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第43話 日常へ戻ろう

「さすがに温かくなってきたな」


「そうですね。これぐらいの気候でしたらしっかりと掃除もできますね」


 サラヴィスが諜報部の上官に対して、潜入任務の途中報告を行ってから1週間が経つ。


 現在彼女はノボルと共に魔物専用葬儀場も兼ねている館を大掃除していた。


 寒さのピークも過ぎ今は徐々に気温も上がってくる時期。それまでは時折の空気の入れ替え時以外、窓などは閉めきっていたので埃もたまり放題だ。


 それに勇者レイネルは倒した魔物を引きずってここへと運んでくることも多い。そのせいで床には血痕などもこびりついており、とにかくふたりは箒や雑巾などを手に館中を動きまわる。


 サラヴィスは上官への報告以降、一度も嘘をつけていない。今もこれまでのように反動は存在していて独り言も含めて正直に話をしてしまう状態に変わりはない。


 1週間前。ディケの本部から館に帰ってきたサラヴィス。


 その場でも彼女は当然本当のことを話してしまい、伏せたままでおこうと決めていた『潜入任務の途中報告の場で嘘をつけた』という事態をあっさりとノボルにバラしてしまった。


 しかしそれから詳しい事情を耳にしたノボルは、サラヴィスのスキル・『内心の開示』の効果が及ぶ状態にもかかわらず「なるほど。それじゃまた近いうちに嘘をつけることがあるんじゃないか? 楽しみだな」と答えるだけ。


 つまりサラヴィスが思った以上に、彼はこのことに嫌悪や焦りの様子を見せることはなかったのだ。


 これにサラヴィスはどこか安心を覚える。それから両者は何事もなかったかのようにこれまでと変わらない共同生活を送っていた。

 

「ところでまだ勇者さんはこの葬儀場に来られてないんですよね?」


「ああ。魔物駆除隊との戦いはよっぽど体にダメージがあったんだろうな。ここまであいつが顔を見せてこないのも珍しいよ」


 袈裟姿のまま床を雑巾がけするノボルの言葉通り。フィックに関するあの出来事を終えて以降、勇者レイネルは一度もここに魔物を運んできていない。


 少し前に勇者はノボルのもとへ手紙を出してきた。


 魔物駆除隊のリンやデルベランテと争った際にスキルを多用した影響が大きいらしく、届いた手紙には『ボクはちょっとの間、珍しく休みをもらったからね!』と綴られていたのだ。


 だからフィック以来、ここで魔物の葬儀は行われていない。


 そしてノボルはここ数日じれったさを覚えていた。こうしているうちにも、自分の手で弔われることなく焼却処分される魔物がいることに心を痛めていたからだ。


 しかしノボルの手で魔物を倒すということはなかなか厳しい。

 他の誰かの手によって討伐された魔物を譲ってもらうわけにもいかない。

 

 そのため彼は焦りを胸にしながらも、とにかく今できることに注力している。


「まあ……あいつも時にはしっかり休めばいいさ」


 玄関先から葬儀場がある部屋まで続く廊下に残っている魔物の血液や体液。


 床に四つん這いになり、濡らした雑巾を何枚も使ってそれを拭くノボルは、近くで箒を扱っているサラヴィスにこう話しかける。


「そもそも勇者はまだまだ子供なんだから。本当はもっと遊んでもいい年頃、それなのにあの浮世離れした勇者の血族が厄介なんだよ。かわいそうだよあいつも」


「……」


 だがサラヴィスからの返答や相槌などは聞こえてこない。


 これにノボルは「(……ん?いつも通り余計なことを言わないように黙ってるのか)」と思い込み、そのままの体勢で話を続ける。


「まあでも今さら『誰かと遊べ』って言われても、あいつも困るだろうなっていうのは分かっている。だって勇者、俺以外に友達いないし。まだ13歳だけど確かにあの感じだとそりゃ同世代の友達を作るのも苦労するだろ……」


「誰の友達がいないって? ノボル」


「へ?」


 するとノボルが尻を向けている玄関の方から聞こえてきたのは、聞き慣れた少年の声。


「あ、ありゃ……。勇者くんいつからそこにいたのかな……?」


 苦笑いを浮かべながら、しかし顔を向けることなく、ノボルは恐る恐る尋ねる。


「『勇者はまだまだ子供なんだから』ぐらいから」


 これを聞いたノボルは「あー……序盤から聞いてたんだね……」と気まずそうな表情のまま立ち上がり、勇者レイネルがいる方向に体を向けた。


 するとそこには。


「ゆ、勇者……。休み明けだから気合入ってるね……。こんなに魔物を倒したの……?」


 スキル・『筋肉の肥大』を発動させ肉体が筋骨隆々となっていて、両肩に左右3体ずつの魔物を担いだレイネルが立っていた。


「あ……あわわ……」


 ちなみにサラヴィスはもうこの光景に唖然としていて腰を抜かしている。ここまで彼女の声が聞こえなかったのは、単に驚きのあまり言葉が出なかっただけだ。


 なおレイネルは山か森かどこかで戦闘をしてきたのか(魔物も含めて)泥だらけであり、せっかく掃除をしていたのに館の中はまた汚れるに決まっている様相だった。


「今日は葬儀6回。頼んだよノボル」


「ま、まあ仕方ねえか……。そんな数の魂を救えるのなら掃除をやり直すなんて安いもんだ。勇者もサラヴィスも葬儀場に来い!」


 こうしてノボルはすぐにスイッチを切り替え気合を入れて、レイネルとサラヴィスに指示を出して葬儀場へと向かう。


 それから何とか正気に戻ったサラヴィスと共に手際よく準備を進めると、まずは1体目の魔物を棺の中に納めてその目の前に正座をした。


 この彼の姿を見たサラヴィスと、まだ残っている5体の魔物を傍らに置いているレイネルも葬儀場の床に座り、両者はノボルの言葉を待つ。


 完全に準備が完了したことを察知したノボルは呼吸を整え、両手を合わせて。


「それでは只今より、魔物の葬儀を執り行います」


 不幸な運命をたどった者たちの魂を救うため、穏やかな口調でこう宣言したのであった。

ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございました。物語にはこのエピソードをもって一旦の区切りをつけさせていただきます。


続きの構想はございますが作品には至らないところばかり。ただ当初から頭にあった『フィックの魔物化と葬儀』という展開はどうにか形にできたので、連載を続けるかどうかここで一度考えたいと思いました。


これで完全に終了させるか、モチベーションが上がって連載を再開させるかは自分でも分かりません。ただ前者になる場合の可能性も踏まえひとまずここで気持ちを綴らせていただきます。


まずは謝罪を。

連載の途中でタイトルの見直しや文章の大幅修正を繰り返してしまいました。読んでくださった方々には本当に申し訳ない気持ちしかありません。


次に感謝を。

それでも作品に興味を抱いてくれた方には深い感謝を申し上げます。世の中に、この手で生み出せた物語を読んでくださる方がいて幸せでした。

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