02-08:異能を手にした少年少女は
とある結界、とある建物、その一室に七人の少年少女が卓を囲っていた。
『結界』の中にいるという時点で彼らは一般人ではない。
一樹たちが言うところの『召喚士』。それも一番最初に『召喚』を可能にしたトップユーザーの集まりだ。
彼らは召喚という異能を手にしてから定期的に集まっては情報を共有している。今日はその定例会だった。
「つまり、何だ?今は京都っつーか西には近づかない方がいいってこったろ?」
彼らが話しているのは桜薙と呼ばれる、この世ならざる者、人ならざる者のエキスパートの行動についてだ。
一早く『召喚』が可能になった彼らは召喚の利便性、有用性、危険性と様々なことを実験を通して理解していた。危険を冒してまで自衛隊の演習に乱入し、召喚獣の性能を確かめるなどやんちゃもしていた。
遊び半分な気持ちで行った演習乱入とその結果に少年少女は確信した。この能力があれば世界征服だってできる、と。一時ははしゃいでいたものだ。
あの桜薙が現れるまでは。
彼ら召喚士は知った。この世界に召喚獣と戦える力を持つ超人集団がいることを。自衛隊の兵器ですら碌にダメージを与えられない召喚獣を、刀で、槍で、はたまた拳で抹殺していく恐怖の女戦士達の存在を。
あの化物じみた連中をどう対処しようか、そう考えた時一人が言ったのだ。「相手にしなければいい」と。
あの連中は確かに強い。だが遅れてやってくる。駆けつける前に逃げ出せばいいのだ。特撮の怪人ヨロシク、ヒーローがやって来るまで活動する必要はない。
自分たちの召喚獣は人を喰らって強くなる。今はこそこそ逃げ回り、一般人を喰らって力をつけるべきだ、と。
そうして各自、自分の縄張りでレベリングに励んでいたのだ。
だがしばらくすると桜薙以外のイレギュラーが登場した。
魔法少女だ。
五人一組でやってくる魔法少女は桜薙ほどではなかったが圧倒的な戦闘能力を有していた。何より魔法少女は空を飛ぶ。魔法を使って攻撃してくるのでまともに戦っていては近付くことも出来ない。
だが、やっぱり桜薙程ではなかった。少年の召喚獣が魔法少女を喰らった。魔法少女から手に入る経験値が一般人の比ではないことに気付いた。召喚獣のレベルが一気に上がれば誰でも気づく。
そのことを定例会で報告され、その日より魔女狩りならぬ魔法少女狩りが始まった。
召喚士は魔法少女を積極的に狩り始めた。それが一週間ほど前のこと。
今日はその成果を報告するために集まったわけだが定例会の席で西に近付くな、と警告されれば何事かと思うのは当然のこと。
報告を聞けば西、主に京都を中心に召喚獣が狩られているという。彼らの知る限りそんなことが出来る存在は桜薙と魔法少女、そして同じ召喚士だけだ。
その中で最も危険度の高いのが桜薙である。
「桜薙の動向はしっかり監視しているのよね?」
と少女の一人が訊ねる。その問いに少年が「当然だ」と答える。
「だが、桜薙とは別の勢力がいる可能性は否めない。というよりも魔法少女が存在し、召喚士みたいなのもいる。となればもっと別の異能が存在していてもおかしくないだろう」
その可能性に思い至り、しばしの沈黙が訪れる。まだ見ぬ未知の異能。未知の敵。何かを決めるには情報が足りな過ぎる。
「別勢力ね、桜薙だけでも厄介なのに未確認敵性勢力までいるとなると、やっぱ京都からは手を引いた方がいいんじゃないかしら?」
様々な可能性を考慮すればそれが妥当だろう。けれど
「だけど京都はパワースポットが多いし、制圧しておきたい」
そう、彼らは一早く召喚獣を手にして、パワースポットに一早く気付いた。
彼らが呼ぶパワースポットとは文字通り召喚獣を一時的にだがパワーアップさせる場所のことである。
召喚アプリの隠し機能だ。パワースポットを占有状態にしておくとそのスポットに応じたボーナスが召喚獣に付くのである。現在十ヶ所のパワースポットが発見されており、うち五つは京都に集中している。まだ他の勢力、他の召喚士に干渉を受けていないことからパワースポットについて知られていない、彼らのアドバンテージだ。
「そのことだけど、あまりこだわるとパワースポットに感づかれる恐れがある。それだけは避けたい」
「同感だ」
「ではひとまず西からの撤退を⋯⋯そうだな、二週間ほど様子を見よう。では解散」
その一言で全員が一瞬で結界から抜け出す。
――――――――――――――
またとある結界、とある建物、その一室で。少年少女らは談笑していた。
「だからあの禿の最期が笑えるんだって⋯⋯⋯」
話の内容は至極簡単。召喚獣を使ってムカついた人間を嬲って殺したと、それを面白おかしく話しているのだ。
彼らはつい最近『召喚士』になったばかりの少年少女。召喚という異能を手にしてちょっとした全能感に浸っている時期だ。
彼らは知らない。召喚獣すらも打倒する異能の使い手がいることを。それ故に行動は軽率である。気に入らない、そんな理由で結界を発動し、閉じ込め、召喚獣で追いかけまわして、嬲り殺す。ナンパして失敗すれば拉致して犯す。
そんな現代の盗賊と化した彼らは気の向くまま奔放に異能を使う。
今日もへらへらと自身の武勇伝を自慢しているところ、彼らの拠点に慌てて駆けこんだ少年が一人。扉をぶつかる様にして開け放つと同時に叫んだ。
「大変だ!ユージの奴が!ユージの召喚獣がやられた!」
「「「「「は?」」」」」
彼らは走り込んで来た少年の言っていることが理解できなかった。召喚獣という絶対的な力がやられるとはどういうことか想像することも出来なかった。
駆け込んできた少年は息を切らしながらももう一度言う。
「だから!ユージの奴の召喚獣がやられたんだって!」
「召喚獣がやられた?」
「何言ってんだ?召喚獣がやられるわけね―べ」
「ユージの召喚獣ってたしか大蛇だろ?どうやって倒すんだよ?」
そう誰かが言うと皆考える。あの大蛇をどうやって倒すかを。そして一つの可能性に行きついた。
「他のチームか!」
召喚士はチームを組む。召喚獣は協力だが一芸に秀でていることが多く、明確な弱点が存在するからだ。その弱点を補うためにチームを組むのだ。
故に大蛇の弱点を突くような特性の召喚獣がいれば容易いことだ。
「ユージの奴は無事なのか?」
召喚獣は倒されるとゲージが減り、ゲージを消費しきると二度と召喚が出来なくなる。召喚時にゲージをどれ程の割合で召喚したのかによって召喚される召喚獣の強さも上下する。
「ゲージを見る限り五割ってところだ。それが一方的にやられたっぽい!」
五割、その言葉に緊張が走った。
召喚獣召喚にはゲージがあり、このゲージを増やせば増やすだけ召喚獣の力が増す。しかし五割以上割いてしまうと召喚獣は召喚士の命令を無視するようになる。その現象を目の当たりにした誰かが言った。「このゲージは召喚士と召喚獣の力関係なんじゃないか、と」五割というのはギリギリで召喚獣が命令をきく数値の中で実質最強の数値である。
その五割のゲージを消費して召喚されたユージの召喚獣「大蛇」が手も足も出ないまま一方的にやられるというのはいくら考えなしの彼らであっても警戒を促すレベルである。
「で、どんな奴なんだ?ユージをやったのは」
この一言で空気が変わる。へらへらと浮ついた空気からチクチクと肌を指すかのような空気へと。
駆け込んできた少年はしかし、その問いに答えられない。
「わ、わかんねぇ」
「何だと?おめぇ見てたんじゃねーのか?」
「いやいや、そんな三キロ先とか見えないから」
そう、召喚士には大きく分けて二つのタイプがある。召喚獣と一緒に前線に出る者と出ない者だ。やられた少年ユージと報告に走った少年は後者だった。
召喚士は基本無力だ。それ故に召喚獣に召喚士を守らせるのは基本的な事といえる。一緒に前線に出る者は大抵召喚獣に己が身を守らせることを視野に入れて前線へと行く。
しかし中には召喚獣と一緒にいる方が危険な場合もある。ユージと呼ばれた少年の召喚獣は大蛇。文字通り巨大な蛇だ。その攻撃方法はその巨体を活かして範囲攻撃。一緒に前線へ躍り出ようものなら巻き込まれること必至である。
安全を考え距離を置く。召喚獣は別に距離を置いても消えることはないので離れても問題がない。それ故に敵を見ることが出来なかった。
「つっかえねーな。ユージの様子は?」
訊ねられた少年は背中に背負った少年を見せる。
「白目むいてやがるな」
「『反動』か」
召喚獣を殺されると『反動』という衝撃に襲われる。経験者の話では意識が刈り取られたみたいな感じだという。消費ゲージが多ければ多い程『反動』も大きくなるらしい。ユージが白目むいてるのも五割ものゲージを使用してやられたからに違いない。
「それじゃあユージがやられる前は?なんか言ってたか?」
その問いに気を失った少年をチラリと見て答えた。
「えっと、中学生を犯すって言ってた」
場の空気が一気に白けた。
「あ?中坊襲って返り討ちにあったのかよ!」
「ユージだっさ」
白目をむいて気絶している少年に嘲笑が浴びせらる。
一頻り笑うと誰かが思い出したかのように言った。
「いや、待てよ。中学生で召喚獣を撃退ってアレじゃねーか?」
「あれ?」
「ほれ、あれだよ、『魔法少女』」
魔法少女、それは春先から実しやかに囁かれるようになった噂話。
本来なら馬鹿らしいと笑い飛ばすところだが、彼らも自身が『召喚士』としてある以上、魔法少女が実在する可能性を笑えない。一部では魔法少女から得られる経験値が一般人の比ではないとさえ噂されている。
「ああ、メタルスライムみたいに経験値稼げるっていう」
「だとするとうかうかしてらんねーぞ!そんなレアモン俺らが狩らなくてどうすんだよ!行くぞお前ら!」
「それなら殺る前に犯ってもいいか?魔法少女ってみんな美少女らしーぜ?」
「お前も好きだねぇ」
「じゃあとっ捕まえたら輪姦してから美味しく頂きますか!」
「一人で二度美味しいってか?」
「「「「あはははははは」」」」
――――――――――
とある結界、とある建物、とある一室。
そこに集まった少年少女は討論していた。
「だから、今は少しずつでも仲間を増やして地盤を固める時期なのです!」
「地盤を固めるのは賛成だ!でもレベリングをしないんじゃレベルに差が出てしまうだろう?そうなったら後の祭りだ!今は少しでもレベルを上げるべきなんだって!」
「レベルを上げるには人を殺す必要があるのよ?そんなに人が殺したいの?」
「だったらどうするんだよ!レベルの差は着々と開いていくぞ?今、この時だってどこかでレベリングをしているに違いない!だというのに俺等はどうだ?レベリングするしないで無駄に時間を浪費して」
「話し合いは重要です」
「話し合うだけで結果が出ない。決定に従うわけでもない!ここは一体何の集まりなんだ!?召喚アプリを悪用させないための集いじゃなかったのか!?こうしている間にも被害者は増え続けてるかもしれないんだぞ!」
「だからと言って私たちもレベリングですか!?人を殺して強くなるんですか!?それじゃあその辺で悪事に勤しんでいる『召喚士』と一緒じゃないですか!」
揉めに揉めているのはこれまた『召喚士』のグループ。『召喚』という異能を得た彼らはここ最近起きている奇妙な失踪事件や強盗事件がその『召喚』を悪用したものだとすぐに気づいた。
このままではこれからもっと増えるであろう『召喚士』の未来が暗いものへとなることを危惧し、召喚士が起こした問題を解決すべく集った勇者、そのはずだったが
「来る日も来る日も事件の調査ばっかりじゃねーか!そんなもん警察にやらしとけよ!俺たちは力を付けないと対抗するに出来ないだろうが!」
「何を言ってるんですか!?警察なんかにこれらの事件が解決できるわけないじゃないですか!?彼らは『召喚獣』はおろか『結界』だって知らないんですから!」
会議は踊る。踊り続ける。
結局この日も彼らは独自に調査した『召喚士が関わっているであろう事件』の調査報告をして解散した。
レベリングを主張した少年は焦っている。事件を調査するたびに、犯人の召喚獣のレベルが上がっていることが如実に分かるからだ。このまま調査だけしていてはその内気付かれて襲われる。その時に自分のレベル一の召喚獣では太刀打ちできない。それは他のメンバーも同様だ。だというのにレベリングはダメだという主張が大多数を占める。
人殺しがダメだというのは分かるが、人殺しがその辺で更に人を殺し強くなっていくのだ。やってもやらなくても人が死ぬ。ならばその死が殺人犯の対抗手段となる方が報われる、そう考える少年の独善もある意味では正しい。
けれど属する組織はそれを是としない。
そろそろ潮時か、そう考え始めた少年は脱退を決意する。
正義で倒せぬ悪がいる。ならば悪になってでもその悪を倒そうと。
この日、召喚士の悪英雄が誕生した⋯⋯⋯かもしれない。




