襲撃
あれから、何の妨害もなく、多田野達はようやく、敵本拠地と目されるゼン島まで近づいていた。
まもなく上陸予定の砂浜が見えてくるはずである。多田野も否応なしに視線が前方に見え始めた島影にいき、白い砂浜を探していた。
「司令。艦長。迂回策はうまくいったようですね。敵の妨害が潜水艦だけとは。あとは陸さんのお仕事ですから。」
日野が一仕事終わったという楽天的な声でそう言った。
「まだ上陸支援がありますよ。日野さん。」
彰子がたしなめるように言うが、その声もどこかほっとしていた。
艦橋全体にそんなどこかほっとした雰囲気が流れそうになった時、ふいに見張り員が前方を指さす。
「前方、機雷原です。このままでは、上陸目標の浜辺には近づけません。」
多田野が双眼鏡で、見張り員が告げる先を見ると波間にプカプカと機雷が浮いていた。
「やはりあったか。艦隊、停止。猿渡艦長に機雷原の切れ目を探らせて。」
多田野の指示に楢崎が頷く。
「すぐに電文します。」
程なくして、猿渡から了解の返事が来ると、すぐさま、アサマの横を2隻の駆逐艦が駆け抜けていった。
「読まれていましたね。司令。大規模な上陸作戦をするとなればここ以外に上陸地点はありませんから。」
多田野は海面に浮かぶ機雷が気になっていた。
「そうだな。艦長。しかし、敵も逃げ道を塞いだわけだろう。解せないな。しかも浮遊機雷なんてわかりやすい。ニキータさんは青い海に機雷を隠したように言っていたが。」
「時間稼ぎにはうってつけかと。設置の手間のかからない浮遊機雷を足したという所でしょうか。」
「うむ。艦長の言うことも一理あるが。」
と多田野の思考を遮って見張り員から報告が飛んだ。
「両舷から高速小型艇接近。武装兵が見えます。本艦に乗り移る気のようです。」
「全速反転。振り切れるか。副砲で応戦して。」
「加速までに時間がかかります。」
と南郷が言う。
「一応、陸戦隊に武装させて。司令。初めから我々の足を止めるのが目的だったのでしょうか。」
「だろうね。艦長。」
と多田野が返す間も、副砲が引き起こす水柱が徐々にアサマに近づいてくる。
「小型艇、尚も接近。接触まで後、約5分。」
見張り員が切迫した声で告げる。
「日野さん。」
ここに来て彰子は不意に副長の名を呼んだ。
「はい。自分が陸戦隊の指揮を取ります。」
と日野が普段見せない引き締まった表情をして艦橋から消えていった。
「なぜ、日野さんなんだ。」
多田野は不思議そうに聞いた。
「日野さんは兵学校の陸戦隊の教官を務めたことのある人です。」
彰子が少し声を潜めてそういったので、多田野は必死に日野の経歴書を思い返す。そんなことは書いていないはずであった。
「後で説明いたします。今は指揮をお願いします。」
いつもならすぐに答えてくれる彰子は不思議そうな顔をする多田野を見ながら前を向くよう促した。
「小型艇、更に接近。本艦に乗り移られます。」
悲鳴にも似た見張り員の声が艦橋に響く。事ここに至っては多田野も疑問を封印するしかなかった。
「総員、白兵戦用意。非戦闘員は居住区に退避せよ。」




