サルシャ姫の当惑
祈りは届くだろうか?
感想は現れるだろうか?
スートが殺した民族の数、数百を越える。
それをすべて弔うのに、
ほぼ魔王領総動員でのことであった。
かくてスートの戦功となった、
人々の身分は保証され、
奴隷同然だった民も解放された。
これをサルシャの解放と名付けて、
称える詩人は多くあり、
サルシャが更なる道を進むとき、
それは民衆の支持を受けての事、
世の中が少しでも平和になることを、
支えるためのこと。
願わくばサルシャ姫の進む道に安寧を、
多くの民が救われんことを祈る。
「次は」
「おいサルシャ姫さんよう、
いくらなんでも矢継早すぎないかい?」
盗賊はサルシャ姫を引きとめた。
「待ってる時間が惜しいわ、
この戦いが終わったら、
あなたたちだって英雄になれるのよ」
「俺たちは別に英雄になりたくて戦ってるわけじゃないよ」
「どうかしら? 随分と決めて戦ってきたようだけど」
「そもそも戦いの中にあるのが勇者の定めって奴だけど、
みんなそれだけじゃお腹もすくだろう?
休息も立派な勇者の仕事だよ」
「わたしは魔王の娘よ、姫である私は自分の足で自分の手で、
世界に蔓延る悪を断じて許してはならないの、
だって記録が魔族の悪を許さず、本に乗せてあるのだもの」
「その本ってのにどはまりし過ぎてるんだよ、
わざわざ罪を償えって決めて回ってるのは、
姫様も同じくだろう?」
「ええい、うるさいうるさい!
私は、この世界の平和を調停するもの!
魔族を裁ける唯一の砦なのよ!
勇者たちは黙ってついてくればいいの!」
「まったく勝手な姫様だよサルシャ様は」
「盗賊!勇者!」
彼らを運んでいた馬車が次の場所につくと、
次なる相手に関して姫が口早にはなした。
「次の相手は巨人族のウガッタリよ、
その大きな体で、人間の住む最も深い領域まで、
踏み込んだ魔族だから記憶に新しいはず。
「あいつ!ウガッタリっていうのか!?
おれは見たことがあるぜ!
あいつらオレの住んでたスラムをひっくりかえしていきやがった」
「盗賊が見たのか」
「ああ、見たとも、あのウガッタりどもは人間をむさぼり食って、
王国の王城手前まで乗り込んできたんだからな、確実さ」
「それなら倒さなくっちゃいけないな、
そいつの罪はいったい?」
「巨人族の罪はその生まれにある、
大きな肉体を維持するために、
あらゆる民族を食して、通り過ぎて行った」
サルシャ姫は語る。
「あんな奴らを飼ってる魔王軍も魔王軍だぜ、
まったく全盛期に悪逆非道を行った名残が、
強すぎるったらないぜ」
「誰からも恨まれるのが魔王の仕事だもの、
それだけ多くの種族を束ねているのだから、
ボロが出ても当然なのよ」
「サルシャ姫、スートの犠牲者は、
部族の連中に任せてていいんだな?」
「それが一番懸命ね、あらゆる死人溢れる大地を、
清めるのは遺骸を弔うことに相違ないものね」
死せよ、死せよ、魔族の罪、
いくらでも湧き立つ魔族の罪、
死せよ、罰せよ、許すな!
いくらでも死んで、いくらでも滅ぼせ!
「……」
「どうしたのサルシャ?」
魔法使いは心配そうにサルシャの肩を支える。
「大丈夫よ、ほおっておいて」
サルシャは支える手からすり抜けるようにして、
一人で立ち直った。
「次の相手は巨人族のウガッタり、
覚えておいてね」
まだまだ討伐の旅は続く。




