02-02:御剣流刀剣術
翌日の放課後。何やら校門が騒がしい。気になって覗いてみれば校門前に制服姿の揚羽が一人立っていた。
原因は揚羽か。
他校の美少女が校門で一人佇んでいれば何事だと思うのも無理なかろう。
揚羽を遠巻きに見ている連中の声に耳を傾けてみれば、中には声を掛けようとしたアクティブな輩までいたようだが全て撃沈したとのこと。
この空気の中合流するのは嫌だな。
下手に注目を集めると面倒事が増えるというのが一樹の認識だ。友達付き合いだ何だで時間を割かれるのは望ましくない。そのため転校してから二ヶ月経っても一樹は親しい友人というのが出来ていない。事実上のボッチだった。
そんなボッチに他校の美少女が訪れて来たとあっては無用なトラブルのもとでしかない。学校の校門でナンパする様な輩だ。余程することが無いのだろう。そういった輩は大抵しょうもないことを仕掛けてくるのだ。前の学校でも四音関係でそういった輩はいた。一ヶ月かけてその手の問題を消化するのはとても手間だったのを覚えている。
なので一樹は一旦校門を離れ、別の場所で再度合流しようと一歩引いた。しかし、それが良くなかった。
大勢の視線が集まる中、揚羽は自身から遠ざかろうとする視線を捉え、その先にいた一樹を見つけるや否やスタスタと歩き始めた。
揚羽の行く先に視線が集まる。
「ちょっと一樹、忘れたの?放課後は一緒に出掛けるって言ってたでしょ?」
無遠慮に掛けられる揚羽の声に周囲からは「誰だアイツ?」と訝しむ声が上がる。内容も一緒に出掛けるという、思春期補正が掛かればデートと訳されるものだ。ナンパに失敗した者、これからしようとしていた者の放つ視線に感情がこもる。
しかし、揚羽は周囲を一切気にせず一樹の手を取るとその場を後にした。
周囲の視線に面倒な気配が混じったのを感じた。明日から何もなければいいのだが。
一樹は面倒ごとの予感を心配しながら、揚羽に手を引かれて行く。
――――――――――――――
学校から少し離れて街中をぶらつく一樹と揚羽。
適当な店で歩きながら食べれる物を買い、仲睦まじく食べ歩くその様は普通の学生カップルそのものだった。もっとも、それは表面上だけで揚羽は笑顔のまま文句や愚痴を垂れ流しているのだが、綺麗な笑顔から罵詈雑言が飛び出しているとは誰も思うまい。
一頻り愚痴を吐き終わった揚羽を黙らせるべく食い物を買い与え、街中をぶらつく。目的は勿論『結界』だ。
揚羽も愚痴を零していたが、刀子がああいう命令口調の時に逆らうと稽古が始まり面倒だという。やっても見つからなければ、それはそれでいいらしいのでこうして二人で街をぶらついている。
まぁ、結界なんてそうそう見つかるもんじゃない。昨日のだって大分前のが残っていたという可能性も無きにしも非ずだ。このまま買い食いでもしながら日が沈んだら帰ればいいさ。
その考えに揚羽も首を縦に振る。要は見つけたらボコれ、程度の命令なのだ。そのためか行先は全て揚羽が決めていた。どこもかしこもオシャレなカフェだ何だと一樹は落ち着かないが揚羽は慣れた様子で注文を済ませ、他愛ない世間話を一樹と始める。一樹はそれに相槌を打って揚羽が食べ終わると店を発つ。これの繰り返しだ。
だが五件も食べ歩くと流石に話題が尽きたのか、流れが本題へと戻り始め、今は一樹に御剣流刀剣術についての御高説をモンブランをつつきながら垂れていた。
「つまり御剣流の剣術は究極的には二つの技しかないのよ。その二つを如何にして決めるか、それが重要になってくるの。桜薙流はどれも武術一辺倒ではなくその流派の技と他のスポーツや武術の動きを取り入れたものの組み合わせで出来上がるの。そうすることでより実践的な動きを培うように出来ているの。
一樹も思ったことない?今ある剣道や空手って何処か実戦に即してないって。それはスポーツとして残ったことで本来の形を変えてしまったからよ。スポーツで人死には出さない。だから殺しうる技が削ぎ落された結果、歪な形で残ってしまったというわけよ」
「ああ、それで手合わせした相手が皆違う動きをしていたのか」
一樹はこれまでに手合わせした甲種戦姫と呼ばれる異能を持った者達を思い出す。皆、基本的な身体強化は勿論『放ち』まで使う者までいた。けれど皆太刀筋はバラバラ、予備動作も見事に違っており、本当に同じ道場の門下生かと思う程だった。
「そうよ。最近ではスポーツ科学、なんてものまで出始めているけれど私たち桜薙一門にしてみればそれは愚の骨頂なの。科学的に理論立てるのはいいわ。でも全ての人に適応される理論は存在しない。科学的な見地ではより大勢に効果があった物こそが評価されるけれど、それでみんな同じことが出来るようになるわけじゃない。凡人でもそこそこ出来るようになる程度、科学的見地ではそこが限界なの。私たち桜薙はそれではダメなのね。自分に合ったものと組み合わせることでより先へと進むの」
揚羽の言うことは理解できる。どんなに科学といったところで大本になる人間が違い過ぎて効果の程は極々薄い。プロスポーツの選手と同じ練習メニューをこなしたからといって同じように出来るわけではない。だから桜薙の門下生は主軸となる技を教わり、その技を如何に使うかを自分に合った動きと組み合わせるというのだろう。
「で、二つの技って?」
「御剣流刀剣術の基本にして奥義である『剛剣』と『柔剣』よ。剛剣は重さと勢いを上手に乗せて断ち切る方法。柔剣は自身の得物の切れ味を極限にまで引き出すように刃を入れる角度と引き抜く速度に重点を置いた引き切る方法。一樹は姉様との手合わせでそのどちらも経験してるわね」
揚羽の言葉で思い出されるのはこちらに来た初日の出来事。実力を見ると言って刀子が一樹に試合を申し込んだ時のこと。
――――――――――
一樹は自分の失敗が引き起こした惨劇をまじまじと見ていると、ハルカと呼ばれる女性が「これから貴方にはその力の使い方を学んでもらいます」そう言って連れられて来たのが今の御剣家。
九重の所同様に一瞬で京都まで移動した。
山の麓にある如何にもな日本の屋敷。いや、城にも見えた。高い石の壁で山を丸ごと覆うその広大な敷地。門を潜るとそこには体育館ほどの大きな道場があり、奥には本丸と思わせるような重厚な屋敷があった。
ハルカはその屋敷の更に奥へと進み山の反対側へと向かった。そこにも別の屋敷があった。けれどその屋敷はここに来る途中で見た道場や屋敷とは雰囲気が違った。何というか、桃色の空の空間にある空飛ぶ城、あそこに近い雰囲気を醸し出していた。
屋敷に入るハルカを出迎えた人が慌ただしく屋敷の奥へと駆けて行き、ハルカもそれに続いた。一樹もついていく。
屋敷の一番いい部屋だろう所に黒髪ロングの美人さんが少々疲れた様子で待っていた。ここの主だろうか。
一樹がつくなりハルカは挨拶もそこそこにその疲れの見える美人に何やら話すと美人さんは訊き返した
「ハ、ハルカ様、今何とおっしゃられましたか!?」
「え?だから彼に稽古をつけてやって欲しいの。静岡のことはもう聞いてるでしょ?彼が聞きかじった程度の知識でやらかしちゃってね。結果は散々なものだったけどアレは事故よ。全てを彼のせいにするのは余りにも無責任という奴よ。だからここで修行してもらおうと思って連れて来たの」
ハルカの何とも適当な説明を聞いた女性はじろりと一樹を見ると「彼を⋯⋯ですか?」と困惑した様子。
けれどハルカは気にすることなく一樹のことを説明した。
「大丈夫、大丈夫。こう見えても彼はもう第三工程まで進んでいるから。ただ独学のせいで本当にお粗末な出来なんだけど、独学で出来ちゃうくらいには優秀だからお手本を見せてやれば勝手に学んでいくわ。手取り足取り教える必要はないのね。ね?楽勝でしょ?」
ハルカの説明は一樹にしてみればよく分からないモノだったが美人さんにはそれで十分だったようで「本当に?」と訝しんでいる。
「こういうのは百聞は一見に如かずってね。自分の目で確かめればいいわ」
ハルカはそう言うと表へと出て行った。一樹もそれに続く。
ハルカが向かった先は広場だった。普通の屋敷ではないのは気付いていたがよもや九重の訓練場みたいな場所が実際にあるとは、と驚く一樹。
しばらくすると何やら人が集まりだした。広場の隅の方に並ぶ。ハルカは「観戦だよ」と一樹に囁く。もう少しすれば先程の疲れた美人が現れた。ただし服装が先程とは異なっていた。
それを見たハルカが一樹と刀子の丁度中間あたりまで移動する。
「それではこれより、斬道御剣、御剣流刀剣術、甲種一級戦姫、総師範、御剣刀子と妖刀使い笹瀬一樹の試合を始める。刀子、本当にいいんだね?一樹君に妖刀を使わせても」
試合開始前に確認をとるハルカ。それに即答する揚羽
「構いません。私も真剣を使いますから」
「一樹君もそれで構わないかい?」
ハルカは一樹にも確認を取る。
「いや、構わないっていうか、よく分かんないです。妖刀とか真剣とか使って大丈夫なものなんですか?」
自慢ではないが一樹の戦闘経験は何れも相手を殺すことで決着してきた。相手を殺さずに決着させる勝手が分からなかった。そもそもどうすれば勝ちになるのか、それさえも分からない。
「大丈夫だ。そのために立会人として私がここにいる。いざって時は私が止めよう」
ぽよん、と自身の胸を叩いて任せろとハルカは言う。
確認が取れたところで始まる、かと思いきや今度は刀子さんの方から確認を始めた。
「ハルカ様、この試合の出来によっては彼にお帰り頂くことになりますが構いませんね?」
刀子の言葉を聞いて一樹はやっぱりと、面倒事を確信した。
この刀子なる疲れた感じの美人さんは俺に稽古をつけるのが嫌なんだろう。きっとハルカの方が位が高いから仕方なく、と言ったところか。
一樹が相手の言葉を聞いて分析をしているとハルカはあっさりと刀子の主張を呑み込んだ。
「もちろんだとも。その時は別の分家に頼むとしよう。では構えて」
刀子は刀を抜いて構える。
一樹も竹千代を抜く。今回は形態変化での鎧武者は様子見だ。心を落ち着けて思考を加速。『身体強化』と『纏い』を使う。それを見てハルカが試合開始の合図を出した。
「始め!」
ハルカの合図が響き渡ると同時に駆けだしたのは刀子。刀子はあっという間に間合いを詰めて一樹へと斬りかかる。
上段からの振り下ろし。踏み込む力で叩き斬るものと分析した一樹は自ら距離を詰めて迎撃を選択した。
踏み込んだ形の振り下ろしは踏み込む力を利用するためにタイミングが重要になってくる。それをずらすことが目的だ。
刃と刃がぶつかる距離。振り下ろされた刀。一樹は更に一歩踏み出して自らぶつかりに行くことでその刃が自身に届く前に鍔を叩きあげて刃を退ける。
ボンッという破裂音が空気を震わし、暴風が二人を襲う。
刀子はぶつかった衝撃に逆らわず下がる。一樹はそれを追う。
一樹は今の一合で直感した。距離を空けてはダメだと。
刀子の一撃は重くて速い。それも勢いを乗せて打つのが驚くべき練度で行われている。今の不完全な振り下ろしで身体強化と『纏い』を用いた一樹の腕は痺れている。もしどちらか片方だけでも使用していなければ振り下ろされる刀の勢いを止めきれず、その刃は一樹の身体へと食い込んでいたことだろう。
勢いを付けさせてはいけない。そのためには助走をさせないのが一番手っ取り早い。そのためにも距離を空けてはいけない。そう考えての追走。そのはずだった。
馬鹿なッ!?追い付けないだと!?
一樹の強化された身体能力ですら後方へと下がる刀子に追いつかなかった。
一樹は自身の見積もりの甘さを自覚し、追走を止めようと考えたその時、刀子からの反撃に遭う。
追いかけた一樹の勢いを利用しカウンターの突きを合わせてきた刀子の刃。
加速された思考で突き出された刃を見切る。一樹は辛うじて躱す。
しかし、突き出された刀に目を奪われていた一樹のどてっ腹に衝撃が走る。
視線を動かし見れば、そこには刀子の足が突き刺さっていた。
一樹の動きが一瞬止まる。刀子はその一瞬で追撃の横薙ぎ。
ダメだ躱せない。そう思った一樹は竹千代の形態変化を発動させ。手に持った竹千代の刀身を伸ばして、横薙ぎを下から刀身を叩き上げて躱す。
刀身を叩き上げられたことで刀子の大勢が崩れる。
今度は一樹が反撃に出た。
形態変化の解除を待つ時間が惜しい一樹は強化された拳でガラ空きになった刀子の脇腹に差し込むように拳を突き出す。
対して刀子は叩き上げられた勢いをそのままに、跳ねて足の裏で一樹の拳を受け止めると、振るう拳の勢いに乗り大きく後方へと跳んだ。
それを受けて一樹も後方へと刀子から距離を取る。下手に近付けばまたカウンターを狙われると直感が告げていたからだ。
ダメージ自体はそれ程でもないが動きを止められるのは厄介だ。しかも刀を振るう速さが半端ない。
一樹がどうにか躱せているのは思考加速で剣筋をよく見ているから。だが刀子の振るう刀は思考加速をした一樹でさえ一瞬見逃す瞬間がある。
きっとあれが刀子の振るう刀の速さの秘密だ。
一樹は思考加速の速度を上げ、瞳に『留め』を使う。するとうっすらとだが見えた。刀身から一瞬、何かが噴き出したのを。よく見れば一瞬だが刀子の身体中から吹き出しているのに気付く。
まさか、『放ち』をスラスター代わりに利用している?いやそれだけじゃない、『留め』も所々使っている。『放ち』で加速し『留め』で自身に掛かる負荷を軽減している?
そんな無茶な、と一樹は目を見張る。
身体強化を施された身体の負荷は耐久力を大きく上回る。速度を出せば小回りは効かなくなるし、人間の関節はその負荷に耐えられない。
さて、どうしたもんか。
試合開始からまだ一分も経過していない。
――――――――
刀子と一樹の試合を見ている甲種戦姫の門下生たちは堪ったものではなかった。
というのも二人の動きは人外そのもの。音速に迫る速度での挙動。一挙手一投足が繰り出すのは技だけでなく衝撃波とそれに伴う暴風。観戦するのも命懸けの暴力の嵐だった。
甲種戦姫に混じって観戦している揚羽にはその光景が理解できなかった。
元魔法少女である揚羽も多少の高速戦闘を経験している。けれど暴風を伴う程の速度での近接格闘戦など経験していない。揚羽の繰り出す柔剣はいつだって相手の物理的防御を紙きれ同然に切り裂き、一撃で敵を葬って来たのだ。
近付いた時点で勝利を得てきた。そんな揚羽は近接格闘型でありながら格闘戦の経験に乏しいという矛盾に終ぞ気付くことなく姉の刀子に挑み、秒殺されたのだ。言っちゃなんだが姉は人間じゃない。
そんな姉とタメを張る高校生って何者!?
対戦相手は距離を取る姉に追撃を掛ける。しかし、揚羽は知っている。下がった姉の挙動は誘いの隙。追撃を掛ければカウンターが待っている。
これで終わりか。初撃を迎撃したのには驚いたけどここまでか。
揚羽も引っかかった二段構えのカウンター。姉の常套手段だ。初見ではまず引っかかる。まともに喰らえば動けなくなり、動けたとしても動きは鈍る。そこに体力超人の姉の攻撃から逃れる術はない。
揚羽の予想通り、高校生は突きと蹴りの二段構えのカウンターに引っかかった。突きを躱しただけでも十分に凄いがそれだけでは足りない。超えられない壁がある。動きが止まった高校生に姉は止めの横薙ぎ、しかもあれは柔剣。姉の力量では金属だって容易く切り裂く。
いくら何でもやり過ぎだろう、と目を見開く揚羽は信じられないモノを見た。高校生が持っていた刀が伸びて姉の横薙ぎを叩きあげたのだ。
何だあれ、と思う間もなく高校生は追撃の拳を振るう。変形した刀では追撃が出来なかったのだろう。
体勢を崩した姉はそのまま飛び上がり拳を蹴りで迎撃。そのまま跳び下がる。高校生は今度は追撃に移らなかった。しかし、構えを変えた。
高校生は刀を持った右手を上げて剣先は左下へ、峰に左手を添えた独特の構え。
右手を上げておきながら剣先が下がっているのでは動きに制限が出来るだけで何か利点がある様にも思えない。
あれは何?見たところ攻撃にも防御にも向いていない。恰好いいけど実用的じゃない
訝しむ揚羽は成り行きを見守る。
待ち構える姉に、高校生が取った行動は歩くだった。
なるほど。下手に速度を出せばその勢いを利用したカウンターが待っている。だからカウンターを封じるために歩く。それは分かるけどやっぱりあの構えが分からない。
歩いて近付く高校生に待ち構える姉。とうとう互いの刀が触れ合う距離まで近づいた。
交錯する視線は互いに互いを見ていない。
どういうこと?どうして互いに相手を見ないの?
高校生が見ないのは、まあいい。凄い動きをするけれど剣戟を見るに素人に毛が生えた様なもの。武術の心得があるとは思えない。しかし、姉が、あの姉が相手を視ないのはおかしい。
何かあるの?だからこの試合を見るように指示したの?じゃあ、一体何が⋯⋯
思考が逸れるより先に戦局が動く。高校生が持っていた刀から無数の刃が伸びた。
これか!この攻撃のための構え。
高校生が取っていた構えは一見して不可思議で非効率的。剣を振るうにも一度守りを外す必要があるからだ。しかし、刀から刃が伸びるとなれば話は別だ。あの振るうにも突くにも向かない構えは、刀から伸びる刃の数を増やすためのもの。腕を上げたのは伸びた刃で重心が変わった際に備えてのもの。
構えの不可思議さに納得する揚羽。
でもそれだけじゃダメ。
一瞬で伸びた無数の刃を姉は右へと避けると高校生の無防備な側面へと迫る。
形態変化を使用したら元に戻す時間が必要というのは知られていない。だがその隙を一度見ただけで看破した刀子の行動は迅速そのもの。
避けて、迫るまで一秒にも満たない時間。これで終わる。揚羽はそう思った。
けれど高校生はあろうことか武器を捨てた。刃を伸ばした刀から手を離し、迫り来る姉の刀、その柄を空いた手で迎撃に向かう。
その判断速度と行動力に度肝を抜かれる揚羽。まるでそうなることを読んでいたみたいに動きが滑らか。
振りかぶった姉の大勢では刀を振るうよりも先に高校生が伸ばした腕が届く。そのはずだった。
これだ!これだよ!
暴風すら発生させながら移動する姉が、慣性を無視して急停止する。カウンターを狙って突き出された腕は空を切り、急停止した姉が突如として動き出すストップ&ゴー。この訳の分からない動きに高校生は対応できず、斬られた。揚羽はそう幻視した。
しかし、実際は立会人であるハルカ様がいつの間にか二人の間に立ち互いの攻撃を片腕で受け止めるという一番無茶苦茶な行動をしてみせた。
「そこまで」
そこで試合は終わった。
姉の勝利で幕を閉じるも揚羽は静かに、けれど確かに興奮していた。あの体力超人の姉とここまで攻防を繰り広げた者を未だかつて知らない。それが高校生で出来るなんてとんだ化物だ。
あの領域に達するには何が足りないのか。揚羽は目指すべき目標の影を確かに捉えたのだった。




