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87,しごき方がえげつない。

 昨日はその後ずっとムギと話していた。

 ムギは自分の事をあまり話さなかったが、昔クリソベリルの初代リーダーに助けられたこと、自分が希少種であることを教えてくれた。

 俺がムギと話している間、ゼラは他の人に魔力浸透を教わっていたらしいが、アオイの方が才能ある……俺ってなんなんだ……と呟いていた。


 ちなみに今いる場所は昨日と同じ宿だが、今日の夜からクリソベリルの拠点に泊まらせてもらうことになっている。

 その方がしごきやすいから、ということらしい。

 何とも怖い理由だった。


「さてと……じゃあ行くか」


 昨日は別行動を取っていたメンバーにも説明はしてあるので、今からクリソベリルの拠点に移動する。

 今日はアオイの案内がないが、リーラが道を覚えているので問題ない。


「そういえば、リーラさんは昨日何をしてたんですか?」

「私はツルバミさんという方に魔法を教わっていました」

「ツルバミ……確か、クリソベリルでも随一の水魔法の使い手……でしたっけ」

「はい。あれほどの巨大魔法を見たのは久々でした」


 リーラは何だか楽しそうで、知的好奇心が旺盛なエルフらしい……と密かに思った。


「ユリシアは、昨日何してた?」

「お茶、飲んでた……」

「……ずっと?」

「ずっと……お茶、飲んで……アヤメと……おしゃべり……」

「そうか……」


 楽しそうで何よりだ。

 ユリシアの実力はメンバー1であり、クリソベリルからも教われることはほとんどないのだ。


「ケイは何してたんだ?」

「……ムギさんとお茶飲んで喋ってた……」

「お前もか」


 考えてみれば俺とユリシアの行動に違いがなかった。

 まあ、俺のは経験値稼ぎということにしておいてほしい。


「あ、列車来てる」

「急がないと」


 のんびり歩いていたせいで、列車に乗り遅れそうになった。

 慌てて乗り込み、ふっと息を吐く。

 ユリシアは一瞬にして眠りについた。

 列車の揺れが心地いいらしい。


「へー……クリソベリルの拠点って門から遠いんですね」

「ああ……昨日説明しただろ」

「ご飯に夢中でした!」


 堂々と話を聞いていなかった宣言をしたのは、短剣使いのガーデニアだ。

 こいつはたまに人の話を聞いていない。

 食事中に話したことはほぼすべて聞いていない。

 ガーデニアに言わせると美味すぎるゼラの料理がいけないらしい。

 確かにゼラの作る飯は美味いが、話を聞いてない言い訳にはならないだろう。


 そんな話をしている間に、列車は目的地についていた。

 俺は道を把握しきれていないので、先頭はリーラに任せる。

 行きと帰りに1回ずつ通っただけでよく道を覚えられるな、と感心してしまった。


「さあ、もう着きますから皆さんシャキッとしてください」


 リーラに言われて前を見ると、クリソベリルの拠点前に来ていた。

 誰がノッカーを叩くかで少し揉めたが、勇者だからという理由で俺に押し付けられた。

 ノッカーを叩いて少し待つと、扉が開いて中からコーラルが出てきた。


「お、待ってたよ」


 コーラルは笑顔でそう言って、中に入るように促してくる。

 中に入ると、アヤメが昨日使っていた機械に向かって、ケイたち来たよーと言っていた。

 機械のある場所から戻ってきたコーラルは、俺たちを見渡して言う。


「昨日居なかった人もいるね。昨日居た人は継続として……居なかった人は何がしたいか教えてもらっていいかな?」


 昨日別行動だったメンバーが答えようとしたタイミングで、奥から人が出てきた。


「思ったより早かったわね」

「そうだね」


 のんびりと話しながらアヤメともう一人、少年が出てきて、コーラルに話しかける。


「あ、コーラル。あなた奥行ってていいわよ」

「え、なんで?」

「アオイちゃん来るから」

「あ~……」


 コーラルが納得の声を上げたのと同じタイミングでノッカーの音が響いた。

 ノッカーの音ってこんなに大きいものなのか。

 そんなことを考えている間にアヤメが扉を開けていた。

 アヤメは瞬間移動が使えるのだろうか。


「アーオイちゃん!!」

「わあ、アヤメさん」

「おはよう♪今日も来れたのね」

「はい。魔法は短期間で一気に覚えた方が楽だからってヒエンさんが」

「さすがハーブさんね」


 そんな会話をしながら歩いてくるアオイを見て、昨日居なかったメンバーが騒ぎ出す。

 まあ、そうなるだろう。

 アオイの美しさは最早人ではない。

 神話か何かである。






「おはよーございます、モクランさん」

「おはよう。演唱覚えた?」

「うっ……略式の方は……」

「今日は覚えないと次のことやらせないからね」

「は、はーい……」


 アオイとモクランの会話を聞きながら、昨日と同じ庭に移動していた。

 昨日居なかったメンバーはアヤメに何がしたいか聞かれていた。

 おそらくそれぞれに合った教師がつくのだろう。


「ゼラは?覚えた?」

「え?あ、はい」

「すげぇ……」

「君も早く覚えな」

「はーい」


 急に話を振られて驚いた。

 驚いている間に庭についていた。

 アオイは端に置いてあるイスに座って昨日モクランに渡された紙を見てブツブツと演唱し始めた。

 アオイが今覚えようとしているのは初期結界の演唱だ。

 昨日だけでモクランの演唱を復唱して薄い膜を発生させた実力には驚かされた。


「ゼラはとりあえず魔力浸透を撃てるだけ撃ってくれる?」

「はい」


 モクランに言われて魔力を練る。

 練っている間にモクランは土の壁を作り出していた。

 これにぶつければ良いのだろう。


「じゃあこれにぶつけてね」

「はい」

「魔力切れ起こすまで続けて」

「はい」


 魔力切れを起こすまで、とは何ともきついお題だ。

 1発目を撃って2発目の準備をし始めたところでモクランがボソッと


「まあ、本当は倒れるまでやらせたいんだけどね」


 と呟いた。

 背筋に悪寒が走り、練っていた魔力が霧散する。


「どうしたの?」

「……いえ」

「……倒れるまで、やろうか」

「………………はい」


 本当にやるのか。

 倒れるまで魔力を使うということは、その後1時間ほど目を覚まさない状態になるということなのだが。

 普通はそうならないよう、自分の魔力量を見極めるのが魔法使いとしての必須スキルなのだが。

 そんなことを思ったが、モクランにはモクランの考えがあるのだろう。

 それに、今俺がすべきことはモクランに従うことだ。


 そう思ってから2時間ほどが経過した。

 俺は魔力切れを起こして倒れ、今目を覚ましたところだ。

 モクランが水を渡してくれたのでそれをありがたく受け取り、30分ほど休んでから再び同じことをする。


 今日は一日それを繰り返していた。

 気を失った回数は6回で、アオイはその間に初期結界を覚えていた。

 なんとも鬼畜である。

 本当に、しごき方がえげつない。

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