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「しかし、艦橋に乗り込むにはいささか骨が折れますな。」
と艦橋へと向かう道すがら日野はため息をついた。
「日野さん。何か問題でも。」
「司令。現在、残党捜索と警戒のため、陸戦隊は艦の全域に散らばってます。機関室にもジョセフとやらの監視に2名置きましたし。現在の3名では、本来なら司令の護衛だけでも心もとないくらいです。」
「人員が足らないと。」
折からの人材不足で元々、アサマを始め第13艦隊の定員は八割程度となっている。
「はい。もう敵が艦橋に集結してる可能性もあります。艦橋だけが我々の支配外ですから。」
日野の言葉を聞いて、艦橋からの傍受を考え、艦内一斉放送が使えない今、艦の各地に散らばった陸戦隊を戻すすべがあるのかと多田野は悩んだ。すると背後から足音が聞こえた。
「司令。ご無事でしたか。二階堂です。独断ではありますがやって参りました。アサマで日野大尉が鍛え上げた兵には劣りますが皆やる気だけはあります。」
「助かります。二階堂艦長。ちょうど兵力不足でした。ところで日野さん。神城艦長は何故日野さんに陸戦隊の指示を。」
「え、お聞きになってないのですか。てっきり聞いているものかと。」
二階堂はしまったと驚いたように言った。二階堂が実はと代わりに話そうとするのを日野は少しだけ遮った。
「二階堂大佐。いいんです。司令、隠し事をしたようで申し訳ありません。実は一時期、士官学校の陸戦教官をやっておりました。」
多田野は素直に驚いた。退役間近ではなく日野の年齢での士官学校教官といえば、その後の出世が約束された栄転である。日野が続ける。
「そうです。私のような兵学校出身の、しかも辺境艦隊出身のものが帝都にある士官学校に教官として務められるのは異例で名誉な事です。だからこそ、私は気合いを入れて指導に当たりました。生徒には厳しく自分にもさらに厳しく。生徒より遅く起きたことはありませんでした。そんなある日、ある生徒2人が教練をサボり、官舎の屋上から飛び降りまして。遺書にはただ辛いと。」
「それで。」
「私はその生徒達と遺書を衝撃を受けました。私は1人前の陸戦兵を育てることが生徒にとっても幸せだと思っていたのですが。死の間際、辛いとしか残せぬその生徒達は…。」
日野は俯いた。
「なに。そんなことが。確か、当時の噂では、やはり兵学校出身だと士官学校の教官は務まらないからだと言うことだったが。」
二階堂が日野の肩に手を置いた。
「二階堂大佐。それは表向きの理由です。他の生徒の士気に関わると自殺は隠蔽されました。そして私の陸戦教官としての経歴も公には消されました。それからずっとここ南方におります。」
「不幸なことはあった。でも日野さんが育てたアサマの陸戦隊はこうして艦を守ったじゃないか。それは日野さんの道が間違いで無かったということでもある。さて、二階堂さんはアヤセに戻ってください。兵はお借りします。私と神城艦長の次席指揮順位は貴方です。二階堂艦長。」
「はっ。司令。ご武運を。」
万が一の時を頼むという多田野の真意を悟った二階堂は多田野と別れ、自艦へと帰って行った。




