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第八話 双子の片方

保護院で最初に私へ任された仕事は、双子の名札だった。


 ヨハンとヨナ。


 七歳の男の子たちで、顔立ちはよく似ている。けれど性格はまったく違った。兄のヨハンは慎重で、食堂でも壁側の席を選ぶ。弟のヨナはよく笑い、初対面のリネリアにも「その布うさぎ、耳が長いな」と話しかけてきた。


 問題は、二人の服の名札が何度も取り違えられていることだった。


「本人たちが着替えを急ぐと、すぐ混ざるのです」


 マリベルが洗濯室で説明した。


「字を読める子ならまだよいのですが、二人はまだ練習中で。職員も忙しいと、つい顔で判断して間違える。ヨナは笑って済ませますが、ヨハンはひどく落ち込みます」


 洗濯籠の中には、同じ大きさのシャツが十数枚入っていた。名札は確かに縫われているが、糸の色も場所も同じだ。大人でも急げば間違えるだろう。


「ヨハンは、間違えられると何がつらいのでしょう」


「自分がヨナの影みたいだと言います」


 その言葉に、私は胸が痛んだ。


 名前は区別するためだけのものではない。自分が自分として見られている、という確認でもある。双子なら、なおさら敏感だろう。


 私は二人を作業部屋に呼んだ。


 リネリアも隣の小机で文字練習をしていたが、今日は見学係だと伝えると、真剣な顔でうなずいた。


「お二人の名札を作り直します。ただし、私が勝手に決めるのではなく、二人に選んでもらいたいの」


 ヨナはすぐに身を乗り出した。


「選ぶって、糸の色?」


「色、場所、印。例えば、袖口に小さな星を入れるとか、襟の裏に線を足すとか」


「俺、星がいい!」


 ヨナが即答すると、ヨハンは少し肩を縮めた。


「兄さんは?」


「……なんでもいい」


 その言い方は、本当に何でもいいわけではない。選んでもどうせ弟のものになると思っている声だった。


 私は糸箱を開け、机に並べた。


 赤、青、緑、金、銀、灰色、白。派手なものから目立たないものまで。


「ヨハン。急がなくていいわ。今日は決めるだけで、縫うのは明日でも構いません」


「でも、ヨナが星なら、俺は違うのにしないと」


「違うものにしてもいいし、同じ星を別の場所にしてもいい。似ていることと、同じであることは違います」


 ヨハンは糸を見つめた。


 しばらくして、彼は銀色の糸を指さした。


「月」


「月の印?」


「ヨナが星なら、俺は月がいい。夜に、星を見つけるから」


 ヨナがぱっと顔を上げた。


「じゃあ俺は、兄さんの月を見つける星だ」


 ヨハンは少し困った顔をしたが、嫌ではなさそうだった。


 私は微笑みを抑えながら、布に下絵を描いた。ヨナの名札には小さな星を右袖に。ヨハンの名札には細い月を左袖に。文字は同じ大きさで、けれど糸の流れを少し変える。


 縫っている間、リネリアがじっと見ていた。


「おかあさま、リネにも、しるしある?」


「リネリアは何がいい?」


「うさぎ」


 布うさぎのモモを抱えたまま、娘は即答した。


「では、今度手袋に小さなうさぎを縫いましょう」


「アンナは?」


 不意に話を振られたアンナは、洗濯物を畳みながら目を瞬かせた。


「私は……針山でしょうか」


「かわいくない」


「実用的です」


「じゃあ、りんご」


「なぜですか」


「アンナ、りんごむいてくれるから」


 アンナは少しだけ口元を緩めた。


「では、りんごで」


 作業部屋に小さな笑いが起きた。


 侯爵家の裁縫室で、こんなふうに誰かと相談しながら名札を縫ったことはなかった。あの家では、私は整える人で、見えない仕事を終わらせる人だった。ここでは、子どもたちが自分の印を選ぶ。


 夕方、完成した名札を二人に渡すと、ヨハンは自分の袖を何度も見た。


「これ、俺の?」


「あなたのものよ」


「ヨナが着たら?」


「ヨナの星がないから、すぐ分かります」


 ヨナが兄の袖を覗き込んだ。


「兄さんの月、きれいだな」


「触るな」


「触らない。見るだけ」


 ヨハンは少しだけ笑った。


 その夜の名呼びで、マリベルが「ヨハン」と呼ぶと、彼はいつもよりはっきり返事をした。ヨナが続いて大きな声で返事をし、リネリアはその様子を嬉しそうに見ていた。


 仕事の成果は、大げさな奇跡ではなかった。


 服が取り違えられないこと。


 名前を呼ばれて、少し大きな声で返事ができること。


 それでも保護院では、そういう小さなことが子どもの一日を支えている。


 翌朝、ヨハンは私の作業部屋へ来て、手の中の小さな布切れを差し出した。


「これ、父さんの」


 布切れには、古い刺繍が残っていた。焼け跡のような黒ずみがあり、文字は半分しか読めない。


「父さんの名前、分かる?」


 私は布を受け取った。


 名綴りは、死者を蘇らせる魔法ではない。失われた家族を戻すことはできない。


 けれど、残った名前を整えることはできる。


「すぐには分からないわ。でも、糸の流れを見てみます」


 ヨハンはうなずいた。


「急がなくていい。父さんは、もう寒くないと思うから」


 その言葉に、私は返事をするまで少し時間がかかった。


 子どもたちは、大人が思うより多くを知っている。


 だからこそ、大人はごまかすのではなく、支える言葉を選ばなければならない。

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