―22―
ゴッツの大食い話に、俺は呆れて冷や汗を垂らしながら、リリーのバックを見詰めていた。
「でも、そうやって美味しいって言ってくれて、たくさん食べてくれるんだから、作る方は嫌な気はしないわ。むしろ、また次の冒険に持っていくお弁当を作るのが楽しみになるかな」
「へぇー。そんなもんかねぇ」
リリーの言葉に、マリウスは『やれやれ』といった様子で応えた。
まあ、リリーの今の発言は、マリウスからしたら単なる惚気話もいいところだ。
だが、当のゴッツはリリーの気持ちに気付いていないから、惚気は成立していない気もする。
「ま、まあせっかくだし、俺達も新鮮なうちに食っておこう」
「そうだな。そんで、英気を養って明日はざっと砂漠を歩いてウシジゴク探しだ」
「じゃあ、今日のところは明るいうちに、ギルドに報告するためにフランドゲイルの甲羅を集めとかなきゃ」
「身の方は日陰に集めて氷漬けにしておいて、町で食材として売ろうぜ!?」
「それ良いかも!普通のカニより美味しいから、絶対に高く売れるよ!」
「甲羅も、防具の素材にはかなり良いだろうから、ギルドに報告したら換金だな!」
「ヒャッホウ!久々に良い稼ぎにもなったぜ!」
そんな会話に盛り上がりながら、俺達は夕暮れまでの時間を費やして、合計三百匹を越えるフランドゲイルの処理を終えた。
そして、岩場に横穴を見付け、食材となる身の方のフランドゲイルを入れて氷漬けにし、別の横穴でキャンプする。
夕食はリリーのカレーにフランドゲイルを足して、カニ入りカレーの様なものを食べた。
これまた、海の生き物でもないのに海の風味が足された様で、シーフードカレーに近い、旨いカレーに舌鼓を打った。
そうして、夜も更けて、焚き火を皆で囲みながら、コーヒーで一息入れていた。
「……ふう。今日も一日終わったなぁ」
ゴッツがコーヒーを一口飲んで、そんな事を呟いた。
「ああ。ここら辺は、幸か不幸か野生のモンスター達もフランドゲイルに食われちまったから、夜の警戒も要らねぇし、ゆったりできるぜ」
マリウスも、大分マッタリとした態度で応える。
「これで、木々の緑と川なんかがあったら最高のキャンプになるのにね」
「まあそうだな。でも、遮るもんがねぇから、その分夜空がキレイだぜ?」
リリーの言葉にゴッツが、随分とロマンチックな事を言う。
「……プッ!アハハハ!なんかキザっぽいな、ゴッツ」
俺がそう突っ込むと。
「アハハハ!」「ホントホント!」
等とマリウスやリリーも笑い出す。
「なっ!?……わ、笑うんじゃねぇ!……は、恥ずかしいから聞き流せよ!」
恥ずかしそうに慌てるゴッツを見て、俺達三人は余計に笑った。
「―――ホント、今朝までの命を駆けた緊張がウソみたい」
「だな。皆、大きな怪我も無くて良かったよ」
リリーの言葉に、俺が同意した。
「セグは足の方は大丈夫?」
フランドゲイルに噛まれて歯形の付いた具足が履き心地の悪さを未だに維持しているが。
「ああ。衝撃で軽く打ち身みたいになっただけだから、さっきリリーにヒールしてもらったら、痛みも無くなったよ。後は、この歯形のせいで具足の履き心地が悪いのだけが心残りだな」
「それは、町に戻って直さないとね」
俺が苦笑している所へ、リリーが少し残念そうに答えた。
「そうだな。……そう言えば、明日はどうやってウシジゴクを探すんだ?」
俺はリリーへの返しに、明日の確認を付け足す。
「ああ、そんなのは簡単だ。ウシジゴクが居るとしたら、そこには円形ですり鉢状に凹んでるから、見ればすぐに解るさ」
答えたのはマリウスだった。
「なるほどな。じゃあ、明日はそんな感じの凹みを探せば良いんだな」
「そう言うことだ。まあ、ウシジゴクなら俺達三人は見たこともあるし、任せとけ」
俺の念を押した確認に、今度はゴッツが答えて、親指で自らを差す仕草で自信を覗かせていた。
「じゃあ、後はフランドゲイルをどうやって町に持っていくかだな」
「それなら、ギルドに報告すれば、牛車とかなら借りられるよ」
俺の更なる疑問には、リリーが答えてくれた。
「じゃあ、明日は三手に別れて行動しよう」
「「「三手?」」」
俺の提案に、三人の声が重なる。
「ああ。一つはウシジゴク討伐隊。二つ目はギルドに報告する役。最後は、その間、フランドゲイルを見張る役だ」
「……そうね。あんまり考えたくないけど、他の旅人達もここのところフランドゲイルのせいで、ロクに討伐が出来なくて商売あがったりだろうから、横取りしていく旅人が居るかもしれないしね」
「そう言うことだ。……で、俺の提案なんだけど、ギルドの報告はリリーが。見張りはゴッツ。討伐に俺とマリウスでどうだろう?」
俺は、リリーの補足もあって明日の段取りを提案する。
「ああ。それでいいぜ」「ええ」「おう。任せろ」
三人から、そんな返事をもらって、異論無く順調に段取りが決まる。
今までは、三人の間ではリリーがまとめてきたはずだが、三人は俺の提案を受け入れてくれた。
俺もこのチームの一員として認めてもらえたのだと、改めて実感が湧いてくる。
「じゃあ、明日はそれぞれ頑張ろう!」
「「「オーーッ!」」」
最後の締めにも皆の声が重なって響いた。
そう言うことで明日の予定も決まり、俺達は食事を終えて皆で片付け、寝床を作り、マントにくるまって焚き火の近くで眠りに付いた。
夜中、ゴッツが一人起きて、ゴソゴソとカレーの残りを夜食にしながら、寝静まった俺達を見渡して微笑む。
「みんな、お疲れさん。セグ、ありがとうな」
夜食を平らげて一人片付けたゴッツが、そんな言葉を残して再び寝床についた。
夜空はそんな俺達を見下ろして、幾千もの星の輝きを讃えていた。




