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第12話 夢の島・植物園

 江東区の南の外れにある海沿いの地帯を夢の島という。

出来た当時から、ゴミを集めて夢の島と呼ぶなんて、近くの住民は馬鹿にしていると怒ったらしいが、その名は変わらず、そして高度成長期は国のやりたい放題。ゴミを集めてバンバン埋め立てた。案の定、ゴミから生まれたハエの大群が飛来して地域住民を何十年も苦しめたらしい。

臭い物に蓋。本当にことわざ通りの事を国はしていた。

 現在の夢の島も相変わらず埋め立てており、どんどん成長して大きくなっている。成長する江東区だ。そしてあいからずゴミを焼却炉で燃やす、焼却炉を備えたゴミ処分場として活動し、地域で出たゴミを燃やして、その熱を利用して、養護施設温泉や熱帯植物園などに供給して活躍している。

しかしそんなもの地域住民は行くか?

一時間に一本しかないバスに揺られて、人里離れたゴミの島の突先に、ゴミで沸かしたお風呂になんか誰がいくか。もっと楽しくて便利な所がいっぱいある。

結局ゴーストタウン的な施設の温泉と植物園の出来上がりということだ。

 ダニャから指定のあったのは、その植物園で、そこに来て欲しいという。まあ誰もいかない場所なので密かに会うのは好都合だ。


植物園は、ガラスドームになっており、熱帯のような温室になっており、一年中暖かくして植物を育てている。入ると、熱いと言うわけではないが、熱帯の気温に保たれている。

こんなに素晴らしくてお金のかかっている施設。しかし行政のやることは誰も知らない。宣伝もないまま、忘れられている施設。案の定、お客は一人もいやしない。


「ジャングルだな」

 中に入ると南米アマゾンの木もあり、周りを見ましながら嬉しそうに歩くマルシア。

「凄い、虫だらけよ」

 メリサたちの目のいい人間たちには判るようだ。

植物園の通路から奥にも、木という木に虫がいるらしい。 へえーと思いながら近くの木を見ると、やっと俺にも虫が発見できた。

「あ、この虫・・・」

 それは破壊した葛西臨海公園の工場にいた虫だ。

「元気虫だっけ?ココでも育てている。工場はあそこだけだったじゃなったとうことか」

うじゃうじゃいて、踏みつぶした虫だ。

「といことは、ここも某国の関係施設の可能性があるな」

周りを見まわすマルシア。

「ダニャは向こうに側の人間になったようね」

「罠だな」

 ニコニコ笑っているマルシアが急に振り返り、いきなり背後の木を殴る。

折れて倒れる木。

倒れた木の後ろに立っていた一人の少年が姿をあらわす。ダニャである。

「背後に立つんじゃないよ」

「怖いなマルシアさんは。・・・あ、初めましてメリサデスさん」

 バチっと音がしたかと思うとダニャの居た場所に雷が落ちる。しかしそれより早く逃げて、ダニャは位置を移していた。

「怖いな。問答無用ですか?」

再び木々の間から、俺たちの前に現れたダニャは、いつものように楽しげに微笑んでいる。

「こっちはおまえを殺しに来たんだよ」

「ダニャ抹殺が私達に与えられた指令なの」

 戦闘態勢のマルシア、ジャンプして距離を縮める。

脚を使わず滑るようなホバーで移動し、距離を保つダニャ。雅夜と同じ技を使う。

しかしマルシア、再び距離を縮め攻撃を加える。そしてメリサも小粒な電子砲を打つ。

ダニャは距離を取り、二人の攻撃から逃げ、俺と雅夜に言ってくる。

「戦うんですか、お話したいんですけど・・・」

「そうよね。そのために来たんだものね。待ってメリサにマルシア。まずは話をさせて」

メリサ達の前に入り、攻撃を止めてもらう雅夜。

「まずはこちらの要件を先にお願い。ダニャと話したいの。疑問があるし、話を聞きせて」

 電気を貯めて、輝いていたメリサが収まる。マルシアも動きを止めて、見つめる。

それを見て、攻撃の意志は無いと手を上げて近づくダニャ、みんなのすぐ前に立つと微笑み、

「ありがとうございます。・・・どうぞこちらへ」

 向こうを指さして歩き出す。

しぶしぶながら、みんな先導者に付いていくが、マルシア、ダニャに並ぶと肩に手を置き、ダニャの耳元で囁く。

「罠と判ったら、この首、飛ぶよ」

 そんなきつい言葉も、にこやかに聞くダニャ。

「コレじゃ逃げられませんね。どうぞ奥です」

 通路を進んでいくと、色んな植物が生い茂った木々や地面を這う虫達がいる。

「この虫は何?毒虫じゃない。何故ここにもいるの?」

 驚いて怪訝そうに聞くメリサ。

「これは向こうが飼育していた虫達です。全てココでも孵化させてみました」

 枝分かれする小道から中央の広場に出て、話しだすダニャ。

「元気虫、毒虫。ここは僕の実験室になっています。密かに掴んできたものを、ここで孵化させて研究していたのです」

 指差す方をみると、区切られて虫たちがうごめき、飼育されているようだ。

「この前の芽衣に邪魔されて最後まで話せませんでしたが、あの後の続きを話します。彼らの計画は3つあります。まず一つ目は、東京をコントロール出来るようにする虫達の大規模な工場建設。これは朱馬がリーダーで、葛西臨海公園でほぼ完成していたようですが、メリサデスさんとマルシアさんのおかげで、壊滅させることが出来ました」

「誰?朱馬って」

「水を操るジャガイモ頭。メリサにチンされたやつ」

 マルシア、楽しげに『チン』という言葉を使う。

「あ、あいつか」

「そしてもうひとつは実験室です。それは芽衣がリーダーとなり、銀杏山学園で密かに行われていたものです。寄生虫で人間を支配する研究。そして音によって虫を操り、人間をコントロールさせて、その人間たちで部隊を作る。その計画も順調に進んでいましたが、この前、露見して進行が不可能になってしまった」

「あれが実験なの?遊んでいるかと思ったわ」

「芽衣は正体がバレて撤退しました。・・・でもそのせいで3つめの計画が前倒しされ発動の可能性が濃厚になってきたのです」

「3つ目の計画とはどんな内容なの?」

雅夜に聞かれ、ダニャは少し広くなった場所にある休憩ベンチにみんなを案内する。

そこに座り、上着の懐に手をいれ、ガラス瓶の小瓶を出す。

「虫による日本人殺害計画。東京皆殺し作戦とでもいいましょうか、毒虫を放って東京を殲滅させるつもりなのです」

 ダニャ、はす向かいで隣に座っているマルシアに渡し、その中にいる虫を見せる。

「コレがその毒虫です」

「なんだこれ?蚊か?」

 マルシアが受け取り、隣の雅夜に渡す。

「落とさないでくださいね。ガラスが割れて逃げられたりすると、とても面倒な事になりますので」

「こんなんで人間が死ぬの?」

 回ってきた虫を受け取る雅夜。

「これが侮れないんですよ。結構すごいやつなんです。蚊と同じ仲間で人間の吐き出す二酸化炭素に集まり血液を吸う。その時、媒介するのがゲハルト酵素。人間の筋肉を弛緩する効果があり、それを受けると数秒のうちに心臓が止まり死んでしまう可能性があるやつです」

 メリサが瓶を受けとり、見つめて確認する。

「臨海公園の工場には居なかったタイプね」

「可能性はなんパーセントなの?」

正面に座っている雅夜が聞く。

「98%らしいですよ」

「ほぼぜんぶじゃない。可能性とか言ってる場合じゃない。・・・こんな毒虫で東京の人間殺して、いった何がしたいの?」

「人間が少なくなった所に入り込むんですよ。入植とそして侵略。日本人の居なくなった所に某国人が入る。居抜きという奴ですかね」

「いつもそうだ。奴らの言い分は開拓。占拠。正しい道に進めてあげる」

マルシア、呆れて椅子に寄りかかる。

「彼らの狙いは単純です、破滅して奪え、力で統治すれば全て自分の物になり、自分の国が潤うと信じています」

 メリサから瓶が回ってきた。中にやぶ蚊のような虫がいる。なんだこれ?

怖いので早々に、はす向かいで喋っているダニャに返した。


 ダニャ、咲いている花を見る。綺麗な南国の赤い花、それを見る。

「そしてもうすぐ本当に春になります。その5月の温かい日に虫を放ちます。一斉に虫は東京を襲い。人々が死ぬでしょう。東京が終わってしまいます」

「東京壊滅が目標なのね」

 メリサも納得したようだ。

「けど虫が居るなら東京に入れないじゃん。虫が死ぬまで、侵略も占拠もヤバイだろ。東京に人間が住めないということは、某国人も住めなくなるのに何故そんなチョー、ムズイことするんだよ?」

とダニャに質問してみる。

「某国人は虫を操れるの」

 雅夜にすかさず突っ込まれる。

「あ、そうか、」

「なかなかいいボケぐあいね」

 メリサに褒めてもらう。本当は天然なんだけどね。

「なんでそんなに詳しいんだ?お前の言ってること、100%信じられると思うか?」

と、マルシアが睨みつける。

「別に信じなくてもかまいません。ただ僕の邪魔をしないで欲しいんです。きっと今日、毒虫を運搬する日になると思いますので」

 立ち上がり歩き出すダニャ、ついていくみんな。

「運搬はこちらからになります」

 通路を出ると、ガラスの向こうにヨットがたくさん並ぶマリーナが見える。南砂の夢の島マリーナである。


新木場マリーナは、いつも決められた数しか停泊してないが、今日はいつもと違っていて多数の船舶が係留していた。

「凄い数だ。」

 そしてなおも集まって来る船。びっしりと敷き詰められたように船が停泊している。

「次の行動も準備がされています。国際船便や客船便です。まだ完成はしていませんが、某国にサンプル送る分と、日本中の主要都市に送る計画もやるようです」

マリーナ脇に荒川はからの進入路があり、その進入路から桟橋まで、小ぶりなボートが多いが、埋め尽くすほどに集まっている。

 ちょっとおおき目な船もいる。あれの事だろう。

「日本はまるごと海に囲まれていまして、港とともに発展してきました。人間が住んでいる都市の近くには必ず港があります。つまりそこに一番行きやすいのは当然、船ということです。それに海にカメラとかなく監視の目も届かないので、船で運搬が非合法なものでも安全に輸送できるというわけなのです」

「言い分は判ったわ。目的は違ってないので邪魔はしないであげる。けれどダニャ、これを貴方一人でやるつもりなの?どう見てもあの数は無理だと思う」

雅夜、船の数を見ながら呆れている。

「そこなんですね。一人でやるには、ちょっとまずいなって思っています。それで・・・出来れば手伝って欲しいなと思っています。どうでしょうか?」

「・・・こっちもいくつか聞きたいことがある。それに答えてくれたら、とりあえずお前の抹殺指令を待ってもいい」

「なんでしょう?」

「シェパードはどうなった?」

マルシアがダニャの前に立つ。

「僕と一緒に来たラルフさんですか?ラルフ・シュルト。犬のシェパードの獣人ですよね」

「可愛い後輩だ」

マルシアは、腕を組みながら、ダニャを見据えている。

「隠れ蓑の貿易会社から、取引先の会社へ呼び出され、途中で行方不明になっています。その後、横浜湾でバラバラ死体にされて惨殺されて発見されました。たぶん誰も名乗り出ず身元不明で処理されたと思います」

「どうして報告しない?こちらの日本支部サポートがあるだろうに」

「そのサポートが信用出来ないのです。残念ながらこちらのサポートか、ヨーロッパ組織の中に裏切り者がいることは確実でしょう」

 ニコニコと笑いながら答えるダニャ。

「ラルフさんは異常に早い時期に捕まっています。それも獣人がそう簡単に捕獲されることは考えられない。きっと裏切り者が居て、正確な情報が向こうに渡り、罠にはめられてラルフさんは殺害されたと考えました。こちらも早急に手を打つ必要があると考え、逆探知出来ないように連絡装置を破壊。ヨーロッパとの連絡を断ちました」

「サポートなしで隠れたのかい?」

「僕は潜るしかなかったのです。まあお陰で独自に捜査が出来、彼らの工場に潜入することも出来ました。葛西では某国人になり警備員として潜入したし、学校には生徒として入ることもできました」

 そこまで聞いたとき、いきなり近くいたマルシアが、俺を後ろに突き飛ばした。

雅夜も前に出てくる。メリサも戦闘体制に入っていた。

え、何が起きたの?

「おかしいなダニャ。自分の命が危ないのに、何故そこまでして追う?」

 警戒レベルC。

返答次第ではすぐに攻撃の3人。

「仕事ですから、遂行しますよ」

「仕事として危なすぎるのよ。ここまでくると命令を逸脱してる」

 メリサに、警戒心が張られる

「2人ペアが基本だ。どうして一人でそんなに熱心にやるんだ?」

 マルシアも飛びかかれる距離につく。

「僕のクエストは、調査、阻止でした。まだ途中ですから止めません」

「問題が起きた時点で、ヨーロッパに戻るべき案件ね。そう決められている」

 メリサの身体もうっすらと光り出している。

「よくわからない私にも異常に感じる。そこまで追求する理由がわからない」

 雅夜もダニャの言葉に疑問を感じたのだろう。体に風が巻き始める。

「良く出来た話ほど危ないの。新たなる罠に感じるわよ」

「どういえばいいんですかね?」

 飛び掛かられそうになっているのに、まだニコニコと微笑むダニャ。

「言ってあげようか?ダニャ。」

 同じように微笑むメリサ。

「何が原因なの?何故、そうまでしてこのクエストにこだわる理由は、なあに?ダニャ」

「・・・」

 ニコニコしていたダニャから笑い顔が消えた

「僕の名前は、ダニャ、ロン、シェルパ。今は某国になってしまっている少数民族の村の出身です。今でこそエベレストに登る仕事で有名な民族もいるけど、自分は移民ジプシーの民族として、ネパールに追いやられた民族の末裔です」

 ダニャ、眼鏡をはずし、みんなを見る。

「もとの自分の故郷の村は、自然が豊かで、静かな村だったそうです。50年ほど前、その付近で鉱物が出ることが判りました。するとそこに住む人間は全て移動しろという通達が来ました。お前たちは何処に行けと。まったく保証もなく、とにかく出ていけと」

 見つめるみんな、緊張を緩めないで聞く。

「代々、住んできた大事な土地。そんな一方的な命令には従えず、土地に住む民族の誇りをもって対応すると、彼らは武器を持って来ました。そして民族の7割が殺されて、残りの人間は、他国まで追いやられたのです。」

「復讐か?」

「それもあります。でもこのやり方が許せない方が強いとおもいます」

「なぜ?今は東京でしょ?他人のことじゃない。関係ないでしょ?」

雅夜、聞く。

「今やつらは東京、いえ日本を奪おうとしています。・・・・土地を追われた民族は、迫害されて辺境の隠れるような場所にしか住めません。ジプシーとなると人間として扱われないです。・・・自分たちの居場所がない民族。自分たちの未来のない人生。某国のやり方はそれを生みます。僕は、ARUに喜んで入りました。父も母も喜んでくれました。自分たちのような人間を作らないそれが理由です」

 マルシア、メリサを見る。

「どう?」

 雅夜が聞く。

「一応合格点。信じてもいいかも」

「そうですか、ありがとうございます」

再びニコニコと笑顔に戻るダニャ。そしてみんなも緊張を緩める。

 うわー、シビア。凄く惨い話を聞かされても全然平気なのね。俺なんか引き込まれてしまった。

世界には悲惨な話があるけど、やはり嫌な話は聞きたくない。日本人というのは本当に平和の中に逃げてしまっているんだな、と思う。



「それでどういう作戦をたてているの?」

ガラス窓に立ち、マリーナを見下ろしながら見渡すメリサ。

「あの焼却炉。あの建物が工場か倉庫になっています。本来ならあそこを攻撃と行きたい所ですが、まず計画の阻止を行います。今回の計画は虫の運搬。とにかく船に積ませない。移動させないが最優先です」

「船着き場、桟橋ね」

「ええ、そこを確保、もしくは破壊をなしとげれば、少人数でも出来ると考えていました」

 見ているとその焼却炉方面から人が出てきて、桟橋に向かう。船からも人が降りてきて桟橋に人が集まり始める。

「あれ、誰か来た。何か動き出してるようだぜ」

 ダニャ、話をやめて、桟橋を見つめ確認している。

「運搬?・・・始まったのか?ヤバイ?」

俺はダニャに聞く。 

「どうやらそのようです」

「じゃあ仕方ない。行くか」

 すごく嬉しそうなマルシア、身体を屈伸運動させて、歩き出す。

「えー、あの作戦は?」

続いてついていくメリサに聞いてみる。

「とりあえず現場で、成り行きでいくしかないわダーリン」

マルシアを先頭に、マリーナに向かっていく。

「まじかよ。俺、現場経験浅いんですけど・・・」

「大丈夫ですよ。なんとかなります。・・・それじゃみなさんお願いします」

 微笑みながら、俺に並んでくるダニャ、みんなにお辞儀する。

本当にいい顔するんだよな。なんでも許してしまいそうな笑顔、つい引き込まれる。



 植物園の裏手から、マリーナに出られる道がある。

細い階段の道を降りて、小さい柵を越えると、もう川の脇の道になる。

 その道を進んでいくとマリーナを管理している事務所の建物があり、そこの前の桟橋は、マリーナの一部として機能していて、そこから何本も到着発着用桟橋が突き出している。今、そこに船が集結して積み込みを待って待機している。

焼却炉から来た男たちが台車にミツバチの巣箱のような大きさの木箱を乗せ、その桟橋に進んでくるのが見えた。

「あ、あれか、毒虫の巣箱」

 男たちはそれを乗せた台車を押し、一列になって桟橋に向かっている。

「アリ部隊工作員が、もう動いているのですね」

 アリ部隊?なるほど、誰もが同じ服で同じ台車で同じ木箱を乗せて、一列に進む姿は、まさにアリが巣穴に餌を運ぶように一列に進んでいく姿に似ている。

「ヤベー。これは船に乗せちゃダメなんだよね?」

「行くか?」

マルシアが飛び出ようとするの止めて、メリサが指をさす。

「これ、どのくらいの列か見といたほうがいいかも」

「そうよね焼却炉建物も確認したほうがいいと思う」

 雅夜が動き出し、みんな後に続く。

目立たないように、建物の脇を隠れて通り、マリーナを過ぎ、修理ドックを越えて、一番近いエリアの第二駐車所まで来る。ここから焼却炉建物が見える。

某国人達は建物裏口にあるトラック搬入用のシャッターを半分ほど開き、そこから列になって出て来ていた。アリ部隊が行進している。

裏口シャッター前から、マリーナの駐車場には、ジョイントで繋げたレールのようなスロープの道をおろし、その上を台車で移動して、夢の島マリーナに入って来てる。

 「あ、カマキリ」

処分場の建物、焼却炉側のシャッターの中から、細身の男が出てくる。マルシアと戦っていたカマキリと呼ばれる虎曹が出てきた。するとその後から麻生先生こと芽衣も出てきたのだった。

「ヤバい、麻生先生、東京にいた。田舎になんか帰れるわけないと思っていた」

本当だ。これで間違いなく某国人の関係している場所だというか事が判明した。

「芽依もこちらに合流したようですね。それで、ほら。後ろにいるのが劉王江(55)老年の火系超能力です」

そして二人の後から今まで見たこともないが、中年の恰幅のいいスーツを着たオラウータンに似た男が、数人の某国の男たちと共に出て来た。

「今回のプロジェクトリーダーで、総指揮です。各、毒虫班、寄生虫班、繁殖班、運搬班、情報班を束ねていますので、総合のボスっていうことになります」

 と、ダニャが説明する。

それを見ながらマルシアが、笑う。

「ほう、全員集合ってことか」

スーツを着たオラウータン風の男、劉王江が、船が桟橋に付いているのを確認して合図する。ゆっくりとスローで歩いていたアリ部隊が普通に動き出す。

すると芽衣がシャッター前からアリ部隊の脇を通り、駐車場に降りていく。先頭に進み、毒虫箱を桟橋の船に乗せる指揮をするようだ。

そして列をフォローするようにカマキリも芽依の後ろに続き、進行する部隊を見守り並走して歩く。


「始めるようね。潰しましょ」

 雅夜、肩に背負った長めのバットケースを下し、蓋を開くと、中から日本刀が出てくる。

「攻撃に早さを出すため、青龍を持ってきた」

鞘から出し、白刃を確認。さすが水の刀・青龍、うっすらと水を浮かせている。

雅夜、振るとその飛沫が飛ぶ。

「チョーかっこいい。ヒーローみたいだ。やっぱり雅夜はヒーローだな」

「ダニャ、さてどう潰す?」

 面白がって聞くメリサ。

「まず桟橋を潰すつもりでした。船に積み込まれて逃げられたら最悪ですから」

芽衣が桟橋で指揮を始めた。アリ部隊は、このまま桟橋に列を作り、順次木箱を積んで出発させていくのだろう。ダニャはそれを止めるように位置を変える。

「・・・となると私はアリの行列ね」

 雅夜は、自分のダーゲットを口にする。そして俺のターゲットも指定してくれる。

「ビビリのサトジュンは、人間より、虫を焼いて居た方がましね。一匹残らず、焼きつくすの」

「ありがたい。そういう仕事が在るならチョー頑張れる」

「とりあえず虫を殺すのが最優先よね。全部焼き殺しちゃいなさい。私達もフォローしてあげるから」

とりあえず雅夜と共同作業か。フォローしてくれるようだ。ありがたい。

「問題が起きれば当然、進行せている奴が来るな。そのカマキリは私が担当になるということかな」

 桟橋付近で進行させているカマキリを見つめるマルシア、笑う。

「じゃ私、ボスね」

 とメリサ、一人、焼却炉を見ていたが、ボスはシャッターから建物に入っていって行ってしまう。

「あ、建物に戻っちゃった残念」

「いや、出来れば先に毒虫退治でお願いしますメリサデスさん」

「じゃあ、しょうがない桟橋の所のフォローをやってあげるわ。」

とダニャに言われて しぶしぶターゲットを変える。

 芽衣、台車を桟橋に乗せて、前に前にと送り始め出した。もうすぐ積載から船に積まれてしまう。

「行く?ダニャ?」

「はい。とにかく船に乗せちゃマズイので」

「了解。それじゃスカイ・ダーク」

 メリサが、空を歪ませる。雲が湧き、覆われたようになっていく。そこから更に黒い闇のカーテンを下ろしだす。

芽依もカマキリも、みんな黒くなる空に気がつき、上をみる。

「サポート有難うございます」

と言うと、ダニャ、飛びだしていく。建物の脇を走り目立たないように桟橋に向かう。

続いて雅夜も刀を背負うようにして走り出す。そしてアリの列に向かって一直線に進んでいく。

あれ?俺?

「出遅れた。・・・それで俺は何処から?」

「早く行って。雅夜が蹴散らすから、その箱を焼けばいいの」

と、メリサにアドバイスを貰って

お、なるほど。

「サトジュン、行きます」

ダニャ、雅夜、とその後に続く俺、ドックに突っ込み、桟橋に向かって走り出す。



 雅夜、走る。

俺の前を刀を肩に背負い、身体を揺すらず走る。美しい姿だ。

そして桟橋に進む雅夜は、走りながら、長く続いている某国人の列に刀に風の属性をまとわせて、振る。

刀から特性の風が吹き、刀が当たらくなくても某国人に当たった瞬間に、吹き飛ばす。

「スゲー、ヤベー。人間が紙のように飛んで行く」

 しかし桟橋までの人間は大人数。

「ちまちまと埒が明かないわね」

だいぶ桟橋に寄った所で、雅夜は刀を回し、自らも回転しフェギアスケートのスピンのように舞う。。そしてそれで蓄積したエネルギーを大上段から叩き下ろすように放つ。

痛烈な一撃が、アリ部隊を襲った。

それはまるで風の道が出来たように、桟橋まで続く人間が左右に飛ばされる。その飛ばされた奴らは、ほぼ衝撃で気絶しているか、死んでいる。

「魔法使いの杖の原理と同じ。振動を集めて放つ媒体にしている。これによって明快な支持物として効果が放たれる」

 

 素晴らしい説明ありがとう。でもね、一緒に木箱がぶっ飛んで居るんだけど大丈夫か?ガツガツと地面に叩きつけられて落っこちて転がっているけど、壊れてない?

あの木箱ってさ、毒虫が入っているから頑丈な作りだよね?それで簡単に壊れないよね?近寄ったら中から、ブーンって出てこないよね?・・・・

 雅夜の大きな一撃で向こうは気がついたようだ。

芽衣、雅夜を発見して、船積みの指示を急がせる。カマキリも気がつき、斬馬刀を引き出し、攻撃体制を作りながらこちらに向かって歩きだす。



 メリサの黒いカーテンサポートと雅夜の一撃が目くらましになり、ダニャはうまく誰にも気づかれずに桟橋に付いた。そして幾つかある桟橋を、岸から断ち切り、使えないように川に放流することが出来た。

 それから芽衣のいる一番大きな桟橋到達すると、近寄ってくる船に向かって風を起こし、近寄れないように離し、桟橋で台車にいる某国人を竜巻によって吹き飛ばす。

桟橋で積み込み作業をしていたアリ部隊は、次々と川に落ちていく。

芽衣も不意を突かれて、落ちそうになったが、かろうじて桟橋に踏みとどまった。

「なにするの?邪魔をしないでもらいたわね。サトウジュンイチ君」

 芽衣、音波砲を放つ。それを避けるダニャ、ニコニコと楽しげに言う。

「やめましょうよ。もういいじゃないですか。そちらは失敗です」

「ダメよ。1年も準備してきたのよ。終わらせはしないわ。出て行って頂戴」

 芽衣、強い音波弾をダニャに向けて発砲。

ダニャはそれを避けたら、桟橋に当たり、一部、崩壊した。ダニャの手助けになった。


 雅夜、刀をふりながら進んでいると、ふいにアンダースローの軌道で銀色の金属が迫ってくる。

刀・青龍を当てて、身体をずらし、避ける。しかし凄まじい衝撃。

「軽く刃を合わせただけなのに、痺れるくらいの振動」

踏みとどまり、振り向くとカマキリが、斬馬刀をクルクルまわし、立っている。

「駄目だよ、お嬢ちゃん。こっちは大事なお仕事中だ。邪魔をしないでくれ」

 雅夜、下段に構え、防御姿勢。

「お、綺麗なカタナだね。大事なものなんだろう?けどそんなおもちゃは残念だけど、この斬馬刀が真っ二つに、へし折ってあげるよ」

カマキリ、両手を前に出し斬馬刀を下にブラさげ揺らす。そして体を揺らし、いつでも攻撃に移れる体制。

雅夜、ゆっくりと近づく。

途端に、斬馬刀が襲う。

両手にある斬馬刀が、手首を使って上げ下げされて、稲作の刈取りの歯のように襲ってくる。

それを受けてしまうと、固くて太い斬馬刀のため、カマキリが言うとおりへし折られてしまうだろう。

でもしっかり受け止めず、流す雅夜、水刀・青龍で受けず流すようにさばいていく。

それでも速度の速いカマキリは、前進して押してくる。

「攻撃の手を止める」

 雅夜、動く手首を狙い、横に回り込んで・・・としたら、横から斬馬刀がくる。後ろに飛びのいて避けた。

「なかなか反応いいよ。でももう逃がさない」

 斬馬刀の動きを、今度は上下、左右と混ぜるカマキリ。

「首だ。首を落としてあげる。美女の首をサロメの皿にのせて、宴の夜に飾ってあげるよ」

 笑い声を上げながら斬馬刀でなおも連続攻撃で斬りかかってくるカマキリ。押される雅夜だが・・・、

突如、カマキリが無様に地面に転がる。

「惜しいもうちょっと」

 カマキリの後ろから雅夜の横に来たマルシアが、指についた血を見て笑う。

雅夜との戦闘中を狙い、マルシアが背後から襲ったのだが、反応のいいカマキリが、転がりながらよけたようだ。

「また来たか。見飽きたね。豹のまだ模様」

 立ち上がるカマキリの左腕の服が破れて腕が出てる。まるでハサミで切られた世にようにスッパリと切れて垂れさがっている。

「ジャガーだよ。これだから学のない奴は困る」

 横に周り出し、横から攻撃を仕掛けるタイミングを計るマルシア。軽いフェイントから攻撃へ。

反応がいいカマキリ、マルシアの一撃をかろうじて避ける。

そして、攻撃態勢。揺れ始めるカマキリ。

「ちょろちょろ踊らないでくれる?あんたの踊り、綺麗じゃないのよね」

「お前にはわかんないか、この殺戮のリズムダンスが。生贄を屠る妖艶さが」

「私には揺れているだけ、死ぬ前の痙攣にみえるよ。でもそんなに踊りたいなら踊らせてやろうじゃない。手足バラバラになるまでね」

マルシアは攻撃より、今度はカマキリを捕まえて、近距攻撃に持ち込もうとした。

マルシアの手が伸びる。カマキリ、身を反らせそれを避け、腰を落として低く刷り上げるように斬りかかる。

重い斬馬刀を切り上げるのは相当な、力がいる。必死にカマキリ、手首を回転させて引き上げる。

 それを察知、マルシアは掴みかかった手を離し、下からの攻撃を避ける。だが二の腕をかすらせてしまい、自分の血を飛ばすはめに。

「あ、なかなかいい攻撃の仕方ね」

「上から目線をやめろ。調子に乗ってんじゃないマダラ猫。今日こそ、俺を追うストーカー行為をやめさせてやる」

「肉食の女だけど、そういう趣味はない」

 じりじりと後ずさりするマルシア、戦いやすい場所を探る。カマキリは体を揺らし近づいていく。

よし、カマキリは任せた。(いやーカマキリ持って行ってもらって助かった)

俺と雅夜は桟橋の方に向かって進み、一直線に並ぶアリ部隊を刀で吹き飛ばす。

雅夜が走りながら笑っている。

「私は癒やしより攻撃が好き」

 笑いながら訳の分からないことをくちばしる。

きっと静ちゃんに怒れたことを根にもってるようだ。

ツインテール。やはりこいつは鬼だ。あまり怒らせない方がいい。


 桟橋に到達する。みると桟橋ではダニャと芽衣が戦っている。

当然、そっちには行かない。

「一応は途中のアリ部隊は飛ばしてきたけど、それは派手に走ってみんなの目を引く陽動的意味。これからはアリ部隊を解体しながら、焼却炉までいくわ。サトジュンは一つも残さず虫を殺してきてね」

 そういうと雅夜は戻るようにして、アリ部隊の列を進んでいく。

ここから俺がフル活動しなきゃいけない。転がって落ちている虫の入った木箱を、一つ残らず焼いて行かなくていけないからだ。

 とにかく俺は、桟橋辺りから順番に、落ちている箱たちに電子レンジの要領で電撃を与える。中から煙が出てくるので焼けているのが分かる。しかし、さらに10秒数え、完全に蒸し焼きにして次に移る。

俺も雅夜、みたいにスカーっとやってしまいたいが、あまり急いで一気にやって箱を壊してはもとこも無い。

中身はどうなっているか判らないが、卵、幼虫、そして成虫、これらが入ってるはずだ。成虫の一匹でも出したら、ヤバイから、一つ一つ焼くのが確実だ。

「チョー、地味。だるいわ、この作業」

 桟橋では、ダニャと芽衣の戦いが行われている。

激しい風と高音や低音が木霊するからには、お互いの能力で攻撃にして、相手に浴びせているようだ。

行って手伝いたいが近寄ればタダじゃ済まない。どちゃぐちゃに攻撃されて、ご臨終にされるだろう。

まあ、俺に出来るのは箱の始末の作業くらいだ。それにこれが最優先なのだ。ここから毒虫を出さない。チョー、ヤバイ毒虫なのだ。そのためにみんな戦っているんだから。

それにしても地味だな。俺の仕事。


 カマキリを叩きに行くマルシア。

しかしそれを狙って、腕に斬馬刀が振り下ろされる。

マルシア、腕を曲げ斬馬刀を避けるが、勢いがついてしまっているで、そのまま体を自ら回転させて自分の勢いを逃がし、カマキリの横に飛ぶ。そしてそのまま逆の手の裏拳を放つ。

 カマキリ、体を引いて下がりよけようとするが、そこに某国人の列があり、避けきれず、防御で受けると、マルシア余りのパワーで、その人間と共に吹き飛ぶ。

転がるカマキリに続けざま、マルシアは飛び掛かり、上からのパンチを転んでいるカマキリに振り下ろす。

地面に転がり回転。何度も回転してなんとか逃げるカマキリ。

「くそ、半端じゃね」

 と、なんとか逃げ切ったカマキリの周りが急に暗くなる。

「何?どうした?」

 マルシア、ドックに停泊していた船を縦に持ち上げ振りかぶっている。暗くなっているのはその影のせいだった。

「ヤバイ」

 それが叩き落とされ、ぺしゃんこに潰れる20mもある10tプレジャーボート。

カマキリ横に転がったので直撃は免れたが、潰れたボート破片が体中に刺さってしまった。

「バケモンか」

マルシアは、ニヤリと笑うと、かかってこいと手招きする。



 俺は雅夜を追う。と言っても雅夜が、吹き飛ばした虫の箱を焼きながら後をおっているのだ。

桟橋から箱を燃やし続ける。そして焼却炉のほうに向かいながら焼いていく。

「なんか雅夜が散らかしたものを後始末している感じ」

しかし今の俺には適切な仕事かも知れない。みんなを守るために、相手を攻撃する決心は確かに付いたが、言うのとやるのは大違い。果たして出来るかは、やってみなきゃ判らない。やってみて、初めてやったと言えるのだ。

と、考えながら箱を焼いていると、いつの間にか某国人に囲まれてしまっていた。

「あれれー、なんか俺、囲まれてる感じ?」

 雅夜がアリの行列を吹き飛ばしたが、全員が死んだり気絶したりしている訳ではない。ましてアリ部隊といえども生きた人間だ、ただ箱を運ぶだけじゃない。異常があれば、反応するだろうし、敵と判れば襲ってくる。

 案の定、囲んだアリたちが俺を殴ってくる。

「うわ」

 打つぞ。殺すぞ。と、思ったがすぐに攻撃が出来ず、パニックていると、雷光が走った。

一斉に動きが止まる某国人の集団。

みんな死んだか、気絶か判らないが、攻撃を受けてバタバタとその場に崩れ倒れていった。

 お、今度は俺に危険が迫ると自動的に雷撃が出るよになったか?

凄い。まるでパトリオットのようなシステムだ。

と、バカなことを考えていたら、メリサが来た。そうです。なんのことはないメリサの雷光だった。また俺を防御してくれたのだった。

「ふう、助かった」

「遅いよ。早くしなさい。いっぱい在るんだからね」

「頑張ってます。ありがとう」

「どういたしまして」

スカートの両端もって会釈。・・・・・・・可愛い。


 箱を焼く俺の横で説明するメリサ。

「敵が来たら攻撃を変えなくて、そのまま敵に向ければいいのよ」

「でも相手に合わせた攻撃をしたほうが効果的と思うんだけど・・・」

「マルシアに聞いたでしょ。考えない。とにかく対応するって。迷いは命取り」

 そう、確かにそう言われた。

「頑張るよ」

 というとメリサは微笑む。そしてマリーナいっぱいにいる船を見まわす。

「船は任せて。潰しておく。そっちは箱を焼きに戻って」

「了解」

手を置いた木箱に電子を送り、中身を沸騰させる。箱から煙がたちの登り、セイロ蒸しのように煮えたことがわかる。



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