立案
メルルが去ってしばらくすると、彰子に連れられて猿渡と二階堂の二人がやって来た。
「司令。殿下の荷を守るためとはいえ、大分無茶をしましたな。」
開口一番、猿渡は見透かすような目をしてそう言った。彰子がちらりと多田野を見たが、猿渡の目には通じないような気がして多田野はあっさりと誤魔化すのをあきらめた。
「あの輸送艦には、赤色弾が載せられていました。」
「ほう。赤色弾でしたか。」
猿渡は多田野が拍子抜けするほど、驚くことなくそういった。 他方、猿渡の後ろにいた二階堂は目を見開いた。
「赤色弾って使用禁止兵器のあれですか。」
「二階堂。レブ基地の地下にある研究所って話あるだろ。」
と猿渡は言った。多田野は知らなかったが、レブ基地では有名な話らしく二階堂は頷いた。
「あの怪談ですよね。夜中になると基地のエレベーターのボタンが増えるとか、ボイラー室のさらに地下からすすり泣く声が聞こえるとか。」
「大戦期、この島の地下には毒ガス工場と研究所があったらしい。」
「まさか。未だに現役で稼働してると。」
返事をする代わりに猿渡は多田野を見た。多田野が答えるしかなかった。
「そうです。戒厳令を敷く以前の問題ですからこの事は内密に。」
二階堂が頷いた。
「わかってます。こんなこと、信じてはもらえないだろうし、言えばたちまち怖い人たちがやってきますから。」
「では、この話は我々は一切聞かなかったということで。御前会議に話をうつしましょう。」
彰子は場の雰囲気をがらりと変えるように手をたたいた。
「まず、偵察機からの情報ですが。」
とすっかり切り替えた二階堂がそれに答え、狭い机一杯に海図を載せた。
「レブ島から進攻可能なのは二つの島です。最も近いモロ島には旧式の小規模艦隊がパトロールしています。他方、ブルン島には多数の艦艇が集結しています。敵はブルン島を前線基地にする模様です。」
「陸軍は積極的攻勢案を提案してくるでしょう。」
と猿渡が敵味方を表す駒を海図に置きながら言った。
多田野は頷いた。
「艦艇数が圧倒的に足らないな。」
北村の性格や海軍を見下したところのある陸軍の気質から容易に予想できた。しかし、防衛や補給路の確保を考えれば、攻勢に出るだけの艦艇は圧倒的に足らず、現時点で海軍側の作戦は現状維持かつ防衛的にならざるを得なかった。彰子が頷く。
「その通りです。我々の取れる選択肢は殿下から陛下に増援を要求する程度かと。陸軍や殿下には旗艦アサマの修理と艦艇数の不足を理由に積極的攻勢を避けていただけるよう話をしましょう。」
「増援についてだが。」
多田野の言に二階堂が答えた。
「現時点では増援ついてあてがあるのは練習艦隊というか近海警備の艦隊しかありません。軽巡1駆逐2です。」
多数の艦艇が数カ所の戦域に広がっている今、増援となりうる艦艇は圧倒的に少なかった。仕方がないと多田野は思った。
「では、我々はあくまで、増援を待ち積極的攻勢を避けるように進言しましょう。」
蓮子が納得するかは分からないなと多田野は立ち上がって、大きく伸びをすると御前会議に出席するため、手元の書類をまとめた。




