90,強すぎないか?
ツルバミとユリシアの魔法は1つに融合し、魔獣を包み込んだ。
魔獣の悲鳴のようなものが響き、一瞬勝利したかと思ったのだが、魔法が消えた時、魔獣はまだそこにいた。
布が焦げ、中の肉と思わしきものが見え隠れしている。
明らかにダメージは与えたが、それでも倒すまでにはいかなかったのだ。
見れば、ユリシアの呼吸が軽く乱れている。
普段は襲ってくる魔物をすべて倒しても欠伸をしているような魔法使いなのに。
ツルバミはそんなユリシアを小脇に抱えると、結界の中に入った。
「クソ。ダメか」
「つか……れた……だけ……」
「いや、少しはダメージ入ったろ」
そんな会話をするツルバミとユリシアに、モクランが水を差しだした。
「おう、あんがとな」
「あり……がと……」
水を飲む2人にモクランが話しかける。
「さっきの、結界の中で話してたこと?」
「おう。人型だから言葉理解するんじゃねぇかと思ってな。結界の中で融合確認してた」
「うまく……いった……」
「ダメージは見ての通りだがな」
魔獣はやはり結界の中のアオイを狙っており、ダメージを気にした様子はない。
なぜそこまでアオイを狙うのだろうか。
狙われやすいとは言っていたが、ここまでとは。
「さすがに俺らでももう一回は無理だ。あとはちまちま削るっきゃねぇな」
「……魔力回復」
「あ?」
ポツリと呟いたのはアオイだ。
相変わらずモクランにしがみついている。
「魔力ポーションがあれば、どうにかなるんじゃ……と、思いまして」
「確かにあればもう一回いけるが……ねえんだから仕方ねぇだろ」
「うちの鳥たちなら、エキナセアまで取りに行けます。あれでなかなか力持ちです」
アオイがそういうと、肩に2羽の小鳥が降り立った。
……これでモクランにしがみついた体勢でなければさぞ神々しかっただろう。
「そういうことなら、頼むわ」
「はい!サクラ、モエギ、お願い!」
アオイが言うと共に、2羽の小鳥が空に舞い上がった。
小鳥たちは結界の真上を抜け、さらに上に登っていく。
見えなくなってしまった。どこまで上がるのだろうか。
「どれくらいで戻ってくる?」
「うーん……10分くらいですかね」
思ったよりかからないな。
そんなことを思った。
そうしたら、だ。唐突に結界が軋み始めた。
キィアアアヤアア!!
魔獣の咆哮。
至近距離で聞くと、何か胸を締め付けられるような響きだ。
「う……」
隣から小さな呻き声が聞こえ横を見ると、アオイが胸を押さえてうずくまっている。
モクランはそれを見て眉を顰め、結界を強化した。
その行動で異変に気付いたコガネが結界の中に飛び込んできた。
「主?どうした?」
「分かんない……なんか、息がしづらい……」
「魔力に当てられたか……?少し待ってくれ、俺の魔力を当ててみる」
「うん……」
アオイはコガネに体を預け、苦しそうに息をしている。
コガネが魔力を当て始めると少し落ち着いたようだが、呼吸は荒いままだ。
コガネはしばらく魔力を当てたのち、モクランにアオイを預けた。
「モクラン、頼む。これは元を絶たないと駄目だ」
「分かった。翼に攻撃してもダメージ入らないから気を付けて」
「ああ」
モクランはアオイを抱きかかえるようにして地面に座り、魔力を練り始めた。
ほどなくして魔力は練りあがり、アオイを優しい光が包んだ。
「どう?少しは楽になった?」
「はい……モクランさん、これは?」
「光精霊の加護っていう魔法。今度教えてあげる」
「やった」
アオイはいつものように喜んでいるが、やはりいつものような元気がない。
アオイの心配をしていると、再度魔獣の咆哮が響く。
だがそれは、アオイではなく結界の外で魔獣を攻撃していたジェードに向けられていた。
「はあ!?ウソだろ何で!?」
今まで全く反応されていなかったジェードは戸惑いを隠せず、魔獣の攻撃をギリギリでかわしたのちに走り出す。
だがジェードは運悪く結界から最も離れた場所にいる。
ジェードが結界内に入ることを諦めた時、ツルバミの声が響いた。
「おいジェードこっち来い!!」
ジェードがツルバミの元に走り、ツルバミに腕を引かれて背に庇われる。
ツルバミとしては庇ったつもりはないのかもしれないが。
ともかくツルバミはジェードの手を引いてすぐに魔法を発動させた。
2人を包み込む氷のドームだ。
ツルバミは結界を張ることが出来ない。
なので氷魔法を結界代わりに使用するのだ。
魔獣はツルバミの結界(攻撃魔法を改造したもの)に向けて炎の塊を放った。
炎の塊は結界(攻撃魔法を(以下略)を包み込んだが、ツルバミは氷と水を交互に重ね幾重もの層を作っており、完全に溶けることはなかった。
「あっぶねぇ……半分削れたぞ」
「ツルの結界(仮)がこんだけ削られるの、初めて見たかも」
「カッコカリってなんだ。これは立派な結界だろ」
魔獣は炎の塊を放ってすぐにジェードへの興味を失ったかのように再びアオイを狙い始めており、2人はどこか緩い会話をしながら結界の中に戻ってきた。
リーダーも戻ってきており、すぐにジェードに話しかける。
「大丈夫か、ジェード」
「うん。……なんで俺、さっきだけ狙われたんだろ……?」
「なんかしたんだろ」
ツルバミに言われ、ジェードは首を傾げた。
そして悩みながら声を出す。
「さっきは魔力込めて斬っただけだよ……?ダメージ量はツルとユリシアちゃんの合わせ技の方が上でしょ?」
その言葉に反応したのは、アオイに魔力を当てながら結界を保ち、ついでに後ろの方で何か魔法を発動させているモクランだ。
リーダーはモクランの器用さに少し驚いた。
「ジェード、魔力って獣人の?」
「ん?うん。そうだよ」
「じゃあ、それが理由かも」
「あ?どういうことだよモクラン」
「今から説明するって……ジェード、ツルバミ抑えといて」
モクランに詰め寄っていたツルバミはジェードに首根っこを掴んで元の位置に戻され、モクランはアオイを抱えなおして話し始める。
いつの間にかコガネも近くに座っていた。
「あの魔獣、多分獣人を狙う習性があるんだよ」
「ふぇ?モクランさん、私獣人じゃないです」
「君は色々別だから」
「何で獣人を狙うんだ?」
リーダーの言葉に、モクランは「あくまで憶測だけど……」と前置きして話し始める。
「あの魔獣は元々魔人なんだと思うよ。
魔人だったころに獣人と何かトラブルとかがあって、魔獣になってから獣人を狙うようになった……っていうのが俺の憶測だよ。
ジェードは獣人特有の魔力を強めたから狙われたんじゃないかな」
完全にあっているわけではないだろうが、かなりいい線をいっているように思えた。
否定する要素がないからだろうか。
「……獣人を狙うから、俺は反応されなかったのか」
「そうだね。君は獣人じゃないから」
コガネの呟きに返事をしたモクランは、リーダーに向き直った。
「リーダー、ジェードが囮として使えるから、罠とかも張れるよ。どうする?」
「……うーむ……ジェードが囮になったら、そのたびにツルバミが結界(仮)を使うことになるからな……」
「リーダー、カッコカリはいらないぜ?」
「私が……結界……張る……」
「私も、微力ながらお手伝いさせていただきます」
いたずらにツルバミの魔力を削るのは得策ではないだろうと思っていたリーダーに声をかけたのは、ユリシアとリーラだった。
「出来るのか?」
「結界……張れる……」
「私は自分では強いものは張れませんが、ユリシアの張ったものを持続させることはできます」
「強度と持続時間は?」
「この結界……くらい……?」
「最長30秒ですが、先ほどの炎は8.6秒で消滅したので問題ないかと」
「なんで強度疑問系なんだよ」
「最高……強度……一瞬……、だから……」
2人の言葉に、リーダーは顎に手を当て何か考えていたが、顔を上げて言った。
「よし、ジェード、囮を頼む。モクラン、ツルバミ、落とし穴バージョン氷水を作ってくれ」
リーダーの言葉に全員が了解の意思を示し、モクランはアオイをコガネに受け渡した。
ツルバミさんは口が悪いです←
どうでもよすぎる設定ですが、ツルバミさんとジェードさんは部屋が隣で月に2,3回はお互いの部屋に泊まって潰れるまで飲んでます。




