第9話
リノリア・ベス・ツェルベールは悪役だ。
そして、おそらく私はその後ろに控える脇役でゲーム本編では、取り巻きとして悪役に手を貸す。名前すら出ない、詳細な容貌さえ表示されない。
私達はどの攻略ルートでも登場するが、一番顕著に登場するのはメインヒーロー、この国の第2王子アルス・エストラルである。
ツェルベール家は今では薄れていまったが、過去に王家より姫を迎えており、王家の血を受け継ぐ数少ない貴族であった。第1王子が他国から姫を迎えることになり、第2王子の相手は国内の有力貴族から、というお話である。有力貴族の数ある候補から、血筋、容姿、能力等から絞り込まれた婚約者、それがリノリア。確か、正式に発表されなのは5歳だっただろうか。
シナリオ通りならば、既に水面下では声がかかっていてもおかしくはない。そして、あのツェルベール様の様子からすればすぐに了承する。
おそらく回避の時間は、既にないだろう。
その際に順調に事が進めば、最悪私達に待つのは断罪というなの処刑。それを避ける対策は、あくまで曖昧な予想という確証のないものから立てた不安定な代物だ。
何しろ、メインストーリーに悪役の掘り下げられた話など盛り込まれていないのだから。
唯一分かるのは、嫉妬に狂いヒロインを害する令嬢とそれに加担する取り巻きという設定だけ。
詰まるところ弱小貴族であり、現在まだまだ子供である私に出来ることは少ない。
リノリア様を誰かを害するような人物にしないこと。
後は、出来るだけ第2王子に対して執着心を抱かせないこと。
これが出来たなら、リノリア様がヒロインを害することも、そもそもの理由が無くなる。
「よし」
これが、小さな私が考えた末の結論。
私はあれから熱を出し、二日程休養を戴いた。
その間リノリア様は何度も様子を見に来てくださったし、綺麗なお花や美味しいお菓子を差し入れていただいた。
「…美味しい?」
と、様子を伺うようにおずおずとこちらを見るリノリア様は可愛いらしかった。何故この世界にはカメラがないのだろう、と残念になるほど。
熱も下がって、私はようやく本来の仕事に取り組む。
「レイナ」
「畏まりました」
リノリア様の側使えである。
私はリノリア様の髪を整えながら、これから具体的に何をしていくかを考えるのであった。