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92,Q顔色が悪いですよ?Aだって、まさかの今日ですよ!?

 胃が痛いでござります。

 まさかの今日が世界統一薬師試験・下級の試験日なのです。

 魔獣が襲来した日に突然「10日前だからそろそろ勉強しましょうか」とか言われたら誰でも驚くでしょ。

 勇者さんたちもビックリしてたよ。


 あ、勇者さんたちは魔獣襲来の次の日に旅立って行きました。

 仲良くなってたから寂しかったなぁ……

 でも、連絡手段を手に入れたら連絡をくれるそうなのでそれまでは自分のことに集中しないと。


「主、大丈夫?どこ見てるの?」

「アオイちゃん、ハーブティー淹れたから飲みなさい。落ち着くわよ」

「うん、ありがとう……」


 下級の試験は初級と違ってお昼から。

 昼食を取った後に行くらしい。

 で、今お昼ご飯が喉を通らない状況でして。

 とりあえず何でもいいから胃に入れろと言われて焼き菓子やらお茶やらを差し出されています。


「焼き菓子すら食べれないなんて相当ね……」

「主、これ新作のベリー乗せだって」

「おいしそう……おいしそうなんだけど……」


 胃が痛くてどうにもなりません。

 せめて胃薬とかあればいいんだけどね……

 この世界にそんな便利なものは「あるわよ」ない……あるの!?


「ええ。でも緊張から来る胃痛には対応できないわね」

「そっか……というかヒエンさん私の思考を読んで……」

「ないわよ。アオイちゃん小声で胃薬……って呟いてたもの」


 マジで?

 コガネちゃんの方を見るとコクコクと頷いている。

 マジか……


 そんなことを言っていると、店の方でチリリン♪と音がした。

 ヒエンさんが店に出ていく。

 今、全員リビングに居たからね。

 せめて1人は店に居るべきだったね。


「アオイちゃん、お客さんよ」

「ふぇ?」


 まさかこのタイミングで私に接客をしろと仰せですか?

 ヒエンさん店に行ったのに?

 ……あ、いつも通りにしてた方が緊張が和らぐとか、そういうことかな?

 色々考えながら店に行く。


「……あ、モクランさん」


 そこに居たのはモクランさんだった。

 カウンターに座っている。


「どうしたんですか?」

「君の鳥に呼ばれたんだよ」

「え、サクラとモエギにですか?」

「うん」

「ピィ!」「チュン」


 姿を見ないと思ったら……

 というか何で?


「主が緊張で死にそうだって言ってたけど、何で俺を呼ぶの?」

「……何ででしょう?」


 サクラとモエギの方を見るが、2羽とも目を合わせてくれない。

 そして2羽で顔を見合わせて笑っている。

 なんだよ、楽しそうだな。


「教えてくれないですね……」

「命令とかってできないんだ?」

「命令……?」

「命令は血力契約の時のみ発動する。主の契約方法は魔力契約だから、命令じゃなくお願いになる」


 説明してくれたのはハーブティーを持ってきたコガネちゃんだ。

 カップは2つ。

 それぞれ私とモクランさんの前に置かれる。

 コガネちゃんは飲まないのかな?


「まあ、命令だっていえば多少の強制力はあるんだけどね」

「そうなの?」

「うん。魔力的な意味じゃなく、気持ち的な意味で」

「なるほど」


 そもそも魔力契約って強制力ないんだもんね。

 強制しようとも思わないし、それでいいんだけどね。

 コガネちゃんはカウンターの真ん中に焼き菓子を置くと、サクラとモエギを肩に乗せてリビングに行ってしまった。


「……お茶会みたいになってるけど、お客さん来ないのかな……」


 私がぽつりと呟くと、モクランさんが焼き菓子に手を伸ばしつつ言う。


「今日は店開けてないでしょ」

「ふぇ?」

「closeになってたよ」

「そうなんですか?」

「知らなかったの?」


 そういえば今日は1人もお客さん来てないな……

 まさか開けてなかったなんて……

 驚きだな……


「君は食べないの?」

「食欲なくて……」

「ふーん」


 でも、モクランさんの食べ方が非常に食欲をそそります。

 何でそんなにおいしそうに食べるんですか?

 おいしいからですか、そうですか……


「食べたいなら食べればいいじゃん」

「確かに……」


 なんか食欲が出てきた。

 モクランさん、魔法とか使いました?

 使ってませんか、そうですか……


「……おいしい」


 焼き菓子はいつも通りサクサクで、上に乗ったベリーと砂糖がほどよい酸味と甘味です。

 非常においしいです。


「食欲あるじゃん」

「出てきましたね」


 焼き菓子を頬張りながらモクランさんと喋る。

 モクランさんは今日は予定もなく暇だったのだそうだ。

 のんびり本でも読もうかと思っていたらサクラとモエギが来たんだと。


「クリソベリルのメンバーさんで鳥と会話出来る人って、私は会ったことないですよね」

「そうだね。ムギさんっていう人だよ」

「ムギさん……どんな人ですか?」

「希少種で、初代リーダーに拾われたんだって」


 そんな話をしていると、リビングからヒエンさんが出てきた。


「アオイちゃん、そろそろ行かないと」

「ううう……」

「唸ってもダメよ」


 ヒエンさんに引きずられて扉の前に行く。

 そこでヒエンさんに受験用紙を渡された。


「これを受付に見せてね。道案内はモクラン君がしてくれるわ」

「え、そうなんですか?」

「まあ、暇だしね」


 言いながら立ち上がったモクランさんは、私を追い越して扉を開ける。


「ほら、行くよ」

「はーい」

「行ってらっしゃい」

「主、頑張って」「ピッ!」「チュン」

「行ってきます」


 みんなに見送られ外に出る。

 そういえばモクランさん、今日は腰に帯剣してるんですね。

 細身の白い鞘に収まった剣はモクランさんに良く似合う。カッコイイ。


「モクランさん、剣も使えるんですか?」

「まあ、少しはね。剣だけじゃ使わないけど」

「と、言いますと?」

「この剣には魔石が組み込まれてるから魔法と合わせて使うんだよ」

「……魔法剣士……」

「そんな感じ」


 カッコイイ……まほけんか……上位職だ……

 あれ、なるの結構大変なんだよな……


「前見て歩きなってば」

「……あ、はい」


 考え事をしていたら人にぶつかりそうになっていた。

 モクランさんが引っ張って避けてくれたけど、危なかったな。

 考え事しながらとかダメだな。

 私は2つのことを同時にできない人間だ。


「というか、もう着くよ」

「ふぇ!?」


 言われて顔を上げると、試験会場は目の前だ。

 ……胃が痛くなってきた。


「じゃ、頑張ってね」

「はー……い」


 我ながら頼りない返事だ。

 モクランさんは私の頭をポンポンと叩いて去っていった。

 ……うう……胃が痛いよぉ……

 胃を押さえながら受付に向かい、受験用紙を渡す。


「お願いしまーす」

「はい。受験番号1114ですね。係りの者がご案内いたします」

「はーい」


 受付のお姉さんに手で示された方に進むと、無表情+高身長な男の人が立っていた。

 ………………あ、この人初級を受けた時にもあったことある。

 とりあえずお辞儀しよう。

 お辞儀をすると会釈を返してくれた。


「ご案内します」

「お願いします」


 初級の時と同じように後ろをついて行く。

 なんかあの時より怖くないな。

 ツルバミさんが身長高くて口が悪いから慣れたのかな。

 ツルバミさんは口が悪いだけじゃなくて杖で叩いてくるからな。軽くだけど。

 そんなことを考えていると、男の人が止まった。


「着きました。中にお入りください」

「はい」


 促されて扉を開け(重たかった)中に入る。

 部屋の中には薬作りの道具と材料が置いてあった。

 今回は待機時間なしで薬製作のようだ。


「受験番号を教えてくれるかね?」

「1114です」

「うむ。今回は毒消しを作ってもらう。前回同様、すべての道具を使う必要はない。よいかな?」

「はい」

「よろしい。始めてくれ」


 試験官も初級の時と同じ人だった。

 これならあまり緊張せずにできそうだ。

 胃痛も収まってきたし、作りますか!




「そこまで。少し下がっていなさい」


 作った毒消しを濾し器に移し替えたところで声をかけられ、2,3歩後ろに下がる。

 大丈夫だと思うんだけどな~……どうだろ?


「……うむ。良い毒消しじゃな」

「ありがとうございます!」

「次は筆記じゃ。その者について行っておくれ」

「はい!」


 よし、毒消しはちゃんと作れてたみたいだな。

 問題は筆記ですよ。

 案内されたのは前と同じ狭い部屋。

 机の上には紙とペンが置いてある。


「30分後に回収に来ます」

「分かりました」


 前は時間ギリギリだったから、今回も急ぎ目で頑張りますか。

 胃が痛いけど、集中すればどうにかなるよね!




「時間になりました。ペンを置いてください」

「ふひゅう……」


 今回も時間ギリギリだった……

 というかあと5分欲しかったな……問4間違えてる気がする……


「待機部屋にご案内します」

「はーい」


 あ、結局待機部屋には行くのか。

 まあ、そうだよね。筆記の丸付けもあるわけだもんね。

 ……待機部屋って前と同じところかな?本の続きが若干気になってるんだよね。


「結果をお持ちするまで、しばらくお待ちください」

「はーい」


 ……置いてある本が違う!!

 くそう……世界で最初の薬師、読みたかったのに……

 仕方ないからなんか別の本を……


 ゆっくり本を選んでいたら扉がノックされた。

 ……早くね?

 まだ何も読んでない……


「こちらが結果になります。建物を出てからお開け下さい」

「はーい」


 封筒を受け取り、出口まで案内してもらう。

 建物を出ると、モクランさんとヒエンさんがいた。

 モクランさん、まだ居てくれてたのか。


「お疲れ、アオイちゃん。結果は?」

「まだ見てないよ」


 言いながら封筒を開ける。

 中にはガラス板に挟まれた下級の薬師免許が入っていた。


「……やった!!」

「おめでとう」

「ありがとうございます!」


 モクランさんは言いながら薬師免許を覗き込んでくる。

 ……そんなに珍しいのかな?


「おめでとう、アオイちゃん」

「ありがとう、ヒエンさん」


 ……何だろう、ヒエンさんのこの笑顔は何か企んでる時の……


「早速だけど、3か月後の中級も受けてもらうわよ」


 ……え?マジで言ってんの?

 あ、マジなんだ……

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