学園祭・最終日:前編!!
顔を真っ赤にして、泣くんじゃないかってくらい目を潤ませて、泣きそうで、弱々しくて。
そんなハルを前に、俺は息を詰まらせる。
今俺が抱いている感情は、なんだろう。
歓喜? 険悪?
後者はありえない。
歓喜はある。今まで誰からも必要とされていないのだと思い続けていた俺だ。
そんな風に言ってくれる相手に対しその感情を抱くのは当然だろう。
だが、それ以上に強い感情がある。
なんだこれは。
「…………ッ……ハル…………俺は……」
何か言わなければならない。
だが、何を言えばいいのかわからない。
頭の中が真っ白になり、ぐらぐらと視界は歪み、思考の整理が追いつかない。
困惑? それに似た、この感情に今気づく。
俺は今、『恐怖』している。
勘違いして欲しくないから言うが、ハルに対してではない。
ハルを『傷つける』という事柄自体にだ。
俺は、ハルを傷つけないように返す返事がわからない。
いや、わからないは逃げだ。
なんと言えば悲しまないのか。そんなの、誰だってわかるだろう。
だが。今俺がその言葉を言えばそれは嘘であり、俺たちの関係は今までとは変わったものへ変貌を遂げるだろう。
応えられないことが怖くて、今の俺の大切な何かを壊すのが怖くて、ハルを悲しませたくなくて、ベルを悲しませたくなくて、誰かを悲しませるのが、怖くて、怖くて怖くて仕方がない。
全員平等に幸せに。なんて、夢物語もいいとこだ。できるわけがない。誰だって、自分が一番になりたいに決まっている。
そうじゃかったら『好きじゃない』だろ。本当の好きってなんだよ。
二番でもいい? 三番でもいい? 複数でもいい?
アスレチックの時には「ハーレムエンド上等!」などとほざいたが、真面目な話だ。ふざけている場合じゃない。
バカなのか? 複数は『妥協』だろ?
今のその環境から抜け出せないから、甘んじて、自分の理想とは違う自分を選択する。
妥協で構わないなんて言っているそれが、本当の『好き』なのか?
『愛』なのか? そんなものが、愛なのかよ。
……違う、よな……そうじゃ……ないよな……?
わからない。なにせ俺にはそんな経験ないのだから。
なにを言おうが知ったかぶりもいいとこだ。
でも、選ばなければ悲しみが生まれる。
悲しむ人を俺は見たぞ? 自分だけを見て欲しくて、特別になりたくて、誰よりも、自分を愛して欲しくて。
そして、叶わなかった者の悲しみを、俺は何度も見て、知っている。
なら選ばないのか? それが正解なのか? 選ばない、その選択は唯一『全てを捨てる』選択だ。嫌だろう?
なら全てを選ぶのか? ……何度も言わせるな、くだらない。
ありえないんだよ。そんなもん。その選択は『全て中途半端に悲しませる』選択だと思え。
好きというのは難しい。
『誰かが悲しみ』『全て中途半端に悲しませ』『全てを捨てる』選択しかないのだから。
それが全てと言ったら暴論にすぎるだろう。
だか少なくとも、俺は、そう考える。
だが、答えなければいけない。
ならば、俺の答えは……
「ハル。俺は……」
◇◆◇
「ふぅ…………」
ボフンと軽い音が上がる。
ホコリが……まぁどうでもいいか。
うつ伏せで顔から倒れるように布団に飛び込み、もぞもぞ動いて仰向けになる。
「………………寮に戻りたい」
ギシギシといやに音がなるのだ。
あまりよく扱われてないのがわかる。
普段なら気にならないことのはずなのに、だいぶ敏感になってんな。
もうこんな時間ということで、医務室の脇にある個室で仮眠をとることにした。
した、のだが。
とてもじゃないが眠れるような状態じゃなかった。
出てくる言葉もウエイトが重いふわふわとした物ばかり。
頭の中は一つのことでいっぱいで、ぐちゃぐちゃだ。
「好きです、か」
今尚、隣の部屋で寝ている? 女の子が、俺に言ったのだ。
間違いでも、勘違いでもなく、この俺に。
初めての告白である。
「う……うお。わかっているつもりだったけど、恥ずいもんだな」
ハルの顔がホワホワと浮かび上がり、イカンイカンと首を振って消し去る。
まるで縋るような、懇願するかのような、つい手を取ってしまいそうになるほどに可憐で、儚げで。
羞恥で赤くなりながら、泣きそうなあの顔が、脳裏から離れな……
って! 思い出すなっつってんだろ!
「俺は…………」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「とても寝れねぇや。ハルは、寝てるっぽいな。起こさないように気を付けねぇと」
だいぶ肝が太いな。
なんというか、俺の方が繊細? 虚しくなってくるな。考えるのをやめよう。
ドアは魔力を流れることで自動でスライドする。
いつもは勿体無いのでしないのだが、今回ぐらいはいいだろう。
音が発生しないのだ。
ガラガラいうよりはマシだろう。
「さて…………どこで時間潰すか……」
「…………すぅ……すぅ……」
「なにやってんのこいつ?」
そこには、医務室の壁に背を預け、女の子座りで寝息を立てるベルの姿が。
「まさか、聞いてたのか?」
盗み聞きとは、なんとも趣味が悪い……
まぁベルだから別にいいけどさ。
「はぁ……風邪引くぞ」
ベルを抱き上げて再び中に戻り、さっきまで自分が使っていた個室に入りベットに寝かせる。
にして軽いな。この軽い体のどこにあんな力が……
「これでよし。んじゃ、今度こそ行くか」
まぁゆっくり寝てろ。
まだ夜開けてないからな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふわぁあ〜。今になって眠くなってきた」
あん? ミスコン会場が騒がしいな。
まだなんかやってんのか? 流石に頭おかしいだろ。
「…………っと。あれ?」
覗いてみると、皆さん掃除してた。
「あ、実況ちゃん」
せっせと働き会場を綺麗にしている人たちの中に、実況ちゃんも混じってるのに気づく。
あーあー。惜しげも無く大口開けてあくびしちゃって。
全くはしたない。
「うーーす。お疲れーっす」
「あ、ユウマさん! おはようございます。ちょうどよかった。後で、この掃除が終わったらお時間いいですか? ちょっと伝えないといけないことがありまして」
「あぁ。大丈夫だけど」
「手伝ってください」
「もうちょっとなんかあるだろ……」
「昨日すっぽかしたんだから、それぐらいしてくださいよ!」
うぐ。
確かにそれを言われると弱いな。
「だが断る!」
「えぇぇ! なんでですか!」
「めんどいからだ!」
「ゴミか!」
「誰に言ってんだ! 当然だろ!」
それと口悪いぞ実況ちゃん。
まぁそれが素なんだろうな。
「あのくだらんテンションはどーした」
「流石にクールダウンですよ〜。喉が痛いです……」
「痛くなるぐらいならやらなきゃいいのに」
「なにをバカな! 実況は私の生きがい! 私の血肉ですよ!」
「……あ、そう」
実況中毒者……
「今不名誉なこと思いましたね」
「ナンノコトカワカラナイナ」
どうしてこう勘がいいんだ女の子って!
「そこ! サボってないで手を動かせ!」
「あ、すみませーん!」
「んじゃ」
ガシ!
「…………おい、なんのつもりだ」
「自然な流れで帰れるとでも思いましたか? 甘いんですよ」
ギリギリギリギリ
掴まれた腕を引き剥がそうと力を込め、相手も負けじと引っ張る。
「では、ユウマさん」
くっそ! 魔導士って力弱いんじゃなかったっけ?
魔法か! こいつ掃除するのに魔法使ってたのか!
なんて魔力の無駄遣いを……魔導士って生き物がすげえ羨ましく思えてきた。
「はい。ゴ・ミ・ぶ・く・ろ」
「せめて語尾にハートをつけろ……ちくしょう……」
働きたくないでござる。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「朝からの労働……あんた初日からずっとこんなことやってんのか?」
「まぁ……」
「いつ寝てんだよ。休めてないだろ」
「いや。それが結構寝てたりするんですよ。一日六時間寝てますね」
「健康的だなオイ!」
はぁ………………ふむ。
「な、何見てるんですか」
六時間、ねぇ。
「…………お前のぶんもやっといてやっから、寝てきていいぞ」
「え? なに急に優しくなってるんですか? どうしたんですかちょっと怖いです。なんですか? なにが目的なんですか?」
こんのクソアマぁ
「あーそうかよ。なんでもねえっつの」
「それと、お前って呼ぶのやめてくださいよ」
「だって名前知らねぇもん。なんての?」
「ふふん。乙女の名前を聞き出すのは簡単ではありませんよ?」
「じゃあ実況ちゃんでいいや」
適当に返したらゴミ袋で殴られた。
なんか今めっちゃ痛かったんだけど!
おい。今急いで取り出したそのでかい岩はなんだ?
ゴミじゃないよな? なんでゴミ袋にそんなもん入ってんだ? ん?
「そのなんの興味も持ってないような目やめてくださいよ……ちょっとどうすればいいのかわかりません」
…………はぁ……
「悪かったよ。これはなんつうか、もう習慣みたいなもんだ。直せない。別にあんたに怒ってるわけじゃないし。ただ、特に仲のいい相手でもない相手と接する時に、こんな風になるんだよ。自己防衛ってとこだな」
傷つかないためのフィルターだ。
最近言われなかったし、ハル達のおかげで少しは良くなったのかと思ってたけど、そんなことはなかったらしい。
一人になればこんなもんか。
会長さんはいつも通りの態度で接してくれたけど。それは会長さんが素晴らしい人格者だったからってことか。
「そうですか。そっか。別に私といるのが嫌ってわけじゃないんですね? ならよかった。私こんな性格ですから、人に嫌われることも多々ありまして、だから、その、痛みが誰よりもわかるっていうか。だから、嫌だっていうか」
「人に嫌われるのが嫌っていう気持ちは、わかるよ」
「あー、もう! なんでこんな暗い話になるんですか! あ! そうそう! ユウマさんに、いや、ミスター・ラギアさんに大事なお話があるんです!」
「はい?」
大事なお知らせ?
賞金も商品ももらったし、もう終わった話だろ?
まだなんかあったっけ?
「ほら、言ったじゃないですか。ミスター・ラギアになったら、ミス・ラギアとなんかあるかもよって」
「あぁ、なんか言ってたな」
「おめでとうございます! ミス・ラギアに選ばれたのは二年Aクラス・『眠りの歌姫』こと『紫吹 恩』さんです。つきましては、本日学園祭最終日の大トリ、彼女のライブイベントで、あなた限定の特等席を設けました。…………と、言いたいところなんですが、その〜、言いにくいのですが〜、ちょっと問題がありまして」
「う〜っわ」
……嫌な予感…………
◇◆◇
ちょっとしたまどろみの後、私の意識は覚醒した。
(………………あぁ……)
見覚えのない白い天井を見上げて、すぐに昨日の出来事を思い出した。
忘れられるはずもない。
今までの人生の中で、何よりも頑張って、何よりも勇気を振り絞って、一番頑張って、そして
「そっか……私」
ベトから起き上がって、部屋の扉を見ながら、一人つぶやいた。
「フラれちゃったんだっけ」
主人公がハーレムに対して否定的で辛すぎる……
作者はハーレム大好きなのに……
ハーレムにだってそれぞれあるっていうのに。
まぁユウマくんは、親父さんのことがあって、それがハーレムの全てだと思ってるからなぁ。
仕方ないのだろうか。




