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第一の失敗

 花吹雪は考える。家紋入りの着物など売れないだろうと。しかも敵か味方か理解らない商人の番頭に協力を求めれば、城下街で誘拐されても影斬りは捜索しないと知っているため、月読もろとも高額で売り飛ばされ、想像も出来ないような酷い扱いを受け、何度も売り飛ばされながら最後は、はした金で遊ばれる遊女にまで堕ち、梅毒で死ぬことになるだろう。


 大工街に出ると、道端で遊ぶ子どもたちが目に入った。子どもたちも恐ろしく綺麗な着物を来ている花吹雪たちを直視せずに盗み見る。


 子どもたちの視線から逃げるように、花吹雪は人通りの少ない狭い路地に入る。軒先で花吹雪はこともあろうか、勝手に人様の家の匂いを嗅ぎ始めた。


「何をなさっているのですか?」


 月読の問に答えるよりも先に花吹雪は六軒目の戸口を潜り奥に入った。そこには驚くほどに血相の悪い母親が病床に伏せており子どもたちが手を握っていた。


「お、お前さんたちは……」


 こんな高貴な娘が護衛も付けずに出歩くはずがない。生死を彷徨う妻を目の前にしても、この家の大黒柱である男の頭は、しっかりと頭は働いていた。


「血薄白化病です」

「そんなことは、わかってるさ。不治の病ってこともな」


 血薄白化病特有の甘い林檎の香りが家中に充満しているのだ。三軒先の家からでも理解るだろう。それにしても、恐らく何処かの武家屋敷の娘だろう。暇つぶしか馬鹿にしているのか知らないが、早く帰って欲しいと男は願った。


「ここに特効薬があります。飲ませなさい」

「はぁ?」


 ったく、なんて日だ。不幸が不幸を呼んでしまっているのか? この娘の悪ふざけに……妻の命を賭けて付き合わなければならないのだ。拒否すれば、家の外で待っている武家屋敷の護衛にひっ捕らえられちまう。俺だけじゃねぇ、子供もだ……。


 すまねぇ……。


 子供のためだ。最後に、役に立ってくれ!!


「!?」


 効果はすぐに現れた。それもそのはずVRMMORPGの万能薬なのだから。血行が良くなり、肌に赤みが戻ってくると、ゆっくりと目を開けた母親は、涙ながらに子供を見つめる。


「助けました。報酬をください」


 花吹雪と月読は、手を繋いで大街道を歩いている。大工街の娘の着るボロ衣装を着て。花吹雪は報酬として、捨てる直前の古着を要求した。そして、着ていた着物を脱ぎ捨てて金に変えろと言い残してきた。実際、換金するのは難しいだろう。しかし、運が良ければ三年は遊んで暮らせる金が手に入るはずだ。


 人目で武家屋敷の娘だとわからないように、鋳物だけではなく、髪もボサボサに、肌も泥まみれにしている。次は安全に移動する方法と、食べ物や寝る場所の確保だ。


 田んぼを突っ切るように伸びる真っ直ぐな大街道は、NPC時代に夢だった冒険を彷彿させる。花吹雪は何だかワクワクするが、この世界のこの時代、旅を楽しめるような気楽なご時世ではなく、何処に行ってもよそ者や身分の低いものは、とんでもなく苦労することを全く知らない。


 さて、花吹雪の幸運は何処まで続くのであろうか?

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