練度
「モロ島の防衛にもう少し艦艇を割くべきではないかとの意見がありますが。」
アンの報告にギールは執務室の壁にかけられた海図に目をやった。正直に言ってギールはアンが苦手だった。感情は全く表に出ないし、隙というものが一切なく必要最低限しか喋らない。そういう所がレンブラントの息のかかったお目付け役には最適であるのも気に食わなかった。
「モロ島か。あそこは念の為に置いといた地元民主体のパトロール艦隊だろ。撤退命令を出してもいい。」
本国とは違う文化を有した民族。アメリアが無理やり併合した民族。それが地元民と呼ばれていた。
「はい。地元民と我々では連携が難しいので残した艦隊です。しかし、エンドウ艦隊がいなくなりレブ島を叩く好機かと思われますが。」
ギールはわざとらしく手を横に開いてやれやれといったポーズをした。
「お目付役ご苦労。それがレンブラント中将の『命令』ならやるがね。」
「いえ、指揮権は少将に一任されております。」
ギールの不快感など一切知らないとばかり、アンは感情のまったくこもらない声でそう言った。ギールは海図から手元の書類に目を移した。
「例のクラウンの艦隊はどうだ。」
「我が方の潜水艦の攻撃で旗艦アサマが中破。ドックに入ってるとのことです。他艦艇はパトロール航海を続けています。」
「なら、まだ練度が低いからだめだ。しかし、我が艦隊は旧式とはいえ改良された重巡3軽巡6駆逐15。レンブラント中将の艦隊がなくとも練度さえ上がれば圧倒できる。」
今レブを攻めれば少なからず、損害を与えられるだろう。ギールにもそれはわかってた。しかし、レンブラントから受け取った実験艦隊は実戦訓練などしてきてはいなかったから、いかにせん練度が低かった。ギールが本拠地を最前線のモロ島ではなく、南方諸島の中央部に位置するここにしたのも、訓練海域が広く取れるという利点からだった。ギールが先の大戦での反省から戦後を見通し、屈強な手駒を欲していたものあった。
「では、撤退命令を出しておきます。」
アンは静かに敬礼して出ていった。
「頼む。」
これで優秀じゃなければアンなど、どこにでも飛ばせるんだけどなとギールは書類をめくりながら考えていた。




