有名
多田野はアカシから来たメルルを伴って捕虜のいる甲板へと降りてきた。航行中の甲板は日差しが強かったが、風が涼しく意外に快適だった。
「技術顧問の君にこんな役を命じて済まない。君の身は我々が責任をもって守りますから。」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ。通訳するだけですから。」
と頭を下げたメルルが、捕虜達を見た瞬間にあっと声を上げた。
「もしかして、研究者仲間の…。」
「いえ。でも、ある意味、有名人ですよ。端にいるのは国際的連続窃盗犯のニキータ・シュールです。それにこちらは美人詐欺師のアマールカ・ロックフェルド、爆弾魔のジョセフ・アーイに…。」
メルルの説明を遮って、ニキータと呼ばれた女が口を開く。
「怪盗と言ってほしいね。それにしても私もまだまだ有名なのね。しかもアメリア人じゃない。あなたも、お姉さんたちと一緒の捕虜なの。」
メルルが不機嫌になって言い返す。
「いえ、私は帝国に亡命しました。今はこの艦隊の技術顧問です。」
ニキータはヘラりと笑いながら返す。
「へぇ。技術顧問さん。いいわねぇ。私も亡命しちゃおうかしら。」
多田野は驚いた。ここまでの会話はすべて帝国語でなされていたのだ。
「待て。帝国語が話せるのか。」
「私は話せるわよ。帝国のお宝もいくつか頂いてるし。他の子達もみんな話せないまでも理解はできるわ。で、責任者はどなた。お髭の艦長さんには飽きちゃって。それにやっぱり艦を沈められた相手と顔突き合わすなんて面白くないし。」
ニキータのかなり軽い様子に多田野は咳払いをして仕切り直した。
「私が艦隊司令の多田野幸隆です。部下をだいぶ困らせたとか。」
「あら、若いのね。タダノさんね。なに、ちょっとしたオイタよ。」
多田野はニキータの醸し出す雰囲気に飲まれないように背筋を伸ばした。
「あなた方は戦時国際法にのっとり、本艦で人道的に扱われます。」
「ありがたい話ね。こんな犯罪者にも人権があるとは。しかし、甲板上なんて。こっちは久しぶりのお天道様。日焼けが心配だよ。」
ニキータがますますおちゃらけたようにいった。その態度に堪り兼ねたのか彰子が多田野の脇からすっと出てくる。
「あなたねぇ。本艦は作戦航海中です。あなた方は、捕虜として、しばらく営巣に入れることになります。貴重な太陽ですよ。」
「何だい。この女は。司令さんの女かい。」
「何を…。私と司令はそんな関係じゃ。」
ニキータの言葉に彰子は珍しくうろたえた。いつもとは逆で多田野が代わりに答える。
「この艦の艦長兼作戦参謀の神城大佐です。怒らせない方がいいでしょう。」
彰子がわざとらしく咳払いをする。
「そ、そうです。あなた方は私の指揮下に入ります。」
「へー。そうかい。よろしく頼むよ。営巣でもなんでも入れてくれ。牢獄は慣れてるんだ。」
ニキータは手錠をされた手を前に出した。そのあっけらかんとした態度に多田野は呆気に取られた。




