闘龍見習いっ!推して参るっ!!
「―――……ペッ」
「そう睨むな。凄んでおるのかどうかは知らぬが、態度を悪くしても相手は怯まぬぞ」
口の中に広がる気分の悪い原因を乱暴に吐き出す。
その液体はドロッと鉄の味で、真っ赤に染まっていた。
「うっせぇっ!?」
優雅に腕を組んで俺のことを見てくる龍王に、新たに取り出した剣を構え飛びかかる。
ギャリンッギャリンと。
俺は剣、相手は素手。
打ちあう音が響く。
俺は全身全霊全力でやっているのに対し、相手はその場から動こうともせず片手一本。
この3日間。常にこの感じだ。
とある刀をゲーム上でだけ『装備』に設定し眠ることで。
夢の中でその刀に眠る精神体。決闘龍王と決闘の儀を行うことができる。
その決闘で勝利をすれば、決闘龍王と契約を結ぶことができ、その力を与えられる。
だが、何が決闘か。
手加減に手加減を重ねた状態で、手抜き。
その場から動かず、片手のみ、相手が自分に傷一つでもつけられれば相手の勝ちという縛りプレイ。
これのどこが決闘なのか。
決闘龍王が鼻で笑える。
奴は言った。
『お前とは決闘する価値すらない』
と。
『お前がどうしてもというから、相手をしてやっているだけだ』
と。
挑まれてそれを承諾したんなら、何であれ全力を出せよっ!
ふざけんなっ!
この3日間、我慢に我慢を重ね閉じ込めていた思いが爆発した。
心の中で叫び続けていたものが言葉となった。
決闘ってのは尋常なもんだっ!
それに手加減なんぞっ! 相手に失礼以前に、それを受けた自分自身、いや、その『決闘』という言葉を汚す行いだっ!
何が龍王だ!
何が決闘龍王だっ!
お前に決闘龍王を名乗る資格なんかないっ!?
俺はそう叫んで剣を振るった。
何故だろうか。
奴の動きが止まり、俺の剣は弾かれることなく真っ直ぐに奴の顔を向かっていった。
奴はその細められていた目を見開き、俺の顔をじっと見ていた。
自分の顔に迫る剣なんか無視して。
そしてその驚愕に塗り固められた表情が、溶け去り
フッと微笑を浮かべたのだった。
そして俺の剣は
奴へ届いた。
◇◆◇
「スー、ハーー」
目を閉じて荒く躍動する心臓を宥める。
状況を整理しろ。
今、俺の目の前にはこちらを睨みつけるドラゴンがいる。
そもそもこの試験にドラゴンなんて魔物がポップするなんて聞いてないが、
そんなことを言っている暇はない。
逃げられるか?
無理だ。
ハルはどうだ?
逃げた。多分逃げきれた。多分。
「待ってて」とか言ってたが、帰ってくるわけない、筈、うん。
うん。
「ハァ〜……」
今度のは深呼吸ではなく、ただのため息だった。
やっぱ無理だよなぁ〜
あいつ
「キュルオウゥウワアアアアアアアアアアアア!」
バカだもんなぁ。
最近、苦笑いが増えた。
そんなふうに考えながら、その立派な顎をふんだんに使った突進を繰り出してくる芸のないドラゴンに剣先を向ける。
にしても、こいつでかいなぁ。
どっぷりとした腹に象みたいに図太い足。でかいはずの頭が小さく見えるわ。
そんなに早くないし、完全にタフ重視な奴かな。
色はどぎつい緑だが。
「闘龍6代目当主。5代目当主・決闘龍王ブリューゲルが弟子。荒杭勇魔! 推して参るっ!」
考えておいた決め台詞。
聞いてくれる人がいないのが悲しいが。
これからも使っていけばいいさ。
「決闘流剣術 『無足』」
構えたまま、その姿勢のまま、こちらから滑るように一気に間合いを詰める。
勇者の国では、足運びって言われてたっけな。この移動法。
ドラゴンの顎先に音もなく移動する。
ギョロリと目玉を動かすドラゴンを横目に体を右に捻り、いや、体を回転させ、
その勢いのまま下から思いっきりかち上げた。
ドラゴンの皮膚が硬いのか、そういう技だからなのか、峰じゃなく刃の方で降ったのだが、切れることはなく、上に吹っ飛んでいく。
轟音がなるが、刀の、もとい刀に宿った龍王、ブリューゲルのサポートで、俺の体に対する負担は非常に少ない。
仰向けのように空に舞い上がるドラゴンが怨みがましい表情でこちらを見てくる。
『……気を抜くな、まだ終わりではないぞ』
(うわっと、すみません)
そうだ。まだこの剣術には続きがある。
刀を下段に構え思いっきり跳躍する。
上に弾き飛ばされたドラゴンの背に迫ろうとした瞬間。刀を大きく振り絞り。
「決闘流剣術! 『水月・(津波)』っ!?」
技名を叫び、振り下ろすように刀の刃を当て、そのまま切断せず力任せに地面に叩きつけた。
グルングルンと異様な回転を見せたドラゴンは頭から地面に激突。
舞い上がる砂埃を刀で払い俺も地面に戻る。
「さて、いまのでどれぐら―――、はー」
ダメだ。
無傷でこちらを睨む某巨大なトカゲ様は、俺の手には負えないようです。
このリオ○イアがっ!
まずは尻尾からじゃっ!
『主人は全くもって弱い。そんなことではあそこに転がっている木偶には勝てんぞ』
(その主人っての止めてくれよ。俺は師匠から剣術を教えてもらう弟子なんだから。それと、木偶なんて言ってやるなよ。あいつ、ドラゴンって事は師匠の仲間だろ?)
『断じて違うっ! 我ら誇り高き龍族を薄汚い魔物なんぞと一緒にするなっ!』
(は、はいっ! ごめんなさい!)
んなこと言われたってなぁ……わかんねぇよ。
『主人は人と魔物を一緒にするのか?』
声が非常に低い。
怒ってらっしゃる!
怖ぇ……
(別にそんなつもりはないんだけどさ。つか、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう! 今にも襲いかかってきそうですよ! あの魔物)
何か動かないのが不思議なくらい、微動だにしていない。
ダメージは効いている感じはしないし、なんか微妙に力んでいるように見えますが、……なんか嫌な予感……
バサッと禍々しい翼を広げたドラゴンが、空へと舞い上がり俺のことを見下ろしてきた。
嗚呼……嫌な予感、的中。
(師匠。あれに対する対策、なんかないですかね。)
『主人も飛べば良い』
(俺は生物学上、人間なのですが)
『主人が我と念話ができている時点で、我との契約によってのスキルを習得しておるはずじゃか……』
その言葉でふととあることを思い出した。
○●○
『決闘龍王・ブリューゲル』
効果:使用時に『決闘龍王』の力と能力を得ることができる
○●○
・・・・・
おぉっ!
すっかり忘れてた。
ど、どんな能力だ!
スマホを取り出し、ステータスを視覚視認できるように設定する。
急げっ!
○●○
名前:荒杭勇魔
キャラクターネーム:ユウマ
(リアル)LV:17
称号:決闘龍王の加護(全ステータス+1000) (NEW!)
決闘の誓い (NEW!)
闘龍を継ぎし者(LV1) (NEW!)
パラメーター
HP:130/130(+1000)
ATK:70(+1000)(+10)
DEF:30(+1000)(+10)
AGI:73(+1000)
INT:45(+1000)
MP:0(+0)
装備
決闘龍王ブリューゲル (NEW!):ATK+20・称号+『決闘龍王の加護』『決闘の誓い』『闘龍を継ぎし者』・能力 +『闘龍権限・決闘』『龍王権限・龍化』
魔導書:INT+10・魔導『言語』
魔導制服 (ボロ):DEF+1
スマホ:INT+5
シューズ:DEF+2・AGI+1
身魂接続:決闘龍王ブリューゲルの魂 (NEW!)
契約魔導:言語 (NEW!)
能力:勇者権限・想像
闘龍権限・決闘 (NEW!)
龍王権限・龍化 (レベルI) (NEW!)
派生:勇者権限・想像 → 『創造』『命名 (NEW!)』『武器創造 (NEW!)』『創造の歪み (NEW!)』
:闘龍権限・決闘 → 『攻撃力強化(微) (NEW!)』『防御力強化(微) (NEW!)』『活力 (NEW!)』『決闘の証 (NEW!)』
:龍王権限・龍化 (レベルI) → 『逆鱗転換 (NEW!)』『部分龍化 (NEW!)』『龍力解放(レベルI) (NEW!)』
○●○
……おぉう。
色々増えてんのな。
スキル派生とか見たの、想像の派生が『創造』しかなくて絶望した時以来だ。
ところどころ呼び方が統一されてねぇけど、まぁそんなもんか。
俺の常人以下だったステータスが、人間離れしたもんになっちまった。
でも状況が状況だけに心から喜べんわぁ。
(なぁ、師匠)
『なんだ』
(ちょっとこの、新しく増えてるスキルについて詳細が知りたいからさ、俺の体使っててくんない?)
『何分だ』
(20分ぐらい)
『心得た』
べ、別に空に飛んだドラゴンが怖いとかじゃないもんね。
強くなんかねぇし〜、スキルが役に立つかどうか確認しなきゃいけねぇだけだしぃ〜。
会話が終わった直後、俺の精神は体の中に潜った。
周りは薄暗く、大きなモニターのような物が一つあり、自分を客観的に見ているような感覚に陥る。
簡単に言っちゃえば俺の体をブリューゲル師匠が使ってくれてるから、俺は精神内で考え事に集中できるってことですね。
でも精神体には限界があって、30分ぐらいが限度なのだとか。
ふぅ。んじゃ最初から、スキルの説明行ってみますか。
○●○
『命名』・想像の力により創造された武器に名をつけることで、その武器にランダムで補正をつける。
『武器創造』・武器専門の想像。想像する時に知識の少量のサポートと、使用時間の限界が少し伸びる。
『創造の歪み』・歪み始めた『想像』の形。
『攻撃力強化(微)』・ステータスの攻撃量に+10
『防御力強化(微)』・ステータスの防御力に+10
『活力』・精神的な苦痛を和らげ、やる気がみなぎる。スタミナが少し増える。
『決闘の証』・戦えば戦うほど、決闘をすればするほど能力が急激に上昇する。相手が強ければ強いだけ、決闘中にステータスが上昇し続ける。経験値特大アップ。決闘した相手と友好を結ぶと、相手のスキルを一つ得ることができる(派生スキルのみ)(相手のスキルは消えない)。
『逆鱗転換』・自分のくらったダメージを相手に返す。ランダムで何倍かが決定。ダメージを与えられた相手にのみ有効。(例 AとBとして、AにくらったダメージはAにしか返せない。AとBに攻撃を食らったとして、返せるのはそれぞれ一人にくらったダメージのみ)
『部分龍化』・自分の体の一部を龍化させることができる。全身を龍化させる『龍化』よりもステータスの上昇は落ちるが、体に帰ってくる反動はそのぶん少ない。一部が突出した物になりやすいので、戦闘バランスが崩れやすいのが難点。
『龍力解放(レベルI)』・龍化している時にのみ発動可能。龍化して上昇しているステータスを倍に底上げする。レベルが上がるにつれ解放限界時間と解放回数が増える。反動? 後のオ・タ・ノ・シ・ミ♡
○●○
うわぉ……
なんかよくわからんが凄え……
流石っすブリューゲルさん。
うわっめっちゃ強そうやん!
ひゃっほうっ!
(師匠〜もう大丈夫ですよ〜)
(うむ。そろそろ限界であるのでな。戻るとしよう)
そして、モニターも見ずにスキルだけを見ていた自分を激しく殴りたくなった。
クリアになった視界には、バッサバッサと切り倒された木々、蹲り傷だらけとなったドラゴン。
そして、悠々と刀を担いで立つ『無傷』の俺。
何があったんだよ本当に。
見とけよ俺っ!?
(師匠。やっぱあんた。狂ってるわ)
流石は闘龍の王。他の炎龍や水流のように属性を持たず、ただただ戦闘に特化した、龍の種族。
『ん。ちと張りすぎたか?』
(いや、全然結構です。つか倒してくれてても結構でしたけど)
『主の修行にならぬのでな。我の弟子として、それぐらいは倒してみせい』
(うーわっ!師匠スパルタ〜。やっと師匠としての自覚が出てきたようっすね)
うん本当に。何があったら俺の体でこんな一方的な現状ができてんだよ。
俺、精神内とはいえよく師匠に傷つけられたわ。
『ふん。あんなのまぐれじゃまぐれ』
(運も実力のうちですよ。師匠と契約できてよかったです)
『………………奴が起きてくるぞ。さっさと準備せんか』
あいあいさー
っとその前に。
(広いところに出たいんですけど、ちょっとここだと木々が邪魔で)
『ならばもう少し後ろに飛べば良い。主の『爆縮』を使えばすぐの所に、グラウンドがある筈だ』
(えっ!? そんなとこまで移動してたの?)
『何度か主の『爆縮』を使っての。空を飛ぶのは初めての経験であった』
(そうですかそりゃよかった! 爆縮っ!)
足にプロテクトを忘れずドラゴンの方を向きながら後方に飛んだ。
バサッと翼を広げ追いかけてくるドラゴン。
(師匠。追いつかれそうです。助けてください)
『根性』
(わかりましたよ畜生!)
「スキル発動 『活力』!?」
体にまとわりついていたような重みが消え去ったような感覚に陥る。
よっしゃ!
「もいっちょっ! 『爆縮』『爆縮』『爆縮』っ!?」
繰り返し使用することができなかった爆縮を連続で使用する。
体にみなぎっていた何かが速攻で消滅した。
スキルが俺に文句を言っている気がする。
加速に加速を繰り返した肉体は空中で一つの弾丸となり、ドラゴンを突き放す。
そして
サザザザザァァァァアア
荒々しく、できるだけ派手に地面に着地した俺は刀を空に掲げ叫んだ。
「到〜着っ!荒杭ユウマ! 満を持しての大・参・上っ☆!」
複数の生徒がこちらをギョッとした表情で見ている。
ふふっ! 決まったぜ!?
遅れて参上する、いらない風のアピールをして地面に降り立つどぎつい緑ドラゴン。
(さて、行ってみようかっ!)
刀をブンブンブンと振り、腰を落とし、肩に担ぐように構える。
師匠にボロボロにされたとはいえ、俺にスキルが大量に入ったとはいえ、
それでもドラゴンとはとんでもない差ができている。
さて、どうやって勝ちますかねぇ。
勝たないとマジで師匠が夢の中で地獄の特訓をしてくれる気がする。
もしそうなったら俺は死ねる。
過労で死ねる!
「まずはステータスでも底上げだぁ! 龍王権限発動!『龍化』レベルIっ!?」
ドクンッ
俺の体で何かが爆ぜた。
次の話で多分ドラゴンとの戦い終わると思います。
うん。
きっと。
多分。
9話のあとがきでも書きましたが、ステータスの仕様を全体的に変更しました。