サルシャ姫の喜怒哀楽
彼女は被った仮面が剥げつつあるのを感じ取った、
誰もが彼女のことを知って、話が続いているのだから、
この先もサルシャ姫として歩んでいく事になるだろう。
滅べ、滅べ、滅んでしまえばいい、
忌々しい魔族の歴史全部、
私に与えられた使命、全部。
焼き尽くしてしまえばいい、
一瞬で、何の脈絡もなく、業火にまみれて、
これは私の怒り、だから赤いごうごうと。
流れろ流れろ流れてしまえばいい、
わたし達が暮らした環境全部、
更新されて刷新されてしまえばいい、
移り変わる人の世と同じくなってしまえばいい、
魔族が魔族たるゆえんなど壊れてしまえばいい。
これは私の哀しみ、だから青いさめざめと。
風よふけ、果てしなく吹くといい、
与えられたさだめを、なにもかも吹き飛ばすために、
遠く遠く、平原遥かに山並み越えて、
あの人々の元に届くように、
いくらでも平和が続くように
これは私の楽しみ、だから緑色のびやかに。
大地よ、満たせ、全てを満たせ、
倒れたものの生血を吸って、なおも咲け、
花開け世界訪、何百万世を駆け抜けて、
大地から芽生えるものの花の多さ、
すべてを開墾しやがて土に帰る力の在処、
これは私の喜び、だから茶色の重さがある。
舞台はいつでも広がっているのに、
戦って戦って戦ったのみが知る孤独がある。
この世界が始まって間もないころ、
まだ文がそこまで届かなかった頃、
わたしのギフトが開花していなかった頃。
もっと自由にお父様に甘えられていた時。
今は全てが灰色だ。
本来、私の為に戦ってくれるはずの魔族が、
実は一番、私の心を締め付けて離れない、
魔族の王室の一員である私は、
このまま手を引いて逃げ去ってくれる存在も無い、
究極に逃れることの出来ない戦が魔界に広がっている。
さらなる粛清の嵐が吹きすさぶ、
誰もが止められないこと。
誰かの義務感だけでは成し遂げられないこと。
だから私は勇者を選んだ、
戦わなくっちゃ戦わなくっちゃ、
勝利をつかみ続けて、
決して数百の書物に埋もれてしまわないような、
立派な魔族を務めてみせる。
これは私の見栄、エゴだから、
誰にも話せないし、語れない、
魔族が平和の望むのならば、
その声は最大限受けいられなければならない。
「わたしのシナリオ、どうなるのかしら?」
小説の中に自分が登場しているなら、
その楽しみのために文を綴ることを始めるのも悪くないはずだ。
「でも実現してまえば、今のような生活を、
おくることを否定してしまいかねない」
サルシャ姫はなるべくだけ文を書かない、
最小にとどめて、あとはその流れの中で、
パーティーメンバーが最大限動けるように、
サポートに徹するのみだ。
サルシャ姫は悪ではない、
行為が悪なのだすべて、
サルシャの行くところ地獄が待っているのは、
サルシャを地獄から呼んでいるのは、
一体誰の声なのだろうか?
「わからないわ」
その時巨大な脳が見えてきた、
「これって何?」
それは小説家の思考、
彼らの頭の中では空想が現実になって、
非常に忙しく執筆を続けている。
これは紛れもない事実。
「わたしって何?」
サルシャ姫は自信のヒントが、
脳の中にあるのではないかと、
歩みを進めた。
「わたしだけの冒険ね」
「ぼくもいるプルよー!」
「ふふふスライム、
どこまでも粘着質ね」
世界はあっという間に創生され、
そこには望んだ世界があるとされた。
それは誰の願望であったか、
誰にもわからない。
あるけ、あるけ、若人よ、
今はただ前に前に。




