第86話 コアを壊せ!
バルコニーでの攻防が繰り広げられている中、階下の修練場ではシュウにテルとジャン、ダグが聖導機兵と対峙していた。
聖導機兵は器用に建物を避けながら足元の敵へ攻撃を繰り出してくる。その攻撃に巻き込まれてボドワン派の聖騎士にも被害が出ていたが、ボドワンからの命令を忠実に従う殺戮兵器は容赦なく攻撃を続けている。
さらにはシャドーウルフによる攻撃が合間に入るため、聖騎士たちは自ずと最前線を遠巻きに様子見する外になかった。
一方の四人はというと、それぞれ上手く攻撃を捌けているものの、攻め手に欠いていた。
「デカブツは我が物顔に拳を振り下ろしてくるし、狼どもは幾ら処理しても次々に沸いてきやがる。
テル、このままじゃジリ貧だぞ。何か策はないか?…っと、うおっ!?」
ジャンはテルに問いかけるが、テルは頭を振るだけだった。
打開策を思いついていれば率先して実行するテルの性格を知っているジャンとしても、テルから大した返答がないことは分かっていた。それでもこの苦しい状況に痺れを切らしていたジャンは藁にも縋る思いであった。
そのジャンは聖導機兵の攻撃が割って入ってきてしまったため、テルとそれ以上の会話ができなくなってしまった。
「シュウさん、やはり僕が『羽』を出して一気に蹴散らす外に解決策が見つかりません。」
「だめだよ、テル君。君が翼を顕現させればこの国の人間から避難されるだけじゃない。下手をすれば過去の傷を抉られる可能性だってある、そうなんだろう?
確かに苦しい状況だけど、まだ最悪でもないんだ。ここは何とか耐え忍ぼう。」
「しかし、バルコニーのほうの状況も気になります。こちらの作戦が後手に回っている以上、引き延ばすのは得策じゃないと思うんです。」
「確かにあっちも心配だけど、向こうにはロージもいるんだ。仲間のことを信頼しているなら、今は彼を信じよう。」
シュウは暴走しかけているテルに対して思い留まるように呼びかける。テルも仲間のことを引き合いに出され、何とか冷静になろうと落ち着きかけるが、何とロージのほうがコチラへ向かってくるのが見えたため二人は思わず驚きを露わにしてしまう。
「ロージ!?何でこっちにいるんだ!向こうはまだ戦闘中じゃないの!?聖女様たちは無事だよね!?」
テルは驚きのあまり、ついロージに捲し立ててしまう。
ロージとしてもテルの勢いに押されて若干引き気味な受け答えになってしまった。
「ま、まぁ向こうも相当に立て込んでて安全ってわけでもねぇんだが、他ならないルナーリア様からの命令でな。この状況を打破するための情報を知らせに来たんだ。」
「情報…。それはどんな内容ですか?」
シュウが聞くとロージはシャドーウルフの攻撃を捌きながら答える。
「狼どもはデカブツの背中に埋まってるコアを破壊しない限り無限に出てくるんだそうだ。コアは魔石を基に作られてるが、その魔石を壊すには硬い外殻を剥がす必要があるってのが聖女様からの伝言だ。」
「ある程度予想出来ちゃいたが、改めて言われると厳しいな。というか、俺っちも知らない情報をなんで聖女様が知ってるんだ?」
「リッチー、そのことを突き詰めてる時間はないよ。ここからは連携が重要になる。ジャンとダグにも伝えてきて。」
テルに頼まれたリッチーは聖導機兵を相手にしている二人の元へと走っていく。
「背中なら僕が『羽』を出して空から狙うのが一番なんだろうけど…。」
そこまで言ってテルはシュウの方を見る。シュウは何も言わずただ頭を振るだけだったが、それがどれほど重要な返答かはテル自身も分かっていた。
「そんじゃあ俺は麗しの聖女様の元まで戻るぜ。あっちもまだまだ油断できねぇ状況なんだ。」
そう言い放ってこの場を離脱しようとするが、シャドーウルフと聖騎士たちがロージの前に立ち塞がって中々バルコニーのほうへ戻ることができない。シュウも短刀で加勢をするが、一体ずつしか倒すことのできない彼らよりも聖導機兵がシャドーウルフを生成する素早さのほうが遥かに上回っていた。
「クソっ!これじゃ建物に向かうこともできやしねぇ。シュウさん、何か策はねぇのか?あんただったら一気に蹴散らす技とか持ってるんじゃねぇのか?」
「そうしたいところは山々だけど、今の僕は短刀で斬りつけることくらいしかやりようがないよ。闘気もエンチャントしてくれたけど、僕はそもそも闘気を使えないから皆が放ってるような技も使えない。今の状況でできるとすれば、心許ない障壁を辛うじて張ることができるくらいだよ。」
「ロージ、僕も白魔術なら使えるかもしれないけど、効果は薄いと思う。」
「そうか…。仕方ねぇ、ここはデカブツを片付けたほうが早そうだ。ダグ!このデカブツを転がすぞ、俺に合わせてくれ!」
ロージが叫ぶとダグは直ぐ様返事をしてくる。ダグはロージの意図していることが完璧に分かったわけではないが、仲間の言うことなら無条件に信じられる信頼がある。
ロージは懐から何かの道具を出すとそれを横薙ぎに振る。すると、筒状の道具から分銅が付いた鎖が飛び出した。この道具は鎖を任意の長さに出すことができる錬金道具である。この道具から出された鎖はロージの意志で、出現する鎖の長さが決められるうえに伸ばすも縮めるも自由自在であった。
鎖を聖導機兵の足へ絡ませるとロージは鎖を突っ張らせる。ダグはその鎖を持ち、力の限り一気に引いていく。すると聖導機兵の足が持ち上がり、丁度片足立ちの状態となった。
「穿通!!」
そこに合わせる形で聖導機兵の後方へ回ったジャンが硬く練りこんだ闘気を一点に集めて、聖導機兵目掛けて突きをお見舞いする。ジャンの攻撃は聖導機兵の表面を軽く削ることに成功するが、大したダメージにはなっていない。
しかし、ジャンの狙いはダメージを与えることではなかった。これによってバランスを崩した聖導機兵は前へと倒れていく。
このチャンスに駆け出したのはシュウとテルである。シュウは立ち塞がるシャドーウルフたちを相手取ってテルを聖導機兵の元まで導いていく。テルは聖導機兵の体に這い上がるとそのまま背中にあるコアまで一直線に駆け抜けていった。
駆ける間に纏っている闘気の全てを剣へと集めて硬く、鋭く練りこませていく。そして、コアの元まで辿り着くとテル渾身の一撃が放たれる。
テルの一撃はコアの外殻にヒビを入れることに成功するが、中の魔石にまでは届かない。
テルは長い年月を掛けて研鑽を重ねてきたため闘気の扱いに長けている。そのため一般的な闘気使いよりも効率的に闘気を扱うことができていた。ただ、今回はそのことが仇となってしまっていた。テルが練りこんだ闘気に武器の方が耐えきれなかったのである。
それは丁度オルレアが闘気の質が変わり、思い悩んでいた事象に似ていた。
「くっ!?」
追撃を加えたいところではあったが、武器を失くしたうえにコアから現れたシャドーウルフに襲われてテルはその場を離脱する外になかった。
「参ったな…。テルの攻撃でもヒビを入れるのが精一杯だとは予想外だ…。」
「ごめん…。こんなことならシュウさんみたいに自分の武器を使っていればよかった…。」
「何、あの状況でヒビを入れただけでも大したもんだ。俺っちの予想じゃもう一撃入れれば外殻は破壊できると見たぜ。」
「だが、今度はどうやってあそこまでいくかな…。デカブツのあの様子じゃ背中への警戒を強くしてるのは明らかだ。この分じゃさっきと同じ手は使えねぇ。そうなると飛ぶかよじ登るくらいしか手立てがないわけだが…。」
ロージはそこまで言って口を閉じる。自分でも己の発言が現実的でないことは分かっていた。それこそ空を飛ばない限りは決定打を喰らわせる手立てが見つからなかったのである。
『ニャー』
と、ここでふらっと現れた猫が一鳴きする。それはシュウたちには慣れ親しんだ仲間。現れたのはケーシーであった。
「シーちゃん、向こうはどうだった?」
「『ちゃん』付けしないで。向こうなら順調よ。もうすぐ目的の場所に辿り着く頃だわ。私は神の使い様のお導きで先に戻ってきたのよ。」
ケーシーのいう神の使いとはルナーリアのことである。ケーシーは気軽に大聖堂内に忍び込むことができるため、シュウたちよりもルナーリアと話す機会が多かった。そのため、ルナーリアが帰着の里に神託を齎す存在だと知っていたのである。
「ありがとう。テル君、もう大丈夫みたいだよ。」
いよいよ以て天使の翼を顕現させる外に打つ手がなかったテルは少し不思議そうな顔をする。
テルも猫のケーシーのことは知っている。だが、猫が一匹戻ってくると何故問題が解決したかのような発言になるのかが分からなかった。
「おい!逃げろ、テル!」
シュウとの会話に気を持っていかれ過ぎてしまったため、テルは周囲の警戒を一瞬怠ってしまった。この一瞬は戦場では命取りである。テルが気づいたときには聖導機兵の右拳は目の前まで迫っていた。
「大事なかったか、シュウ。」
「あぁ。ナイスタイミングだよ、シル。」
聖導機兵の右拳は大きな地響きを立ててその場に落ちていた。
そう、振り抜かれて地面を抉ったわけでも振り下ろしてテルを擦り潰したわけでもない。ただただ、振り抜き切る前にその場に腕ごと落とされていたのである。落ちた右腕には鋭利な何かで切断した後があった。
「なっ!?何が起こった!?」
「なんと…。このような輝きは初めて目の当たりする。」
「まさか、金色の闘気なのか…?」
修練場の異変にはバルコニーにいる面々も気づいた。
ボドワンは絶対的な防御力を持つと信じていた聖導機兵があっさりと斬りつけられたことが信じられなかった。
ベネディクトはシルフィードの纏う闘気に魅入られ、聖騎士団長や副団長は伝説級の闘気が実在したことに驚愕していた。
「シュウ、この武器はもう使い物にならないようだ。私の獲物を貰えるだろうか。」
シルフィードが手に持つ細剣は聖導機兵を斬りつけたことで九十度に曲がってしまっていた。この状態でも切断することができたのは、一重にシルフィードの剣技が常人のそれを遥かに凌駕し、達人の域に達していたためである。
「ひゅー、流石にやるねぇ。」
「マジかよ、あんな芸当出来る奴いんのか?」
ジャンやロージが騒いでいる中、テルやダグはひたすらシャドーウルフを捌いてシルフィードたちの邪魔をしないようにする。
シュウが〈ボックス〉を唱えてシルフィードの刀を渡すと、シルフィードは握る感覚を確かめるように愛刀を眺めて一つ大きく肯いてみせた。
「シュウ、今ジル達が作戦の最終段階に入っている。結界ももうじき消えるだろう。それまでの間に私は何をすればいい?」
「シル、狼たちが面倒なんだ。生成している大本を断たないと無限に出てくるって言われたよ。だから、あのゴーレムをどうにかしてほしいんだ。最悪背中にあるコアさえ壊せれば狼たちもいなくなるからずっと楽になる。」
「なるほどな。あの巨体は錬金道具のようだが、完全に破壊してしまっても構わないのか?」
「あぁ、そっちのほうが有り難い。中途半端に残しておいて、またこんなことに使われたら目覚めが悪いからね。」
「ふふ、シュウらしいな。仔細承知した。あとは私に任せろ。」
シルフィードはシュウから状況を聞くと腰を低くして構える。所謂、抜刀術の構えである。
「まぐれで聖導機兵に傷を付けたところで調子に乗るでないわ!聖導機兵、シャドーウルフ。さっさと奴らを片付けろ!」
ボドワンの命令に聖導機兵が光を増して動き始める。
右腕を失った聖導機兵は左手を前に突き出すと五本の指先をシルフィードへと向ける。すると、指先が砲台のように変化していくのが見て取れる。戦闘開始早々に見せた胸の砲台によく似ているため、その場の人間はこの次に起こることが手に取る様にわかった。
「シル、あの指先からは『ヒートジャベリン』のようなビームが出てくる!気を付けて!」
シュウから情報を聞いたシルフィードは足にグッと力を込めると一気に踏み込んだ。傍からは瞬間移動のように見えるその一歩は、金色の残像を残して一瞬で聖導機兵の懐まで入り込む。シルフィードは標的から目を離すことなく、腰に当てた愛刀を引き抜いた。
シルフィードの刀は一瞬の閃きを起こすとすぐに鞘へと収まっていく。完全に納刀されたと同時に、あれほどまでの硬度を誇っていた聖導機兵の左腕は細切れに刻まれていた。砲撃するチャンスも与えられず左腕を失った聖導機兵は、一歩退いていく。
錬金道具である聖導機兵に恐怖を感じる機能はない。それどころか感情を司る機能すらないのだ。一歩退いたのはシルフィードの剣圧に圧されたためであるが、ボドワンには聖導機兵が戦意失ってしまったように見えていた。
「何をしておるか!それでもお前はこの国の守護獣か!腕の一つや二つくらいで怯むでない、最高火力で以てその忌まわしい女を消し炭にしてしまえ!!」
ボドワンの命令に『キュイン』という音を立てて聖導機兵が虎の子である胸部の砲台を出す。砲身には鈍い光が収束していき、先ほど猛威を振るった一撃を放つ準備が行われる。だが、その光景を何もせずにただ見ていてやるほどシルフィードは甘くはなかった。
「確か背中に重要な部位があるのだったな。もうお前の相手も飽きたところだ、いい加減大人しくしていろ。」
シルフィードはそう言いながら刀を抜き放つと突きの構えを取る。それと共に金色の闘気が光を増していき、段々と刀へと集まっていくのが分かった。
しかし、聖導機兵のほうも、まもなく準備が整うところであった。シルフィードと聖導機兵は互いに睨み合う形となり、必殺の一撃を繰り出す時を待っていた。
先に仕掛けるのは聖導機兵である。砲身に収束しきった力は一条の光となりシルフィードに襲い掛かっていく。一直線に襲い掛かる光を目の当たりにして、それでもシルフィードに焦りはなかった。
「はっ!!」
気合の一声とともに繰り出したシルフィードの突きは金色の光の奔流を放ち、聖導機兵へと向かっていく。聖導機兵が放った光線をも飲み込みシルフィードの突きは聖導機兵へと到達する。
「そ、そんな…。まさか、そんなぁ!あの聖導機兵だぞ!古の時代に世界を震撼させた最強の兵器だぞ!?それが何故、あのような小娘如きに………。」
シルフィードの放った一撃は聖導機兵の攻撃を飲み込んで本体を貫いた。それどころか背中のコアまで達し、シャドーウルフを消滅させるまでに至っていたのである。だが、周囲の者たちが驚き放心してしまう理由は他にあった。
「なんて馬鹿げた威力だよ………。」
「おい、あれって俺たちが使ってる穿通だよな?極めるとあんなことになるのか?」
「いや、ロージ、あれは特別だよ。本気の僕でもあそこまでの威力は出せないし、恐らく『ジャッジメント』でしか対抗できないと思う。」
「うん、流石シルだ。」
シュウが満足そうに肯きながら見る先には、脚のみとなった聖導機兵の姿があった。
金色の闘気を消し納刀した美女はシュウの言葉を聞いてくるりと振り向くと、満面の笑みをシュウへと向けるのだった。
すいません、一日更新できませんでした…。




