表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

4.正直に言うと、写真を撮るときに乳製品をわたされても困る

『あ』


 私たちの声が重なった。エレベーター内に光が満ち、真っ赤な男性があらわになった。


「死ん、でる……」


 何を今更、という感じだが、人間は視覚にたよる生き物だ。見なければ、死体がある、ということが認識できなかった。


「ああ、やっぱり僕は、殺したんだ……」


 彼の声も震えていた。私と同じことを感じていたのだろうか。


 彼は、パーカのフードをかぶって、私に背を向けていた。顔を覚えられないように、という考えだろう。

 ちょっと、捕まってもいい、と言っていたあなたはどこにいったの?


「僕はすぐ上の階で降りますね」


 動き出したエレベーターの中で、彼は四階のボタンを押した。


 え、降りちゃうの?そう思ってしまった自分がいたのは否めない。だって、考えてみれば、彼が降りれば、エレベーター内に、私は死体と二人。嫌だ。そんな恐怖体験は絶対に嫌だ。


「や、だ。ヤダ、おいてかないで」


 そう言ってから、おどろいて口を閉じた。今までの冷静な私とは思えない、幼稚な言動をしていたのだ。

 彼も、戸惑っているようで、表情は見えないけれど、困惑が伝わってきた。


「まあ、死体と二人が嫌っていうのはわかりますけど……。僕だって殺人犯ですよ?五階のボタンを押しておきますから、そこで降りてください」


 私は頷いた。体の震えはもう収まったけれど、まともな声をだせる自身はなかった。




 エレベーターはすぐに四階についた。その時間は、さっきまでの暗闇が嘘のように、一瞬だった。


「じゃあ、僕はここで降りますね。できれば、僕の人相とかは言わないでほしいんですけど」

「一緒にいたのは、ほとんど暗闇だったでしょ。覚えていませんよ」


 彼の言葉に、やや冷静さを取り戻した私は、ようやく返答することができた。

 あ、そうだ。人相で思い出した。


「はい」


「え?」


 エレベーターから降り、一歩踏み出した彼が振り向く。


「チーズ」


 カシャリ。

 私の携帯電話は、エレベーターが閉まる寸前で、ギリギリ彼の顔をとらえた。

 嘘つき?いえいえ、策士と呼んで。


「えー……そんなにイケメンじゃない」


 思わず本音がもれる。ああ、私はこんなときに、何を話しているのだ。いや、こんなときだからこそ、どうでもいいことしか言えないのか。

 震える体を両手で抱きしめる。携帯電話が手からすべり落ちて、血が付着した。


「怖かった……」


 自分でも、よくあんなことができたなと思う。死体をみて、あれほど怖かったのに。

 でも、これできっと、彼はすぐに捕まる。


「とりあえず……五階に降りたら、彼が待っていそうだし」


 開いたドアを、瞬時に閉める。


「で、念願の一一〇番」




 たったの三クリックが、なかなかできなかった。


「はい、警察です。事故ですか、事件ですか?」


 ほら、やっぱりエレベーター内でも通じるじゃない。


「えっと……」


 とりあえず、状況説明を。




「いま御堂さんとエレベーターに乗っているんですけど」


これで完結です。読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ