う……ん?」
「お姉ちゃん!」
少女はしっかりと目を覚ました。
◇◆◇
「あれ? 実験は……? え、えっと? えぇ! な、なになに? どうしたの! キョウちゃん何で泣いてるの? よ、よしよし。何処か痛いの? 誰かにいじめられたの?」
「うわんうわん! 違うよぉ〜〜〜! お姉ちゃんが体で起きた〜〜! って! 記憶は! 幻影時の記憶がないの!?」
泣いたかと思ったら驚愕の声を上げる。
まったく忙しいやっちゃ。
「幻影? よくわかんないけど、記憶にはない、かな」
「う……嘘……」
呆然としたように実況ちゃんが目を見開き硬直する。
ど、どうゆうことだ。トラブル発生か!
すーっ……と呆然とした顔のままこちらに振り向く実況ちゃん。
なんかめっちゃ怖い。
「お、おい……」
「う」
「う?」
大丈夫か? と聞こうとしたところで、実況ちゃんが何か言葉を発した。
それを聞き返した瞬間だっただろう。
ぽかんとした表情がクシャリと涙目に変わり。
「お姉ちゃんの呪い、解けてる〜〜」
ボロボロと涙を流し、俺に顔面ダイブしてきた。
「ありがとうございます! あ、あり、ありがとうっ〜〜! ありがとうぅぅ〜〜〜〜っ! うわ〜〜〜ん!」
な、何がどうなってるんだ。
おそらく、俺と実況ちゃんの姉、紫吹 恵さんの考えは一致していたと思う。
しばらくの間、実況ちゃんは俺の胸で泣いていた。
◇◆◇
その後、姉妹水入らずの話を邪魔しないという建前の元。
なんかお姉さんが怪しげな目でこっちを見てたので、ちゃんと説明してもらおうという本音を隠して逃げるように退出した。
ちゃんとライブには出てくれるそうだ。
今は誰もいない裏庭のベンチに腰を下ろす。
取り敢えず、一件落着といったところだろうか。
『何が一件落着じゃ馬鹿者め』
「……師匠か……頼むよ、今は一件落着ってことにさせてくれ」
『告白されてフった大切な女を放り出し、自分は他の女とイチャコライチャコラ。いいご身分じゃのうええ?』
「なんか今日の師匠めちゃくちゃ辛くね! 言葉の一つ一つが的確に俺のハートを貫いてくるんだけど!」
へへっ……俺のMPはもうゼロだぜ……勇者だからMPはないけどって、このネタ前もやったな。
『主があまりにヘタレなのでな、何度怒鳴ってやろうかと思ったことか』
「…………うるせぇなぁ。俺が決めたことにぶちぶち口出してくんじゃねぇよ」
『……ほう?』
ドスの効いた返答なこって。
「黙ってろって言ってんだ。俺のやるべきことは俺が決める。及びじゃねぇんだよ。引っ込んでろ」
『……言うではないか。青二才が』
低く、声からピリピリとしたプレッシャーが伝わってくる。
『どれ、ちと躾けてやろうかのぅ』
「はっ! 俺が刀を出さなきゃ引きずりこむことすらできないくせしてなーに言ってやがる」
『ハルに頼んで、主のポケットに我の水晶を潜ませておるがな』
そう言った瞬間俺の右ポケットが小さく光った。
「ゲッ!」
パシュン!
俺の視界が一度真っ白に染まり、気づけば師匠の精神世界。
引きつった笑みでダラダラと冷や汗が止まらない。
師匠は何の感情も見えない表情をしながら、俺に剣先を向けていた。
冷や汗にブーストがかかる。
イヤー、調子乗りすぎたわぁ〜。ど、どーせ何もできないし、ちょっとだけ反抗してストレス発散しようとしたけど、相手間違えたわ〜。
「な、なぁ師匠? わかってくれる、よな? ほら、俺たちって、その、言い合える間柄じゃん? それにさっきのも見てたでしょ? イライラしちゃうよな〜ってことはわかってるよね? だから聞いてくれたんだよね? ね? 当たったちゃうのも無理はないわ〜、しょうがないから広い土俵で受け入れてやるか〜、的な?」
「……言い訳は終わったか?」
「イヤーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
地獄の特訓メニューというオブラートに包まれていたが。
ただのリンチだった。
はっ!
起きた時には現実世界で、すでに夜になっていた。
あれ? 何があったんだっけ?
思い出そうとしたのだが、全身という全身に寒気とは到底言い表せない謎の悪寒が走り
俺は考えるのをやめた。
「やばいな。もうこんな時間か……。ライブ会場行っとかないと……」
人気のない裏庭から出ようとしたところで、俺の声は止まった。
「その、おはよ。ユウマ」
「ハル」
そこにはハルがいたからだ。
「えっと、その」
声が詰まった。
何を行ったらいいのかわからない。
ハルの表情はすごく優しげだ。
まるで何事もなかったかのような、そんな表情。
その表情に、嫌な予感がした。
俺にフラれたことなど、どうでもいいと思えるほどのものだったのではないか、と。
「そんなことないよ?」
まるで俺の考えを読んだかのように、ハルは言葉を口にした。
◇◆◇
「そんなことないよ?」
なんとなくユウマの考えがわかったので言って見たけど、どうやら正解だったみたい。
「そんな驚いた顔しないでよ。今のは、分かりやすかったかな」
そう言ってクスクス笑う。
「ユウマにフラれて、すごくショックだったし。悲しかったし、すごく泣いたし」
なんかユウマが苦しそうに呻いたけど、取り敢えずやめる気はない。
私だって傷ついたのだ、ちょっとは苦しみなさい。
「しかも一番辛かったところは、『他に好きな人はいないけど私とは付き合いない』って言ったこと。これ酷くない? 明らかに私のこと好きじゃないと言いながら、逃げ道を作っとく。これって卑怯だと思わない?」
「……か、返す言葉もございません……」
ユウマはぐうの音も出ないとはまさにこのこと。と言うように顔を伏せ、今にもゴフッと血を吐きそうになっている。
「要するにどっちつかずであったことで、余計にハルを傷つけたと」
「え? あ、う、うん」
今、ユウマの胃に風穴が空いた気がする。
「で、でもね、やっぱり嬉しい面もあったんだ」
急いでフォローを入れる。
ダメージを受けているユウマを見てると可愛いからすこし虐めたくなっちゃうけど、我慢我慢。
「だってね。フラれたけど、まだチャンスはあるってことだから」
「でも……」
「ユウマさ」
私の呼びかけを聞いて、うつむいていたユウマが私の顔をまっすぐに見た。
ちょっと顔が熱くなった気がする。
「私、諦めるのって好きじゃないし。しかも、諦めないって素直にいうのも、正直好きじゃないの」
だって……その恥ずかしいし、ね?
「私は、絶対にあなたの手を離さない。たとえあなたが振り払っても、手繰り寄せて、また掴む」
だからこう言うね。と前置きを置き、私はそう続けた。
「今度は、あなたの方から告白させてみせる! あの時オーケーしていれば良かったって、絶対に後悔させてあげるんだから!」
私はユウマを指差し、自信満々に言う。
「だってあなたは、絶対に私を選ぶもの」
言外に、絶対に惚れさせてみせると決意を込めて、ユウマに強く宣言した。
◇◆◇
「だってあなたは、絶対に私を選ぶもの」
俺を指差して発せられたその言葉に、俺は声を返すことができなかった。
否、言葉を発することができなかった。
とにかく、俺の中で何かが動いて、頭の中をぐちゃぐちゃにし、何も考えられなくなった。
ハルの自信満々な表情を見て、初めて。
俺は、暑くもないのに自分の体が熱く感じた。
更新が遅くなり誠に申し訳ありませんでした!
活動報告にも書きましたが、リアルが非常にとんでもないことになっておりまして。
謝罪の意味も込めて、後編はすこし長くなっております。
あれ? いつも通りぐらいかな?
いや、いつもより少ない……
いやいや、内容的にはいつもより忙しく忙しないでしょう!?
さて、学園祭はこれにて終了です!
ライブ会場に行っていたら、またなんやかんやあったんでしょうが。
今回はハルちゃんにスポットを当ててたのでね。
ハルちゃん大勝利です。
まぁ同時に大敗北でもあるのですが。
今後のハルちゃんの活躍に期待です!
次の更新は、できるだけ早く出します!!




