第14話 計画阻止
ボスの炎の弾でシャッターに出来た穴から、クリカが外の世界に解き放たれている。「ヤバいよ、これは」
逃げるクリカを追っかけてシャッターから出てみると、煙が四散するように空に消えていく。
「うわー、チョーまずいぞ。これは」
雅夜は中に風を流し込み、出てこられないように押し戻し、俺は電磁幕で蓋をして抜け出たのを必死に止めているのだが、なんせクリカの数が多すぎる。
中から芽衣がコントロールして、タイミングよく吐き出して居るので、どうしても少量は出てしまうのだ。その数、たとえ少量をいっても数十、数百という殺人毒虫が飛び出し、漂って辺りに消えていく。
「ダメだわ。数が多すぎる。蚊のようなクリカは小さすぎる。散ってしまったものを一匹一匹潰すことは、もう不可能・・・・」
雅夜が絶望に近い声を上げて、散っていくクリカを見つめている。
「逃げたクリカはこれから江東区を襲うわ。江東区は死体の山になる。これから一番の繁殖期の夏が来たら、被害は拡大する。そしてこれは江東区だけではすまない。数を増やしその被害は拡散して、来年には東京全土に広がることになる」
必死にシャッター外側から雅夜は、風で止めながら、最悪のことを口にする。
しかしそうだ。その通りだ。雅夜の言う通り、東京が壊滅するかも知れない。
「サトジュン。頷いているだけじゃなくて、なんか考えなさい」
うん。その通りだが、俺にいい考えなんて期待しても無理だな。・・・・しかし本当にどうにもならないのか?
まだ気温は温かくはない。活動も弱い今のうちなら被害を最小限にする方法はないかと、無い知恵を振り絞って考えるが・・・やっぱり浮かばない。
実際いつも夏になると必ず蚊にさされているんだから、避けようがないな。今年はそれでクリカに刺されて、死んじゃうのか。たまらんな。
絶望にも似た気持ちで、とりかくシャッター前を抑えていると、俺の目の前を、すーっと何か小さい影が、早いスピードで通過していき、ふわふわ飛んで漂っているクリカを空中でキャッチし何処かに消えていった。
「え、何?何か、通った」
それは一匹ではなく、何匹もいて、まるで空間を切り裂くように目の前を通過し、その度、浮いているクリカを確実に捕獲して飛んでいく。
よく見ると小さい影は7~8cmくらい長い棒のようなフォルムをしており、そこに4枚の銀色に透き通る羽根をもち、滑るように空を飛ぶものだった。
「トンボ?」
そうトンボ、もしくはそれに似た虫が、蚊のような毒虫・クリカを捕食して飛び回り始めたのである。
「トンボよ。トンボがクリカを捕まえてくれている・・・」
それを発見した雅夜は、呆然とみとれている。
「凄い、トンボだ。いいぞクリカをぶっ殺せ」
俺は救世主トンボに拍手した。・・・しかしなんで?どっからきた?まだ夏じゃねえのにトンボなんて・・・
シャッターの中まで入りだしたトンボが、ボスの目の前を飛ぶ。それを素手で捕まえて確認する。
「ヤンマー。これはまだ次の作戦の虫。壊滅の後の浄化の虫じゃないか。なぜこんなに早く飛んでいるんだ?」
次々と侵入してきて、クリカを捕獲するヤンマーを、芽衣が口笛を吹いて、操ろうと試みるが、
「何故?どうしてヤンマーを操れないの?」
外の広場には笛を吹きながらダニャが広場にやって来る。
「どうにか間に合ったようですね」
「間に合ったって、何が?」
一応はシャッター前を閉じる作業はやめず、広場に来たダニャに聞く。
「これですよ。ヤンマーです」
ダニャ笛を吹くと、上空を飛んでいたトンボたちが、シャッターに大挙して押し寄せてくる。
「何?どうなってるの?」
このトンボに似たヤンマーという虫は、ダニャの吹いている笛の音に従っているようだ。
シャッターの穴の電子幕を外すと物凄い数のヤンマーが突入していく。
「すげー。どっから来るの?」
「これは植物園から来ています。毒虫の対抗策として僕が植物園で育てた虫です。見よう見まねですが、なんとか僕も笛でコントロール出来るようになりました」
植物園の方から、空に帯が出来るくらい膨大の量が、一直線になるようにこちらにやって来ている。まるで虹がかかるように、ここまで一直線でつながっている。
そしてここの建物の上空にくると各自が散り、 小さい編隊を組んで捕獲に入る。まるで戦闘機が各自、ドックファイトに入るかのようにクリカに襲いかかっていくのであった。
「虫を退治すには、やはり虫が一番なのです。トンボというのは、上下左右に動くのを得意としている捕獲虫の中でピカ一のハンターで、一撃離脱でどんな虫でも撃墜する能力を持っています」
そういうとダニャ。虫笛を吹き、もっとトンボを焼却炉の建物のシャッター中に注ぎ込んでいく。
「ヤバいね。ヤバいね。圧倒してんじゃないの」
喜んでみていると、ヤンマーの中から芽衣が現れる。
シャッターの前にいるダニャ、見つけ、後ろから続いて現れたボスに、ダニャを指さし、ヤンマーの操縦者を教える。
「ウチで育てたヤンマーではないので、思うようにコントロール出来ません。向こうの持つ虫笛のほうが強いようです」
「邪魔ですね」
ボス、ダニャに向かって進み、火の玉を飛ばすが、それを横から、空気の壁を使い弾き飛ばす雅夜。
「ありがとうございます」
「もっとやって毒虫を蹴散らしなさい」
ボスの隣の芽衣も音波弾を出すが、俺の放った弱弱しい電子弾でも防ぐことが出来た。
俺と雅夜で、ダニャを隠すように立ち塞がる。
ダニャ、微笑むとトンボの指令に専念する。
「なるほど、こちらの計画に完全にカウンター処理を行えるよう準備していたようですね。素晴らしい。だけど、こちらもこのまま終わらせるわけには行かないのですよ。何かしらの結果を貰わないと終われませんよ」
ボス、そばにいる芽衣に聞く。
「他の虫たちはどうしてます?虫の成長度は?」
「地下の虫は、成長度は、50%程度」
「仕方ない、それでもいい放流します。この時点でここの場所は復旧不可能と判断し、ここを破棄します。貴方は第2次の部隊と合流しなさい。ココのデーターを使って第二次計画を始めなさい。同じ轍は踏まないように」
ボスは芽衣を広場から追い出す。頷いた芽衣は再び蜃気楼を使って、目の前から消えていく。
雅夜それに気が付き、ダニャに言う。
「芽衣が逃げるわ。こっちは任せて。新たに何かされたら、やっかいだわ。芽衣をお願い」
「こっちは、これで大丈夫かい?」
「なんとかなるでしょ。トンボと一緒に頑張るから」
微笑むと芽衣を追い、再び姿を現した桟橋の方に走って行くダニャ。
ボスは、広場近くに隠れている某国人を呼ぶ。すると数人の虫に刺されてなく、まだ生き残っていた某国人たちが集まってくる。
「作戦変更します。地下にある全ての虫を開放です」
「でも、この中を下に行くなんて・・・」
言葉を言い終わらないうちに、ボスは発言している某国人に炎をぶつける。
燃え上って転げまわる某国人。
「・・・」
「いいですか、下を解放出来たら、下につながっている船で逃げれます。そしてこの仕事を成功させる事が出きた者は、この後、上位の勤務が可能になることでしょう。ここで死ぬのと、生き延びて船で逃げて未来を掴むのと、どちらがいいですか?」
「・・・はい!」
アリ部隊の某国人の5~6人、トンボが侵入しているシャッターの中に飛び込み、地下に通じる奥の階段へと走り出す。
おー、しまった。クリカを退治しているヤンマーを応援して見惚れていた。
ヤバイ、ボスがなんか動き出したぞ。俺と雅夜は、何かが始まったことを感じた。
「行ける?」
「いや、雅夜の方が近い」
「了解。確かめる」
そういうと雅夜、走り去る某国人たちを追いシャッターに向かう。
ボスはそれに気が付き、火の玉を出すが、雅夜も判っていたようで、それをかわし、シャンターの中へと消えていった。
「まったく次から次へと、邪魔をするもんですね」
今まで、こちらを相手にもしていなかったボスの劉王江が、こちらに向かってくる。
「ご丁寧によくも我が計画を潰してくれたもんです。責任をとってもらいましょう」
ボスは残った俺に向かって正対する。そして上着を脱ぎ、シャツの腕をまくり、準備をし始めた。本気の攻撃を仕掛けてくるようだ。
それで迎え撃つは・・・あれ、俺一人?
誰もいないよね?嘘。俺一人でボス戦?
しかもやる気満々、敵のラスボス。へなちょこ電子レンジのような能力しか持ってない俺。・・・・・どう見たって無理。勝てるわけないっていうの。
焼却炉脇の金属製の階段を、カンカン鳴らして、降りていく某国人数人。少し広くなった施設内に音が響く。
階段にたどり着いた雅夜、追いかけながら人数をかぞえる。
「1,2,3,4人、5・・・」
すると10メートルくらいある階段を下りながら某国人の一人が、奇声を上げて転がり落ちる。たぶん虫に刺されたのだろう。悶え苦しんでいる。
「4人ね」
奥のこの辺は、まだヤンマーにやられてないクリカが渦を巻いているため、気を付けて走らないと、服とかに間違って入れてしまう可能性がある。そんなとき刺されれば、某国人のように悶え死ぬ。
自分の周りの防御の風を増やし、倒れて苦しむ某国人をまたいで柵に登ると、そこから一気に地下に飛び降りる雅夜。
階段を下りた地下には左右に向かう通路があり、先のたどり着いた三人は右に曲がり走っていく。
ちょうどしんがりの4人目の背後に、ふわりと降り立てた雅夜は、刀に巻き付けた風でしんがりの4人目の背中を打つ。吹き飛んだ某国人は壁に叩きつけられ、死亡する。
「残り3人」
雅夜、前を走る3人を追いかけるが、なかなか某国人の足が速い。
「失敗したな。暗いし、凄い悪臭。追っかけるこっちは、サトジュンにやらせればよかった」
雅夜も右の通路を進み、追いかけていくと、3人目の某国人が振り向き、立ちはだかってくる。結構身体大きな男で、雅夜を女と思ってなめてくるが、雅夜、まるでお祓い棒を振るみたいに軽く刀を振ると、某国人は横殴りで吹き飛ばされて壁に叩きつけられて死亡。
「邪魔なのよ。まったく」
先に進み奥に向かい残り二人を追う。
雅夜が走る廊下は、各施設に水や空気を通す太いパイプが、伸びている廊下で、各施設のゴミを燃焼させるため、ガスや重油も流れているパイプが設置されている。
鉄の渡橋や階段で構成されている頑丈な廊下で、そこを大きく太いパイプを何本も繋げて送る配管されている。
色々な大型な機械が並び、コックやバルブのハンドルがあちこちにあり、雅夜が進んでくると、その一本のパイプに着いた直径30cmぐらいのハンドルを回している某国人を見つける。
某国人は、どうやらハンドルでパイプを開いて、何かを下に流し込んでいるようだ。
「そこで、何をしているの?」
「・・・」
聞いても、答えるわけない。
「とにかく良からぬことに違いない」
雅夜は近づき、とにかく某国人を風の巻いた刀で倒したが、何か液体は流れっぱなし、下に落ちている。
「水?なんで水?・・・・よくわからないけど多分こういう時は・・・・やはり止めたほうかがいいのよね。・・・とリあえずハンドルを元に戻して水を止めましょう」
ハンドルをどうしたらいいのか判らないが、ハンドルを数回、反時計回りに回していくと水が止まった。
「これでいい?まあいいでしょ。・・・さて残り一人はどこに行った?最後の一人が何処かしら?」
雅夜、奥へと進んでいくと通路は再び階段になり、下に降りる。進んでいくと下の階のドアが開きっぱなしになっているので、そこに入ったことが分かる。雅夜もそのまま中へ入って行く。
出たところは、強大な空間の部屋。その真ん中は25x15mのプールのような大きさのコンクリートの池になっていて、そこに膨大な量の生ごみが貯められて積み上げられている。
「臭い。なにこれ?」
さっきの上の水は落ちてこのプールに注ぎこんでいたようだ。しかし何のために水を流し込んでいたのか?
「ここに水を入れてふやかしている?いや体積を増やしている?あふれさせようとしたのかしら・・・・でもこれはなに?生ゴミよね?」
雅夜、見つめていると、何かおかしい。
生ごみをジッと見つめていると、その生ごみ全体がウネウネと波打っていることが判った。
「何これ?生きている生ごみ?」
マリーナまで逃げた芽衣に、追いつくダニャ。風のカッターを飛ばし、前を走る芽衣を襲う。
しかし芽衣、そんなことは承知だったようで、音の壁を何個も漂わせていた。
音の壁といってもしっかりしたものではなく、ぼんやりとした陽炎のような、薄く丸い音の球のようなもので、防御と呼べるものではなくて、カッターを止めるぐらいのもの。でも役目は果たしており、カッターが突き刺さるとシャボン玉がはじけるように一緒に消える。
「残念だったわね。じゃあね。さようなら」
芽衣が桟橋に着くと、そこに某国人が運転するモーターボートが桟橋の脇に並んでくるので、芽衣はジャンプして飛び乗り込む。
ボートは速度を上げて桟橋を離れ、メリサが焼いた船を避けて、細い運河を登っていく。 桟橋を走るダニャ、ジャンプして運河に平行しながらボートを追尾する。
ボートは、橋をくぐったり障害物の多い運河を走るのだが、かなりのスピードで走る。
「やっぱりモーターボートは早いな」
懸命に速度をあげるダニャだか、やはりモーターボートの速力は早く、ボートから次第に離されるため、ダニャは自分の能力を使って空中に浮き、橋から橋へとジャンプしながら高さを利用して追尾していく。
芽衣、そんな懸命に追ってくるダニャを微笑みながら見て、手を振り、音の空間をもった大きなシャボン玉をいくつも作り、空中に浮かべ、ダニャの前に漂わせる。
結構大きい空間を占有するシャボン玉。ダニャはよけきれず突入して通過してしまう。シャボン玉空間の中は物凄いノイジーな大音響が渦まいており、ダニャはその攻撃を食らう。しかし懸命に耳をふさいで、必死に追うが、
「どこまで耐えられるかしら」
と、芽衣はボートの上から何度も発射して空中に浮かべるので、追っているダニャはそこに突入せざるを得ない。
そしてダニャ、いくつもいくつも食らいすぎて耐え切れなくなり、ついに耳を抑えなら落下してしまう。運河に落ちて沈み、上がってこないダニャ。
「コレぐらいで、死なないでね。また会えることを楽しみにしてるわ。ジュンイチ君」
芽衣を乗せたモーターボートは走り去って行った。
いやー、まいった。ボス・劉王江に追われてシャッターの中に逃げ込んだのが間違いだった。
一方的に火の玉を落とされ、逃げ回る俺は、少しでも障害物がある建物内に逃げ込んだのだが、ボスは中に入ってくると、横にある焼却炉の覗き窓を割り、炎を大量に取り出してしまった。
焼却炉の温度は800度。炎が覗き窓から、外にチョロチョロと出ているが、ボスが指を振ると、そこから炎が延びてきて、ボスの目の前に火の輪が出来る。
自分で出すより他から火を使って利用したほうが楽だ。体内のエネルギーを使わずに済むので、効率がいい。
そしてそれを輪投げのように、笑いながらこちらに投げてくる。
うひゃー。あぶねえー。
・・・しかし逃げ回ってるだけじゃしょうがない。
「これは、どうすればいいんだ?いや考えるな。相手を倒す。ただそれのみ」
そう。レベルの違いは考えても仕方ない。とにかくなんかしようと、俺はメリサに教わった腕を回して手から雷を出すやり方でやってみる。
俺の手から出た雷は、火の輪の一部を吹き飛ばし、輪がほどけて弾け消える。
「よし。効果はある。とにかく考えるな。撃て」
自分で自分を鼓舞しながら、奥の建物の鉄鋼の柱まで届かせるように打つ。この前は出てこなかったが、形だけでも構わない。撃つ。
「おりゃ~」
腕を回転させて、アンダースローの投法のように手を振ると出た。紛れも無く雷光だ。見事、柱までは届いたが、ボスは、はるか前に察知して、体をずらす。ハズレ。
そして今度はボスの攻撃。
ボスは、炎を一度、体に巻きつくように引き寄せ、そしてその炎を、龍の突進のように、こちらに向かって飛ばしてくる。
俺は必死に身体を横に転がして避けるが、強烈な炎の大きさ、強烈な温度で、顔が一瞬に燃えた。いや日焼けした。
「なんだこの炎。そばを通っただけで燃えちゃうよ」
ボスは、それを再び引き寄せ、鞭のように振り回して打つ。
こちらに突進してくる炎に俺はすぐさま、電子で壁にして防御するが、炎はそこにぶつかって盛大に炎を散らす。
当然勢いが凄く、ドガーンと、押されて、後ろにいる俺は、ドガーンとそのまま壁まで飛ばされる。
「ヤバイ。レベルが違う。・・・・次のが来たら、シャッター方面に飛んで、そのまま外に出て逃げよう」
俺は逃げることを考慮に入れながら、身構えると、そんな逃げ腰は、簡単にボスにバレて、
「そんな中途半端で気持ちでいいんですか?こんな狭い場所で逃げたら死にますよ。かかってきなさい。勝てないけれど、それのほうが無様な死に方しなくていいと思うよ」
・・・・駄目か。まあそうだな、2波連続されたら、飛んで転がっている時、焼かれちゃうもんな。うわー、どうしよう?
「考えるな。と思っても考えてしまう。やはり俺はこんなもんだ。・・・だったらしゃあない。どうせ死ぬなら、相手の腕の一本でも、もいでやるか。それで次に戦うメリサか、マルシアに有利になるのなら」
俺は丸いイナズマ玉を両手の中に作り、それを飛ばした。
出来るだけ大き目な丸い玉だが、俺にそんな強いのは作れない。これは張りぼてのダミーだ。
そして本体はこっち、小さくて硬い弾丸。手の中で作って飛ばす。スピードと硬さが出てくればオッケー。相手に体に当たってくれればラッキー。
だがボスの対応は早い。体に撒きつた龍のような炎を、俺の出した丸い玉に当てて吹き飛ばし、そしてすかさず自分の前に高温度の炎の壁を作った。
「あらら。バレてるのね」
俺の狙った小さくて硬い弾丸は、炎の壁に刺さり、シュンと燃えて消える。
残念。やっぱり格が違いすぎる。
ボス、微笑むと自分の前に出した炎の壁の温度を上げていく。
「熱い。本当に熱い。ここに居ても熱さが伝わってくる」
熱の温度は上がっていくと、青く白くなるそうだが、今見える壁はまさしく白。
近寄れない。耐えるだけ。きっと何か仕掛けてくるはずだ。・・・でも待ってちゃダメだ。それじゃ絶対勝てない。攻撃無くして戦いはない。
「耐えて。飛び込んで至近距離から打つ」
俺は、自分に丸いドームを作り、その周りに電子を走らせる。そして突っ込む。
どんだけこのドームが耐えられるか判らないが、近寄った近距離で打つ。それだけ当たる確率が増える。向こうを打ち抜けたらいい。それでいい。熱いが突進だ。
「突撃ですか?よく決断しました。それでは綺麗に焼いて上げましょう」
簡単にこちらの意図がバレたようで、炎の壁を炎の龍に変えて、正面衝突させてくる。
あれ?・・・しまった。ドームの前に炎がぶつかり、豪雨を浴びたフロントガラスみたいに弾けて、炎の油膜?飛沫?それが舞い散り、前方視界なし。
それでも俺のこの防御ドームで突撃。熱くて目が開けてられない。それでも直進して、突っ込んでいくと、炎の放射が終わり、突き抜けた。
よし。奴は今だ。ここから小さくて早い弾丸を。・・・?
見ると前には誰もいない。
前も右も左も。奴は何処へ?と思っていると、自分の背後からボフっという音が。
そう炎が発射される音。
「人間、真後ろの背後に回られると見えなくなる。そう、この一瞬が君の最後」
そういうとボスの声が聞こえた。
俺に炎をぶつけるらしい。そうか、炎で目隠しして完全に後ろに回ったか。
駄目だ。振り返る暇もない。避けても避けきれないくらい、大きんだろうな。
「しまったな。前が見えなくなったのが敗因だ」
向こうの罠にハマったと言うことだ。
ここで終わりか、俺もここで死ぬのか。ここ数日、めまぐるしく色々あったが、これでおしまいなんだな。・・・・・・人間、死ぬ間際になるといくらでも考えられる。これが走馬灯という奴だろう。・・・・・・マルシアが言ったことは本当だな。動いていることに真実があると言われ、戦うことが大事だと、・・・・・たしかに今そう思うよ。戦わず死ぬことがどんなに惨めかって。そう、今では実感できる。・・・・・・本当に死ぬまでに色々考えられる。・・・・・・でもな。ここで死ぬんだったら、あの時マルシアのオッパイもんでおけば良かったなんて後悔してる。・・・・・・あの時、みんなが見てるから恥ずかしくなって出来なかった。こうなってみると、無理やりにでも・・・・ってあれ?炎が全然来ない。どうした?
と、振り返ってみたら、振り返れた。なんで?
みると、メリサが立っていた。ボフッと音がするほど、なんだか判らないくらい巨大な火の玉だろうが、どうやらメリサが弾いてくれたようだ。
助かった。死なずにすんだ。
そしてメリサは、ボスに向かって人差し指を指し
「貴方がボス?ボスでしょ?雑魚キャラじゃないものね」
と、言い放つ。かっこいい。
「これは、これは伝説の少女のお出ましですか」
微笑むメリサ、スカートの端を持ち軽く会釈をする。
「外は終わったわ。私も参加する」
「助かった。俺ひとりじゃ無理だって」
メリサに隠れるようにすり寄る俺。
「炎の能力者のようね。対戦は初めてかも。でも大丈夫。ちゃんと潰してあげるわ」
「船を全滅させてしまったんですか。これで計画は半年以上遅れることになった。・・・・メリサデスさん、責任をとって貰いますよ」
と、いい終わるかどうかで、二人共、同時に動き出す。
ボスは、また焼却炉の火を呼びだし、それを細かくちぎって、こちらに飛ばす。
メリサ、ステップを踏むように後退して、その飛んでくる火に雷を落とし砕いていく。
俺は、たいして役にたたないかも知れないけど、ボスの進行方向に向かって小さい早い弾を打つ。すると、ボスはそれを縫うようにして後退して、奥の車発着場まで下がってしまった。
あれ?下がった。あんなに強気で押してきたのに、やはりメリサ相手だと、慎重になるのか?少し広くなったゴミ搭載車集積所に下がる。
「大丈夫。火は早くないから、見極めれば避けられる。・・・ただ温度が高いので、近くを通るだけで焼かれるから、大きく範囲を取ったほうがいい。この広いのは好都合」
メリサは説明して、追いつめていく。
火は燃えるものと酸素で出来ている。火力というは破壊力を持っているが、スピードという点では劣る。
原理上、火は早く動くと酸素と融合が間に合わず消えてしまう。だからメリサは大きく距離をとって、こちら速さで叩こうというもの。その点、電子の攻撃は、どの攻撃より早さの面では負けるものがない。その利点を使って戦うという。
そして今度は2対1。攻撃のバリエーションも増える。俺とメリサは、ボスの正面左右に立ち、右、左と交互に攻撃する。
向こうも防御と攻撃を踏まえ、大きく長い炎を出し、自分が動くことで速さを補う。
右に左に飛び込んできて、一枚の火、二枚の火と見舞ってくるが、こちらは避けるか、潰す。やはりこっちの方が断然、有利。向こうが後退して逃げ場面が多くなる。
追い込んでいるのか?いや、考えてはダメだ。とにかく攻める方に神経を集中したほうがいい。
右、左と交互に、寄せる炎。リズムが出来た。
よし今だ。ここで近寄り打とう。と構えると
「だめ、罠よ」
メリサの声が飛ぶ。
すると、自分の顔の脇を黒いパチンコ球のようなものが、かすめた。
「なに?」
素早く飛んで来たパチンコ玉が後ろの壁に当たり爆発する。
炎ではなく、エネルギーを固めて投げたようだ。かんしゃく玉。あれを強烈にしたものと思える。
「え、火の波だけじゃ無いのか」
となると、炎が遅い攻撃とだけじゃなく、炎を固めた早い武器も在るということになる。
やばいぜ。やはり追い込まれて居るのはこっちか?
炎の波から、黒いパチンコ球が飛び出してくる。これは避けなきゃ。
絶対当たれない。体が爆発してしまう。出てくるのに対応する反射神経が大事になってきた。
この攻撃によってメリサとの二人の両側からの攻撃の利点が消えた。左右からの攻撃を辞めて、俺もメリサの脇に付き、メリサ攻撃の俺、フォローの体制にする。
「確かに強力なボスね。さすがボスだけある」
メリサだいぶ疲れているようだ。荒い息で、炎の処理をしていく。
「意外に船の量が多かった。距離も離れていたので、飛ばすエネルギーもかかった。」
エネルギーがだいぶ減っている。エネルギーの製作が追いついてない状態のようだ。
「メリサ。一旦に引いたほうが、いいんじゃないかな?」
「虫の計画はストップ出来たものね。雅夜は何処にいったの?」
「地下のほうの虫開放の阻止に行ってる」
「生ごみが生きている。いえ、何かがいる」
プールに貯められた生ごみが波打っている。それはゴミの苗床にして、その中に無数の、何億何兆の虫の幼虫がいて、生きているからだ。
「なるほど、水よりも土よりも栄養があって、発酵して暖かくて、コレほど虫の育ちやすい環境はない。ここで虫の大量生産をやっていたのか」
そこに先ほどから水が流し込まれ、ドンドン体積が増やされている。
見るとプール脇の通路の反対側を走る最後の某国人がいる。何処に向かっているかとみると、搬出ゲートの方に向かっているようだ。
普段なら、車を入れてゴミを落とすゲートなのだが、水が溢れゲートが開いていると、それは外に流れていく道になる。
「あれ、あそこ開くと、このゴミ垂れ流し?ゴミは流れて川にそそぐ。・・・ちょっと待ってよ。それはダメ」
雅夜、最短距離でゴミを経由して向こう側に渡ることにする。風能力の大気を使い、自分を持ち上げてごみをパスして向こう側に渡る。
でも反対側まで25メートルもあり、1、2度、ゴミをジャンプをして飛距離の伸ばすがほうが加速もつき、簡単に渡れるので、軽くゴミに着地する。
そしてジャンプしようとゴミを蹴り下げた雅夜の脚はなんと、ジャンプ出来ずにゴミにささり、ズブズブっと踝まで浸かる。
「キャッ・・・なに?」
腐敗して液状になっていた生ごみは、泥状になっていて着地した雅夜の足を沼に沈めるかのように絡みつく。
「足がゴミに刺さった?」
慌てて体を浮かせると、引き揚げた雅夜の足に、しっかりとボウフラ達がまとわりついて動き回る。
「きゃー。気持ち悪い」
と空中で体制を崩し、再びゴミに着地してしまう。今度は逆の足がふくろはぎまで、埋まってしまう。
「最低、最低、サイテイ―」
雅夜、ジャンプしてなんとか反対側にたどり着くが、脚にねっとりついた液状生ごみと訳の分からないボウフラや幼虫がウネウネとくっ付いて取れない。
「何これ?気持ち悪い」
絶叫して、たどり着いた反対側で、ゲート開きの作業をする某国人を、風で巻いた刀で叩き、気絶させる。
「あんたのせい、あんたのせい。どうしてくれるの、これ」
気絶しているのを何度もゴミのついた足で蹴る雅夜。
「ふざけんじゃないわよ。このボケナス」
と蹴りながら、ボタンが押され起動してされている通路ゲートの開放に気が付き、逆向きボタンを押して、ゲートを再び閉じていく。
見ると掃除処理の下水溝の扉も開きはじめている。つまりここのもの全てに川に流しだそうとしたらしい。
「少しでも被害を出そうとして荒川にも放流するつもりだったのね」
さっき注入された水が溜まって、生ゴミの中から幼虫が浮いてくる。
このままだとこいつらは成長して這い出すだろう。東雲運河が汚染されて虫の発生場所になってしまう。
「ひとまずは放出を回避した。でもこれ処理しなければ・・・」
「どうやる?水では死なないわよね。ならばやはり焼く方向で。・・・・・・水のパイプが在るなら、何処かに焼却炉用の重油のパイプも在るはず。それをここに流し込んで、火を着ければ燃える?・・・・重油に火は着きづらいけど、燃やして全滅させないと、何かとんでもないことになる気がする」
雅夜、重油パイプを探しなら、自分の足の虫を、風で吹き飛ばす。
「何の虫かわからないけど、こんな虫、全滅させてやる」