騒動
第13艦隊の帰還をレブ島はまるで戦勝パーティーのような歓待をもって迎え、それに応える第13艦隊は駆逐艦ミズシマが煙幕展開時の機関部の異常発熱による故障の為、中破相当の判定を受けていたが、それ以外の損害というものは奇跡的に無く、全艦が意気揚々と入港していった。
アサマの艦橋には華々しく勇ましい音楽が鳴り響き、眼下には軍の為に入植してきた人々も手を叩いて賑やかに囃し立てていた。
「全く、とんだ初陣でしたね。それにすごい有様だ。」
日野は満面の笑顔で、港から聞こえる軍楽隊の音楽と人々の歓声に煙幕で真っ黒になった手と帽子を振って応えている水兵達を見ながら呟いた。
金沢もそれに呼応するように楽しそうに頷く。
「自分も司令が敵艦隊に突っ込めといった時は。ダメかと思いました。それにしても、まさか魚雷をああ使うとは…。」
「お疲れ様でした。司令。あの敵戦力で、人的被害なし、駆逐艦ミズシマの中破だけというのは、本当に見事な采配でした。」
彰子が多田野に向かい敬礼し、日野以下もそれに続いて敬礼した。
「艦長をはじめとする皆さんのお陰です。」
多田野は照れ臭そうに答礼しながら、そう言った。 それは多田野の本心だった。
机上演習なら単縦陣に並んだ駒を適当なマス目に並べ、賽を振ればそれで敵艦は沈む。しかし、実戦では、ジグザグ航行を行いながら、徐々に詰まる敵との距離を読み、徹甲弾や榴弾などの弾種を選んで砲撃、観測された情報を聞きながら修正していく必要がある。
艦隊勤務のない多田野にジグザグ航行に関する知識や有効な弾種の区別、修正の加え方などの知識はあくまで座学のものだった。言うなれば、自分の指揮は極々簡単なスケッチであり、それを形にするのが彰子をはじめとする艦橋要員であると言えばよいだろうか。少なくとも多田野はそう考えていた。
「司令。遠藤司令より『そちらに行く。』とのことです。暗号通信になってますけど、この騒ぎですから間違えたんですかね。」
と楢橋が少し不思議そうに報告した。多田野が答える問題でないとばかり、日野が楢崎に一歩近づく。
「さっきまで、民間人向けの指示や軍令部に転送する報告も全艦宛に来ていましたから。通信班は大変なんでしょうな。」
確かに日野の言う通り、第13艦隊の入港にあたり、民間人用の指示が混線するなど、多少の通信の混乱はあった。しかし、混乱の中でも、入港の指示は全て平文で送信されていた。
多田野は嫌な予感を感じながらも、雰囲気を壊さぬよう努めて平生を装い、声のトーンも気持ち抑えめにして指示を出した。
「そうかもしれないな。通信長。了解の返事を。」
彰子だけは何かを察知したようで、さり気なく戦闘詳報と救助者のリストを多田野に渡してきた。多田野は全く、仕事が出来る艦長だと感じながらおもむろに帽子を取り、その影からそれを受け取った。
「では、副長。後を頼みます。艦の清掃後は特別に風呂を許可して下さい。」
日野は承知しましたと敬礼をして多田野に答えた。
「済まないが、神城大佐は私の部屋に。」
かしこまりましたと彰子は多田野の後について艦橋を出た。




