迂回
第13艦隊は遠藤艦隊と別れ、迂回航路を淡々と進んでいた。
すでに夏本番となった南方海域の気温は30度を超え、直射日光に加え、甲板からの照り返しがある艦橋は湿気がないのが幸いであったが、かなりの暑さになっていた。
「しかし、夏は暑いですな。慣れぬものです。」
日野が手をパタパタとさせながら南国特有の熱気を顔に送っていた。軍服の前はとっくに、全て、はだけている。
「言っても仕方なこと言わないで。」
軍服をはだけさせることができない彰子は書類で風を作り、多田野の隣ではなく送風機の前の艦長席に腰を掛けていた。無論、彰子自身は多田野の隣に立つことを希望したが、多田野が倒れられたら困ると無理に座らせていた。すでに多田野も夏服の釦を2つほど外し、ズボンのベルトを少し緩めていた。
多田野は時計を確認した。交代の時間までは後1時間程あった。
「南方の暑さは確かに堪えるな。兵たちの交代回数を適宜、増やしてくれ。我々も交代で休もう。」
暑さの中、来るか来ないかわからない敵の待ち伏せを警戒してじっと海面に目を凝らす作業は地味に緊張と不快感が襲ってくるものだった。
「かしこまりました。艦橋だと、楢橋さんは替わってもいいわ。司令もどうぞ。ほかはあと少し堪えて頂戴。」
多田野の提案を受けて、彰子は交代順序が書かれた紙を見ながら新しい順番を考えていく。同性の楢橋をまず外したことから配慮はうかがえた。多田野は自分がいては部下が休めないと真っ先に休息をとることにした。
「索敵機より通信。我、潜望鏡らしきものを見ゆ。本艦右前方です。」
やっと交代できると一息つこうとしていた髪まで汗だくの楢橋が座標を書いて、多田野と南郷に渡す。座標はまもなく目視できるという距離だった。
「聴音手。対潜監視、厳となせ。第二種戦闘配備。こちらには潜水艦ですか。索敵機は発見されたでしょう。どうしますか。」
暑さから一転、キリっとした目になった彰子が多田野に指示を求めてくる。
「この海域にいるということは、待ち伏せの可能性が高いな。敵は単艦か。」
「待ち伏せなら、発見できていないだけで、その可能性は低いかと。」
「では、猿渡艦長に任せよう。我々は潜水艦を迂回し、上陸作戦を優先する。一刻も早いゼン島攻略が遠藤司令を助けることになるからな。」
「それがよろしいかと。猿渡艦長に打電。潜水艦の処理を。」
楢橋がすぐさま打電する。
「了解とのことです。駆逐艦ハルカゼ以下3艦。隊列より離脱します。」
敵潜水艦を避けるべくアサマは大きく弧を描いた。




