疑惑
盗賊一人で大丈夫だろうか?
「ふーっ落ちつくわね」
サルシャ姫は久しぶりに一人になれたので、
一人で出来ることを満喫することにしたようだ。
「でも、スライムも出てきていいのよ」
「ぷるぷる」
ツボからスライムが出てくると、
サルシャ姫は安心したように一息ついた。
「あんまり外に出ないものだから、
縮こまって死んじゃったのかと思ったじゃない」
「だってあまりにも激しい戦いでしたから、
身を隠すので精一杯でしたよ」
盗賊は窓からスライムを確認して、
得意の地獄耳で、
聞き耳を立てることを継続した。
「それにしてもあれね、
あなたとは長い仲だけれど、
わたし、勇者達に馴染めてきたかしら?」
「大丈夫ですよ!
すっかりパーティーの一員じゃ、
ないですか」
「そう、ならいいけど、
スライムは魔王領で起きた出来事に関して、
どう思ってるのかしら?」
「全部、姫様の小説なのでは?」
(・・・・・・小説?)
「嫌ね、さすがに私も執筆してる時間なんか、
無かったわよ、それにまずは実体験のほうを、
優先したいじゃない?」
「姫様は本当にいろんなことを体験なさいましたからね、
小説のネタには困らないんじゃないですか?」
「私も初めの頃みたいにヘマはもうしないわ、
ろくすっぽ調べもせずに書いたから、
お父様あんなことになってしまったのだし」
「あれには驚きましたね、
まさか小説の通りに勇者が現れて、
魔王様をおおやけどさせるだなんて」
(……)
「でも今は勇者たちと馴染めているわ、
はじめの性格付けからは大分と、
落ち着いてくれて、
私の話をすんなり聞いてくれるもの」
「姫様と勇者との出会いの時には、
勇者たちのこと執筆なさったんですか?」
「ええ、さすがに脱獄までは、
どう頑張っても勇者達だけでは出来ないと、
思ってね、少し書いて運命に介入したけれど」
「やっぱり!さすがはサルシャ姫様!」
(……まるで)
書いたこと通りに進めてきた?
勇者の冒険も執筆した?
妙な話だと盗賊は思った。
「でも自分で話すのはさすがに、
早口になってしまって、
あの説得は無理したとは今でも思うわ」
「説得もお書きになられたら、
簡単に実現なすったでしょうに」
「勇者達が素直に聴いてくれたからね、
もっとも聴いてくれなかったら、
今頃わたしも生きてなかったわけだけど」
「ぼくにはわからないけど、
サルシャ姫さまは工夫なすったんですね」
「彼らにはもっと働いてもらわなきゃ、
いけないもの、これはもう決まったことね、
さあて、また現実とは関係ないことでも、
書いてみようかしら?
詩ならば、現実にならないみたいだし」
「サルシャ様の小説、
また読んでみたいです!」
「おやおや、
でもダメね、
私の小説は現実になるから」
(小説が、現実に?)
盗賊は二人の談笑がのち違う内容に、
変わっていく事を鑑みて、
ふと自分の存在意義に関して考え直していた。
(突発的な魔王への怒り、
あまりにも都合よく上手くいった、
脱獄計画、あれもこれも全部、
姫様が書いた小説だっていうのか?)
盗賊は姫に疑いを持った、
(とんでもない能力の持ち主に、
振り回される事になっちまった、
みたいだぜ、これは)
当然、姫に直接詰め寄ることは出来ない、
そんなことをすれば、
消されるかもしれないからだ。
詰め寄るにしても姫の命を奪うつもりで、
いかなければ、まず成功しないだろう、
『今までの冒険は全部、
おまえが書いた小説が現実化したものなのか?』
などと姫にいうことが出来るなら、
その行動で分かることもあるだろう、しかし、
(そこまで見越して書かれていないとは、
言いきれないんじゃないか?)
盗賊は自らの存在意義を再び考えた、
自分が姫が作りだしたシナリオ通り動く駒だとすれば、
今考えていること、これから起こること、
やることなすこと全て、姫が操縦しているのではないか?
そんな能力があったとすれば、
勇者達のこれからも人生の終わりもすべて、
姫の思い通りではないか?それは許されることなのか?
(・・・・・・許されていいはずがない)
盗賊は自信があった、自らが作りだした策どおりに、
いつもことが運んでくれると、勇者たちが喜ぶと、
今の今まで得意げにしていた、だが、それさえも、
全部、サルシャ姫の執筆したお話しだったとしたら?
(このことは)
勇者達に話すべきかもしれない、
だが話したところでどうなる?
姫との関係を見直したところで?
姫の支配は変わることはないのだ。
(……)
盗賊はその場を立ち去ると、
ひとり胸にしまい込むことにした。
姫の能力は計り知れない。




