拘束
する必要もないのに、多田野はわざと井上くんと言いながら、執務室の扉を叩いた。艦橋からついてきた男は無言のまま、多田野の背に銃口を当てている。多田野には勝算があった。
「司令ですか。今は戦闘中では。」
と井上が不思議そうに扉を開け、男を見ると後ろに飛び退いた。
「なんですか。その男は。」
多田野は井上を安心させるように手をヒラヒラとさせた。
「お客さんだよ。大丈夫。ちょっと書類を書くんだ。さて、ペンを取ろう。」
多田野は机の上にある何本かのペンには目もくれず、すっと引き出しを開ける。そこにはアリークから貰った銃がしまってあった。多田野はペンでも取るような何気ない動きで銃を一気に引き抜き、男に向ける。
「銃を置いて手を上げろ。」
「くっ。そんな所に隠していたのか。」
と完全に油断していた男は素直に銃を置いた。
やはり、帝国語が話せたかと油断なく多田野は銃を突きつけたまま、男に近づいていく。
男は反撃の機会を伺うように僅かに視線を動かしてはいたが、銃口を向けられても落ち着いていた。
多田野も学生時代に喧嘩の流儀は心得ていた。
「撃つ気か。」
と男が問う。
「どうかな。」
多田野はじわりじわりと慎重に男に近づき、額に銃を突きつける振りをして男の顎を銃で思いっきり叩き上げた。一撃で男は昏倒して床に頭を強かにぶつけて倒れた。多田野は学生時代の喧嘩では素手で相手を昏倒させていたのだから銃底の威力は計り知れないだろうと少しだけ男を憐れむ。
「書類を綴じる用の紐をくれるかい。」
呆気にとられていた井上ははっと気がつくと、自分の机から直ぐに何本か紐を渡した。
「お強いんですね。一撃で倒されるとは。」
「なに。昔取った杵柄だよ。しばらくは気を失っているだろう。その間に日野さんと合流して艦橋に戻らなくては。」
多田野は男の両腕、両足を縛りながら答えた。勘が鈍ってなくて良かったと昔の自分に感謝する。
「艦を沈めるなら弾薬庫だよな。」
「司令。お供します。これでも初等科研修で銃器は扱えますから。」
井上はポニーテールをきつく結び直すと男の短機関銃を肩に掛けながらそういった。多田野はここに井上を残して万が一男が目覚めてしまった場合を考え、同行を許可することにした。
「そうか。では、一緒に行こう。ここには鍵をかけてくれ。」
「はい。司令。艦を救いましょう。」
やる気を見せる井上に多田野は苦笑した。




