85,希少種に助言をもらった。
コーラルが部屋の扉を開け、中に入るように促してくる。
それに従い部屋の中に入ると、1人の少女がロッキングチェアに腰かけていた。
少女は俺の方を向き、ゆったりとした動きで手招きした。
「ムギさん、俺はいない方がいいですか?」
コーラルの問いに、少女はゆるゆると首を振る。
コーラルはそれを見て頷き、少女の斜め後ろに移動した。
少女はゆっくりと頷き、こちらを向き直る。
「座って」
部屋のいたる所から聞こえてくるような、不思議な声だった。
なぜか、心がかき乱されるような、とても落ち着くような声。
とても年老いているような、幼いような声。
「失礼します」
1言言ってから、向かいのイスに腰を下ろす。
なぜだか分からないが、ラミアで王に会った時より、緊張していた。
「妾に名はないが、ムギと呼ばれておる。其方もそう呼んでくれ」
「はい」
頷く俺を見て、ムギはふっと微笑んだ。
そして、ゆっくりと首を傾げた。
「其方、名は?」
「ケイです」
「ケイ、ケイ。うん、覚えた」
ムギは目を瞑り、ゆっくりと首を左右に傾ける。
アオイとは別種の、神がかった美しさ。
アオイは天使だ。天界で活発に走り回り、盛んに笑う天使。
だとすると、ムギは女神。天界の天使たちや、人界の人間たちを、微笑みと共に見守る女神。
「さて……其方は、妾に何を聞きたいのだ?」
「オリジナルスキルを顕現させるために、助言を頂きたいのです」
「オリジナルスキル……顕現していないのか?」
「はい」
それを聞いて、ムギは目を閉じて体をゆっくりと左右に揺らす。
そして、独り言のように呟いた。
「オリジナルスキルの多くは、生まれると同時か、自我が芽生えると共に顕現する。其方のように、完全に自我が確立しているにも関わらず、オリジナルスキルが顕現していないとなると……」
ムギはゆっくりと目を開け、長い袖に隠れた手をこちらに伸ばしてくる。
「其方のオリジナルスキルは、魔力5以上のものである可能性が非常に高い」
「5、以上……?」
「うむ。使い方を間違えば世界を敵に回すことになるぞ」
ムギはそう言って、伸ばした手を口元に持っていく。
「まあ、其方は大丈夫だろう」
言いながら、ムギはこちらを凝視してくる。
何故か目が逸らせなかった。
しばらくそうしてから、ムギはゆっくりと目を瞑った。
そして背もたれに体重を預ける。
「其方が知りたいのはオリジナルスキルの顕現方法、だったな」
「はい」
「ならば、待て」
「何を……ですか?」
ムギは、言い聞かせるように言う。
「其方が器として育ち切るのを」
「器……」
「其方のそのスキルは、代々勇者が有しているスキルだ。スキル名は、魔を打ち砕く者」
そのスキル名を聞いて、最初に反応したのはコーラルだった。
「魔を打ち砕く者……所有者によって魔力が変わるんでしたっけ」
「うむ。1代前の勇者、神速の聖剣もこのスキルを有していた。魔力は7だったそうだ」
普通のオリジナルスキルでは魔力5が最大だ。
それを超えるとなると、神話の世界に足を突っ込むことになる。
「其方は焦らず、経験を積めば良い」
「経験……」
「うむ。色々な土地を周り、様々なものを見て、力を蓄えよ」
「経験とは、旅なのですか?」
「否。旅も経験ではあるが、旅だけが経験ではない。其方が今ここで妾と話しているのも経験。ガルダに来るまでに獣人と出会ったのも経験。イツァムナーで苦い思いをしたのも経験だ」
「な、なんで知ってるんですか」
「ほっほっほ……」
ムギは笑うだけで答えてくれなかった。
だが、全てを見透かすようなムギの瞳の前ではそれも些細なことを思えるのだった。
「其方にとって、全ての事が経験になる。焦らなくても良いが、様々なことをやってみるといいだろう」
「すべての事……」
「うむ。さて……これで其方が知りたがっていたことは分かったわけだが、時間があるなら妾と話をせぬか?」
今は時間に追われているわけでもない。
それに、ムギと話す時間はとても有意義な気がした。
ならば、答えは決まっている。
「ぜひ」
ムギは微笑んで、何を話そうか、と呟いた。
コーラルはお茶を持ってくると言って部屋を出ていき、部屋には俺とムギの2人が残された。
時間は少し遡り、玄関ホールに残ったほかの人の話になる。
ケイが階段を上っていく姿を眺めていると、奥から1人の人が現れた。
少年と言っても違和感はない幼い容姿だったが、そう呼ぶには抵抗があるほど、なにか分からない威厳があった。
「なに?アヤメ」
「あ、モクランさん」
「ああ、久しぶり」
モクランというらしいその人は、アヤメに話しかけながら近づいてくる。
アヤメは体をそちらに向け、アオイはアヤメの背中から出てきた。
「この子たちの修行に付き合ってあげてほしいのよ」
「ふーん……別にいいけど、何をどうすればいいの?」
「それは本人に聞いてちょうだい」
アヤメはそう言ってこちらを向いた。
どうやらモクランがサポート魔法を扱っているようだ。
「新しく魔法を習得したいんです」
「サポート?回復?」
「サポートです」
「わかった。……名前は?」
「ゼラといいます」
「ゼラ、ね。さて、ここで話しててもどうにもならないし、移動しようか」
モクランはそう言って、アオイを見る。
「君も一緒に教えるから」
「え、いいんですか?」
「うん。前から教えるって言ってたけど教えられてなかったし。指輪は?」
「着けてます!」
アオイは右手を掲げる。
掲げられた右手の人差し指には指輪がはめられている。
魔力が発せられているので魔導器なのだろう。
「なら大丈夫だね。行くよ」
「はーい」
モクランが歩き出し、アオイと俺が後を追う。
アオイはモクランに話しかけつつ、建物の中を見渡した。
「この建物広いですよね~。全員の部屋とかあるんですか?」
「あるよ。それぞれ好きな所を部屋にしてる」
「へ~……そういえばクリソベリルって何人何ですか?」
「18人だよ」
「思ったより多かった……」
2人の会話を聞きながら、なんとなく外を眺める。
庭なのだろうか。
芝生が広がっており、なぜか所々地面が凹んでいる。
「ここだよ」
「わあ、庭だ」
凹んだ理由を考えていたら、モクランが庭に出た。
なるほど。訓練で使うから凹んだのか。
「さてと……じゃあ、さっそく始めようか」
モクランはそう言って、懐から杖を取り出した。




