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「というか、現に他人事だろうが。
自分たちの無能さを認めたくないからって、責任転嫁はよくないと思うぞ」
アーサーの手を振りほどいて、王族少年Aは今度はそちらを睨んだ。
「勝手なこと」
言葉の途中だったが、今度はカガリが口を挟んだ。
「勝手はどっちだ」
それは、静かな声だった。
ただ言っただけ、そんな声音だった。
「あぁ、でもそのお陰で俺は生きてるのか」
「なにを、言ってるんだ?」
「あんたらは、そいつらが死んで悲しんでる。
でも、俺は生きてる。こうして、息をしてる。
皮肉だよなぁ」
そう続けるカガリを王族少年Aは不気味そうに見た。
もう一人の王族少年Bも同じように、カガリを見ている。
レジナが補足した。
「優秀な人だけ残して、残りは切り捨てたんでしょ?
ほんと、皮肉だよね~」
「何を言って」
「それなりにいた勇者候補として召喚されて、でも使えないから切られた、君達に見捨てられた人達の生き残りだよその子。
あの子達から聞いてなかった?
そもそもどこまで報告が君達に言ってたの?
それとも、なにも聞いてないとかかな、その様子からすると。
忖度だっけ?
気を使われてたのかもね。
というか、君らみたいなやんごとなき身分の人達って、切り捨てた人達のことって覚えてるもんなの?
まぁ、とりあえず起きちゃったことはどうしようもないし、どうするの?
一連のこと、全部魔族のせいだったわけだしさ。
あたし達の指名手配、解いてもらわないと困るんだけど」
「お、俺たちが悪いって言いたいのか?」
「良い悪いの話じゃなくて、ストックを大量放棄しといて今更責任転嫁するのは馬鹿の所業だなって話。
糾弾してるわけじゃないよ。
ただの大きな一人言。
でも、あたしの言葉を糾弾や非難と取るなら、それなりの罪悪感が君達にもあるってことだよね?
人を死なせた自覚と罪悪感があるってこと。
ああ、うん、あたしのことを不敬罪とか権力とか使って断罪なりなんなりしても良いけどさ、そしたら、バラすよ」
「は?」
レジナの語尾に不穏な単語が混ざっていて、王族少年AとBはなんのことか分からずに首を傾げる。
レジナはニッコリ笑うと、王族少年Aへ近づく。
そして、彼の胸倉を掴むとその顔を間近に引き寄せる。
それから声を顰めて、続けた。
「遺体、女の子のどっちかに剣で切られた傷があったはず。
あれ、仲間割れしたんだよ。
聞いて呆れるよね~、勇者が敵を倒す前に味方を殺したんだから。
遺体を検分したらわかるはずだよ、首とその体の傷の違いが。
隠蔽するならしてみなよ、それであたし達を断罪したいならお好きにどうぞ。
ただ、それをした時点であたしはこのことをバラす。
この情報を他国にばら撒く。
その準備はもう出来てる。
この意味が理解できないほど、君らはお花畑な頭をしていないはずと信じてる。
さあ、王子様?
未来の王様候補様?
君は、君達はどんな決断をするのかな?」
アーサーが呆れていた。
意味がわからなくて、カガリはアーサーの横にきて彼を見た。
「アレだよ、仮にも勇者が殺しあったとかいう事実があると、今の世の中場合によっては攻め込まれる口実になりかねないんだとさ。
つまり、戦争とか侵略とかな。その弱味になりかねないんだよ」
「え、でも戦争って魔族を倒してから起こるんじゃ」
「ま、ケースバイケースだなぁ。
俺、学がないから難しいことはよくわからんけど。
ただ、その他国の問題がなかったとしても勇者が殺しあったって可能性を示す物的証拠があるとなると、付き従ってた王族達は責任を問われるかもだし。
ファルゼルのその辺のことは詳しくないから知らんが」
アーサーも空気を読んで声をひそめて、カガリへ説明した。
「はぁ、とりあえず転移勇者が殺しあったかもしれないということが世間に伝わると激ヤバってことですね」
「……お前、なんかあったか?」
「なんですか? 急に」
「いや、感情というか反応が薄いなと思ってな。
目の前で同級生を殺されるとこ見たんだろ?
なんなら、そういう相談をするのを専門にしてる医者を紹介するけど」
「お気遣い、ありがとうございます。
なんていうか、うーん、うまく言えないんですけど、情報が多過ぎて自分の中で処理できていないというか。
処理がおっつかないと言うか、そんな感じです」
カガリとアーサーがそんな会話をしている間に、レジナの一方的な交渉は終わったようだ。
それを横目に、カガリは続けた。
「ただ、いまちょっと自分が怖いなと思いつつあります」
「怖い?
そりゃ、死にそうになったんだからな。
たしか、これで二度目だろ?」
「三度目ですよ。ほら勇者王のハジマリの地で、建物に生き埋めになりかけたんで」
「あー、いや、そうじゃなくて。
アレは巻き込まれ事故みたいなもんだろ?
今回みたいな、あからさまに狙われるってのは、レジナに助けてもらった時以来じゃないのかって話」
言われて、カガリはそうでも無いことに気づく。
「いや、盗賊に襲われたりとかあったんでそこそこ経験値は積んでるかなと。
まぁ、最初が最初だったのと、大なり小なりそういう経験してきたっていうのとあるからかなとは思うんですけど、そういう他が怖いんじゃなくて。
自分が怖いんです」
言いつつ、カガリはあの時担いで逃げた少女の最期を思い出す。
泣き叫び、魔族に命乞いをしていたA子の最期を思い出す。
あの時、カガリは何もしなかった。
出来なかったのではなく、しなかった。
自分が生き残ることだけを考えていた。
それは、きっと他人からすれば非難されるべきことだろう。
でも、あの時カガリは自分のことだけを考え行動していた。
同時に、A子の死ぬ瞬間と元クラスメイト達の生首を見た時、こう思ったのだ。
ざまぁみろ、と。
そう、思ったのだ。
その感情は、とても気分が良かった。
絶望に歪んで死んでいく、元クラスメイトの少女の顔を見て、ただただ気分が良かった。
あの奇妙な気分の高揚と爽快感は、今はもうない。
あるのは、無感情。
ある、のに、ない。
それ。
「以前の、元の世界にいた頃の俺なら、きっと罪悪感とかそういったものを感じて鬱になってたと思うんですけど」
カガリは、交渉が終わって苦々しい表情をしている王族少年ABと、満足そうな表情でこちらに来るレジナを見る。
見ながら、
「そう言ったものが何も感じないのが、怖いなと思ったんです。
感情の部分で、酷く冷たくなっていくのが自分でもわかるからこそ、俺は自分が怖くなった」
アーサーがくつくつと笑いながらそれに答える。
「そりゃ、大人の階段のぼったな」
「こんなことを知るくらいなら大人になんてなりたくないです」
「バカ、お前、本当の大人なんてどこにもいないぞ。
いや、世界中探せばいるのかもだけど、少なくとも悪知恵が働くようになった体だけ大きいガキにしか、俺は今のところ会ったことがない」
「アーサーさんも、レジナも俺からすれば大人ですよ」
「違うな。俺もアイツも大人じゃない」
そこに、レジナが笑顔で声を掛けてくる。
「なになに?
なんの話?」
アーサーが、カガリの頭をポンポン軽くたたいて、答える。
「んあ、こいつが大人の階段のぼったって話」
レジナの翠の瞳が、アーサーの言葉を受けてカガリに向けられる。
その時、何故かカガリは『怒られる』と直感的に思ってしまった。
「ほほう?」
レジナの瞳が、イタズラっ子のそれのようにキラリと光った。
アーサーにしたのとほぼ同じ話を、彼女にしようとして、しかし、ここで初めて彼女に嫌われるかもという感情に襲われた。
嫌われるかも、と。
「まあ、善かれ悪しかれ経験をしたってことかな」
意外にも、問い詰められるとかはなくてカガリは安心する。
アーサーから話が行くかもしれないが、その時はその時だ。
しかし、何となくアーサーはそう言ったことはあまり他人に話さないタイプだと勝手に思っているので安心する。
と、その感情にもカガリは驚く。
「そういうことだ」
意外と言えば、レジナのあっさり加減にも安心とともに内心驚いていた。
もう少し、女子というものはそう言った他人のことに興味をもつ存在だと思っていたからだ。
やはり、彼女は、薄々わかってはいたものの、ドライな部分があるらしいとカガリは確信した。
「あー、でもこれで懸案事項の一つは片付いたし、マイペースにお宝探しと行きますか」
そう言ったレジナの表情はとても明るく、まるで太陽の光のように暖かで魅力的だった。




