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転生冒険者がゆく異世界冒険譚  作者: カニ玉380円
序章・転生冒険者
2/81

『突然の死、そして転生』

2話目です。読み辛かったらごめんなさい。

中山と別れ、我が家へと帰る。


あたりはかなり暗くなってきていた。


(冬はやはり日が落ちるのが早いな。

…にしても、やっぱり寒い。)


制服のズボンのポケットに手を突っ込みながらハッと息を吐く。


タバコの煙のように白くなった息は、すぐに空気に溶け込んで消えていった。


その一連の動作をして、もう冬がきたんだなと改めて実感する。


(今年も、もう終わりか…

…あっという間に時間は過ぎていくもんだな…)



昨年の冬、高校に転校してきたばかりの頃の自分を思い出す。

新しい場所での新しい生活、初々しかったあの頃。


すっかり慣れ切ってしまった今でも、まるで昨日のことのように鮮明に思い出すことができた。



なんの変哲もない、けれども落ち着くような安心するようなそんな日常を思い返して



「今がずっと続けばいいのにな」



と、ポツリと言葉を溢した。



(なんて。

そんな事を言っても、時間が止まる訳でもないのに…)



一人感傷に浸る。


今のこの感情も、いつかの思い出になるのだろうか。




「………ない」



突如、背後からか細い声が聞こえた。



思わずバッと振り返る。


そこには全身に黒い服を着て、フードを深く被った男が立っていた。


(気がつかなかった…

この人後ろにずっといたのか?)


先程、何かを話していたような気がするが、どうしたのだろうか。


とりあえず、声かけてみるべきだろうか。



「あの…すみません?

どうかされましたか?」


問いかけると、男の身体がワナワナと震えた。

そして、またか細い声が聞こえた。


「………せない…」


何と言っているのだろうか。


声が小さくて上手く聞き取れない。



「……?

あの、もう一回言ってもらってもいいですか?

その…上手く聞き取れなくて…」



「………るせない」


「え?」






「許せない」






「ッ!!」


男がそう言いきった直後、腹部に激痛が走った。


恐る恐る、視線を下に向ける。




包丁が俺の腹に突き刺さっていた。




「うっ…ぐっ…

こ、のっ…止、めろっ!!」


呻き声を上げながらも男を蹴り飛ばす。


同時に、腹に刺さっていた包丁も抜けた。


傷口から大量の血が流れ出た。


温かい血が、足を伝って下へと流れ落ちてゆく。



(痛い、痛い、痛い、痛い痛い!!)




焼かれるような痛みが傷口から伝わってきた。


あまりの痛さに声にならない悲鳴が出てしまう。


「ぐっ!ーーーっ!!」


膝をつき、前に倒れるようにしてもがく俺。


そこへ、黒服の男が近づいてきた。


「お前が悪いんだ、僕の前で今がずっと続けばいいだなんて言ったお前が!!僕はこんなに不幸なのになんでお前はそんな事が言えるくらい幸せでいられるんだよ!おかしいだろ?なあ!おかしいだろ!?僕が不幸なのはお前みたいなリア充どもが僕みたいな目立ちたくないだけの一般人を陰キャだなんて呼んでくるからなんだよ!揃いも揃って見下すような目で僕を見やがってクソが!!お前みたいな奴ら全員死んじまえばいいんだ!!血反吐吐きながら這いつくばって死んじまえ!!ざまあみろ!!はは!!見ろ!!僕は強いんだ!!強いんだ!!お前みたいな奴、簡単に殺せるんだよ!!!」


そんな理不尽な言葉を吐きながら、もがき苦しむ俺に近づいてくる。


腹が立つ、とか、気分が悪くなる、とか。


そんな感情を抱くことはなかった。


そんな事を考える余裕さえ、俺にはなかったから。



血が足りなくなったからか、意識が段々と遠くなっていくのが分かる。


さっきまで、焼けるように熱かった傷口の感覚も、もう殆ど感じなくなっていた。


(感覚が……無くなっ…てき…た……

…俺は……もう、死ぬ……のか……?)


「……ひゅー……ひゅー………」



「ざまぁ見ろ!!はは!!リア充だからって調子になってるから悪いんだバーカ!!僕だってやれるんだ!お前らなんか簡単に殺せるんだ!!ほら!何か言い返してみろよ!!なあ!!雑魚が!!」



(ああ…俺は…死ぬのか…)



薄れゆく意識の中で沢山の思い出が、頭の中を駆け巡る。


生まれた頃の、小学校での、中学校での、最近の思い出が。


友人や親戚、家族と過ごした日々の思い出が。


まるで、映画のフィルムのように…




(これが…走馬灯……ってやつ……か。

やっぱり……俺は…もう、助からないのか…な。

…思い残したこと…思ってた…よ…り、沢山……あ…るな…)


自分がこれほどまで思い残したことがあったのは予想外だった。


失う事で見えるものがあるとはいうが…



(ああ……今日……母さん……に……

…いつも…ありがとう……って。



…言えば……よかっ…た……

…な…ごめ……ん…な…こん……な………親…不…孝………者……………で………………)






そして俺の意識は途絶えた。







〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:〜:







途絶えた、筈だった。


「………?」



さっきまでの痛みが嘘のように消え、身体が温かな熱を感じ始めた。


刺された時の焼くような熱ではなく、暖かい布団のような優しい、微睡みたくなるような熱だ。



(あ、…れ?


俺、生き、てる……?)



先程まで失っていた身体の感覚が戻っている。


ゆっくりと身体を起こすと、問題なく己の上半身が持ち上がった。


生死の狭間にいたであろう身体が、ここまで問題なく動くものなのか…


ふと、刺された場所へと目をやる。



服に付いているはずの血の跡も、刺された痕跡もなかった。


「傷は…?」


服に血がついていなくても傷はあるかもしれない。


そう思って、服をめくって刺された辺りを見る。


「傷が……無い……?」


そもそも刺されてなどいないと言わんばかりに傷一つない腹が見えた。


一体どういう事だろうか。



(出血も、刺し傷もない。

とにかく、俺は無事…なのか?)


と、ここで新たに気が付く。



「ここ……は…?」



俺があの黒い服の男に刺されたのは、家の近所にあるアスファルトで舗装された道だ。


加えて、冬の夕暮れ時でかなり寒かった。



だが今俺がいるここは


「どう見ても森の中……だよな?」




木漏れ日の入り込む暖かな森、ちょうどファンタジーもので妖精とかが住んでいそうな……



…あれ?





「もしかして」




これって、異世界転生ってやつか?


黒服の男やべぇよ。責任転嫁甚しすぎてもはや現実見失ってるよ。

ちなみにこの後、黒服の男は近所の人々に通報され、無事豚小屋にブチ込まれました。


明くんはよくこんな明らかにやばい奴に声かけようと思ったな(今更感)


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