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二人は店内に入り、俺達の居るテーブルに向かって歩いてくる。
「……お?おお!リリーとマリウスじゃねぇか!」
ゴッツと呼ばれた俺の目の前に座るゴツい男が、今来た男女にそう返した。
リリーとマリウスと呼ばれた二人は、四人掛けの俺達の居たテーブルに来て、空いた席にそれぞれ座る。
ズケズケと図々しいな。
そんな事を思っていた時に、ゴッツから紹介があった。
「コイツら図々しくて悪いな。俺の友人で、基本的にいつもパーティー組んでる、マリウスとリリーだ。こっちは……」
先に俺へ仲間を紹介した所で、仲間への俺の紹介に言葉を詰まらせるゴッツ。
俺は自分で口を開いた。
「俺は、ホビットのセグだ。よろしく」
「そ、そうそう、セグだ。俺達はついさっき知り合ってな……」
ゴッツがそんな紹介をしていると、リリーが話を折った。
「ああー、キミがフランドゲイルに挑むホビット君?」
「な、何でそれを?」
俺がちょっと驚いて聞き返す。
「さっき、ゴッツ探しにギルドに行ったら、キミの話で盛り上がってたからさ!」
「そ、そうですか」
まあ、ギルドであれだけ騒げば、何かしらの印象は残してしまうか。
そんな事を思っていると、先程ゴッツが頼んだビールを店員が持ってくる。
「ゴッツもさっきまで居たってギルドで聞いたから、姉ちゃんの店かここかな?って思って来たら、やっぱここに居たんだね」
リリーが明るい声音でペラペラと喋ると、ビールを持ってきた店員に自分の分とマリウスの分のビールを頼んだ。
その間に、リリーの話をマリウスが引き継ぐ。
「……で、何でそのホビットとお前がここで飲んでんだ?」
「ああ、それなんだが、ギルドで騒ぎになった時、俺もギルドに居てよぉ。何でもこんなチッコい野郎がフランドゲイルに挑むって言うじゃねーか。だから、ちっと助言でもしてやるかと思ってな」
チッコくて悪かったな。
ホビットは大人でもこんなもんなんだ。
「ほお。お前がそんな他人の事を気にするとはな」
「何言ってんのマリウス。ゴッツは根は優しいヤツよ。あのフランドゲイルに挑む人が居るなんて聞いたら、せめて助言の一つでもしてあげたくもなるわよ」
何やら俺は話から置いていかれそうだが。
ゴッツはちょっと恥ずかしい様な顔をして、ビールに口をつけた。
「とはいえ、何を助言したんだ?」
マリウスが気になったらしく、ゴッツに聞く。
「ああ、そりゃおめえ、あれだよ。フランドゲイルの出没エリアには、ウシジゴクが居るって噂の事だ」
「あー。でも、ウシジゴクはあたし達も見たことはあるけど、あの辺りでは実際に見た人は居ないんでしょ?あれは―――」
ゴッツの答えにリリーが疑問を重ねる。
「いや、見た人は居る。お前らも聞いただろ?サルトスさん達のパーティーが行方不明になった原因がどうやらウシジゴクらしくって、そのサルトスさん達を食ったウシジゴクが、フランドゲイルの出没エリアに移動してるって、レスカさんが言ってたのを」
サルトスとかレスカとは何者だ?
ゴッツが”さん“付けしてるんだから、ゴッツよりも目上の人なんだろうけど。
「おいおい、レスカって、自分は精霊使いだの千里眼が使えるだの言って、ウソかホントかわかんねえ事ばっか言ってるホラ吹き野郎だろ?そんなヤツの言う事を信じるのかよ?」
「あー、あの人はちょっとイッちゃってるよねー」
どうやら、コイツら以外に本物のペテン師が居る様だ。
「いや、あの人が言ってる事は本当だ。場合によってはウソをつく必要があるらしいが、本当に千里眼は持ってる。重要な事はちゃんと本当の事を話してくれるんだ」
人の良いゴッツがペテン師に騙されてるのか?
俺も、リリーやマリウス側に立って、ゴッツを説得した方が良いのだろうか。
しかし、レスカさんとやらをペテン師だとすると、ゴッツがくれた助言もあてにならない事になる。
……いや、別に金をとられた訳でもないし、得た情報は得た情報として、警戒しておくに越したことは無いんだろうけど。
「何を言ってんだ。あんなヤツの言うことなんか信じてたら、やれることもやれなくなっちまうよ」
マリウスは、ゴッツに少し強い口調で続けた。
「フランドゲイルの討伐依頼も、アイツが厄介なウシジゴクの存在を言い触らしやがってから、依頼を受けるヤツすら居なくなったじゃねえか。ソコのチッコいのが何ヵ月ぶりの請負人だかわかってんのか?もうそろそろ半年ぶりだぞ?」
……チッコいの……ねぇ。
ここの連中は”人“の事を何だと思ってんだ?
……あ、俺、”ホビット“だった。
なんて、どーでもいーわ。
話に置いてきぼりになってるから、心の中で一人でボケツッコミしちゃったよ。
「ああ。レスカさんがウシジゴクの話をギルドに忠告しに行ったのが半年前だからな。サルトスさんのパーティーが行方不明になったのが、その一週間前だ。だが、余程腕に自信のあるヤツじゃなきゃ、何もできずに無駄死にするだけだ。レスカさんの忠告で、無駄死にするヤツが減っただけでも良いことだろ」
なんか、話がよくわからなくなってきたが、ゴッツの言うことにも一理はある様だ。
「それならお前も矛盾してるだろ。そんな危険な討伐にこんな子供が行こうってのに、お前は助言だけかよ。それなら助言なんかより、止めるのが先じゃねぇのか?」
マリウスの言うことにも一理あるな。
だが、マリウスは俺を見くびってる。
俺は確かに子供だがフランドゲイルも、なんならついでにウシジゴクも打ち取って来てやるぜ。
俺は、そんな事を思いながら、討伐に意欲を燃やすのだった。