86,俺よりこの子の方が才能あるな。
モクランの杖は、タスクタイプと呼ばれる長さだった。
タスクタイプは短いもので20センチ、長い物でも35センチほどで、細やかな魔法を使うのに適している。
ちなみに俺の杖はステッキタイプだ。
だいたい腰までの長さで、タスクタイプのように細かい魔法は使えないが、そこそこ威力のある魔法も使える。
だが、威力ならロングステッキの方が上だ。
ロングステッキは、身の丈やそれ以上の長さがある、最も長いタイプの杖だ。
つまりステッキタイプは、よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏なのだ。
とはいえ、ステッキタイプでタスクレベルに細やかな魔法を使う人も、ロングステッキの威力を出す人もいる。
結局は個人の技量なのだ。
アオイが着けている指輪……リングと呼ばれる魔導器は、最近第4大陸で実用化されたものだ。
とても小さく、手を塞がないのが利点だが、威力の高い魔法を撃とうとすると砕けてしまう。
だが、小規模な結界を張るなどはとても相性がいい。
アオイはそれ目的で着けているのだろう。
「さてと……ゼラ、とりあえず今使えるサポート魔法を使って見せて」
モクランはそう言って自分に筋力低下や体力低下、視界暗転、魔力消費増幅など、様々なデバフをかけていく。
つまり、俺はモクランに魔法を使ってこの大量のデバフを出来るだけ消せばいいのか。
やることを理解したので、早速魔法を唱え始める。
モクランは無演唱で魔法を使っていたが、俺にそんな技量はない。
少し時間が経った。
モクランが自分にかけたデバフは3割ほど消えたが、俺にはそれが限界だった。
時間を置けばもう少しは出来るかもしれないが、今出来ないのなら意味がない。
まあ、つまりは魔力切れだ。
「なるほどね。思ったより出来る感じかな」
モクランはそう言って、自分で残ったデバフを解いていく。
あれほどの魔法を使った後なのに全く魔力切れの様子はなく、すべてのデバフを解き終わってもまだまだ余裕がありそうだ。
改めて実力の違いを思い知らされる。
「何から覚えたい?」
「できれば魔力浸透を」
「分かった。なら、まずは基礎の上昇魔力を練って」
「はい」
言われた通り魔力を練り始める。
モクランはその間にアオイに声をかけていた。
「君はまず魔力を指輪に集めるところからだね」
「はーい」
「魔力を感じるのは出来るんだよね?」
「はい!弱い魔力波なら使えます」
「そう。じゃあ、指輪に意識を集中して、指輪を光らせるイメージ」
「イメージ……」
アオイは若干目を細め、指輪を見始めた。
なんだか神秘的な光景だった。
「ゼラ、魔力」
「あっはい」
見とれていたら、先ほどまで練っていた魔力が霧散してしまった。
慌てて練り直す。
少し意識が逸れただけで魔力が霧散してしまうのは俺の技量不足が問題だ。
旅に出てからも魔力を上昇させるための基礎訓練や魔力をその場に留める訓練は続けているが、あまり効果は出ていない。
急に増えるものでもないので焦る必要はないと思うが、やり方が非効率な気もする。
そんなことを考えながら魔力を練り終え、モクランに声をかけ……ようとしたらアオイが大きな声を上げた。
「あ!!光った!モクランさん!光りましたよ!」
「え?あ、本当だ」
アオイはモクランに指輪を見せつつ、嬉しそうに飛び跳ねている。
その姿を可愛らしいと思うと同時に、驚愕していた。
今初めて魔力を練ったとは思えない。
こんなにも意識が逸れているのに魔力が霧散しないなんて。
「じゃあ、それを軽く飛ばしてみようか。そうだな……出来ればあの岩くらいまで」
「はーい……飛ばすって、どうすればいいんですか?」
「飛ばすイメージ……かな。まずは魔力を指輪から指先に移動させてみて」
「はーい………………あ、消えちゃった……」
「最初だからね。指先に移動させられたら呼んで」
「はーい」
アオイは再び指輪を見つめ始め、モクランがこちらを向いた。
「ゼラはもう一回魔力練ろうか」
「あっ……」
また霧散していた。
全くもって集中力がないな、俺は。
ため息を吐いてから魔力を練り直し、モクランを呼ぶ。
「練り終わりました」
「オッケー。じゃあ次はそれに魔力浸透を付けていこう。演唱は?」
「お願いします」
モクランがよく通る声で演唱を始める。
それを復唱し、練った魔力に魔力浸透を付けていく。
魔法とは、粘土を集めて柔らかくなるように練り、色を着けるように魔力を付けていくのだ。
練る魔力と付ける魔力によって魔法の種類が変わる。
魔力浸透を付けたら、それを馴染むように再び練る。
練り終わったら完成した魔法を移動させ、外に放つ。
これをどれだけ早く行えるか、どれほど精密に作れるかが魔法使いとしての技量を測るポイントだ。
「完成したね。とりあえず俺に向けて撃ってみて」
「はい」
モクランに向けて出来上がった魔力浸透を撃つ。
魔力浸透が当たった瞬間、モクランの身体が淡い光に包まれた。
「うん。初めてでこれなら上出来だね」
「ありがとうございます」
モクランは言いながら腰に付けた袋の中を漁り、1枚の紙を取り出した。
「これはゼラにあげるよ。魔力浸透の演唱一覧」
「いいんですか?」
「うん。俺はもう使わないし、元の本は持ってるから」
モクランから紙を受け取り、広げてみる。
1面にビッシリと文字が書き込まれた紙は、先程唱えた完全演唱の他に略式演唱も書いてあった。
魔法の演唱には種類がある。
1つ目は完全演唱。最も長い演唱方法で、確実性が高い。だが演唱時間の長さから隙が出来、実戦には不向きである。
2つ目は略式演唱。完全演唱を短くしたもので、完全演唱よりも確実性は低くなるが、演唱時間は半分ほどになる。実戦で最も使われる演唱方法だ。
3つ目は無演唱。確実性が低く、高い実力の持ち主でなければ出来ない方法だ。だが演唱時間がない、敵になんの魔法を使うかを悟られない、気付かれずに魔法を使用できる……などいろいろな利点がある。
「ゼラは演唱を覚えようか」
「はい」
モクランに言われ、紙に目を落とす。
小さく呟きながら暗記を始め……た瞬間、アオイが再び叫んだ。
「あ!!モクランさん!移動出来ました!」
見ると、アオイの指先が光っている。
マジか。
「それじゃ、飛ばしてみようか」
「はーい……どうやって……?」
「指振って」
アオイはモクランに言われた通り岩に向かって指を振った。
すると光の玉はアオイの指を離れてフヨフヨと飛んでいき、岩に当たって消滅した。
俺が驚きのあまり言葉を失っていると、隣でモクランが呟いた。
「……まさか1発で成功するとは思わなかったんだけど」




