72,Qお出かけですか?Aレッツゴーレヨンさん家!です。2
窓から朝日が差し込んできた。
それは私の顔面に直撃しており、起きる以外の選択肢を奪い取っていった。
二度寝を諦めて身体を起こし、ゆっくりと目を開ける。
……ここは、どこだったか。
「主、起きたか?」
「……おお、コガネ君。おはよ」
「おはよう。着替えは枕元、朝食は机の上だ」
「はーい……」
意識がはっきりしてくると、ここがどこなのかも思い出せた。
ここはケートスの宿だ。
前回泊まったところとは別だが、同じような作りの。
「……コガネくーん」
「なんだ?」
「サクラとモエギは?」
「パン屋を探しに行っている。出たのはさっきだ」
「そっか〜……」
目を擦りながら時計を開く。
現在時刻、午前8時。
……いつもに比べると少し遅いくらいか。
昨日寝たのが10時だから……10時間睡眠か。
実に健康的だ。
高校生は10時間睡眠くらいが丁度いいって、テレビで見た気がする。
そんな事を考えながら枕元の着替えを手元に持ってくる。
コガネ君は気を使っているのか、こちらに背を向けていた。
……別に気にしないんだけどね?私の中でコガネの基本形はコガネちゃんの方だし。
……いや、でも性別の概念がないって事は、男でもあるのか。
「ふ……あぁぁぁ……」
「主、いい加減目を覚ませ」
「うん……コガネ君、お茶ある?」
「パンの横だ」
「はーい……というか着替え終わったよ」
声をかけると、荷物整理をしていたコガネ君は即座にそれをやめてこちらに歩いてきた。
……やっぱり待っててくれてたのか。
「さて、主」
「なに?」
「今日の予定の確認だ」
「はーい」
「今日は、10時にはケートスを出てキマイラに向かうぞ」
「分かった〜……10時か。早いね」
「帰りはもっとゆっくりしていくがな」
そんな会話をしていたら、窓から2羽の小鳥が入ってきた。
……うん。サクラとモエギだね。
「ピィ!」「チュン」
「おー。サクラ、モエギ。おはよー」
「ピィッ!ピィピーッ!」
「チュン、チュッチュン」
「見つけたか。じゃあ主が食べ終わったら行こう」
「ん?私待ち?」
「ああ」「ピィ」「チュン」
……なんだろう、急がないといけない気がする。
お茶で流し込むか。
「……ケホッ。よし、行こう」
「主、別に急がなくても良かったんだぞ?」
「いや、サクラの威圧が……」
「ピィ!?」
「……サクラ?」
「ピッピィ!ピィィィ!!!」
威圧というより早く行こうという期待の眼差しだったのだが、まあいいか。
とりあえずコガネ君を止めよう。
「コガネ君、行こ」
「……分かった」
「ピィィ……」
サクラを掴んでにっこりしていたコガネ君の服の裾を引っ張り、サクラを開放してもらう。
モエギは自業自得だ、というようにサクラの頭をポスッと叩いていた。
モエギはサクラに甘いのか厳しいのか分からないね。
これぞアメとムチなのかな?
「主、荷物持ったか?」
「持ったよ〜」
「忘れ物は?」
「ないよ〜」
「よし、じゃあ行こう」
自分の荷物(重いもの)を持ったコガネ君は、階段を下って船に乗り込む。
その後に私に手を差し出す事も忘れない。
……王子だね。もしくは騎士だ。
「主、鍵を返してくるから待っててくれ」
「はーい」
返事をして肩に乗ったサクラとモエギを掴む。
サクラは先程の体験がトラウマとなったのか、「ビィ!?」と悲鳴を上げた。モエギは静かだけどね。
「別に暴行は加えないって」
言いながら2羽を膝の上に乗せ、全力でモフる。
うん。今日もモフモフだ。
サクラはすぐにじゃれついてきた。
おうおう、可愛いのう。
「お待たせ、行こう」
「うん」
コガネ君が帰ってきた。
そして膝の上でモフられているサクラとモエギに羨ましそうな目を向ける。
……ん?もしかしてやられたいのか?
そういえば最近コガネをモフってないな〜。
ずっと人型だもんな~。
「さて、サクラ。案内してくれ」
「ピッピィ!」
私が手を離すと、サクラは飛んで船を誘導し始める。
……よし。モエギをモフろう。全力で。
そんなわけでモエギをモフること約5分。
コガネ君が船を減速させた。
着いたのかな?
「いらっしゃい。……あら、いつぞやの」
「おはよーございます」
「覚えてたのか」
「まあね。あなた達ほどの美男美女はそうそう忘れられないわよ」
やっぱりコガネ君はイケメンの類なんだね。
そこは地球と感覚変わらないのかな?
「さて、今日は何をお買い上げ?」
「昼食と、土産になりそうな物を」
「昼食ならこのサンドイッチ、お土産ならラスクがオススメよ」
「主、どうする?」
「……じゃあ、サンドイッチ2つとラスク1つ、それからミックスベリーパンを」
やっぱりここのミックスベリーパンが忘れなれない。
コガネ君が料金を払ってパンを受け取るのを眺めながら、私は内心拳を握りしめ、ここのミックスベリーパンの美味しさを思い出すのだった。
「ありがとう、また来てね」
「はい!また来ます!」
「詳しく言うと3日後くらいに」
手を振って店を離れる。
昼食を確保したので、馬貸しのところに向かう。
馬貸しと船貸しの場所が近いのは外から来た人用なのだろう。
「昨日の馬を借りるんだよね?」
「ああ。……お馬様呼びはやめたのか?」
「うん。なんとなく旬が過ぎた」
「早いな」
今日も今日とて緩い会話をする。
いや〜、ゆるっゆるだね。
「主、降りられるか?」
「うん、どうにかなりそう」
今回はコガネ君の手を借りずに船から降りることに成功した。
ちょっと危なかったけど。
コガネ君は全く危なげなく降りてましたね。さすが。
「それじゃ、船を返してくるから待っててくれ」
「はーい」
サクラとモエギを肩に乗せて揺れる水面を眺める。
あ、魚だ。こんなところに居て捕まらないのかな?
……ああ……猫が……
「主、馬を借りに行くぞ……主?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと弱肉強食の世界を垣間見てた」
「……ああ、猫か」
「この国猫多いよね」
「まあ、食事に困らないからな」
そんな会話をしながら馬貸しのところへ行き、昨日の馬を借りる。
馬は「本当に俺を借りるんだな!」と嬉しそうだ。
「主、荷物」
「はーい」
荷物を渡し、サクラとモエギを馬の上に乗せる。
やっぱり今回も馬と仲良くなっている2羽は、馬の鬣に埋もれて楽しそうだ。
「よし、主、行くぞ」
「はいよー」
もはや慣れた様子で手を差し出すコガネ君と、慣れた様子でその手に掴まる私。
……うん、いつも通り。
「予定としてはキマイラに行くまでに3回休憩を挟むから、それ以外で休みたかったら言ってくれ」
「うん。ちなみに何時到着予定ですか?」
「6時、だな」
夕方だね。でも今は夏だからまだ明るい感じだね。
「そういえば、本当はラミア経由の方が近いって話を聞いたのですが……」
「そうだな。わざわざ海の方まで来ないで大陸の中心を突っ切った方が早いな」
「……なぜケートス経由?」
「パンが食べたかった」
「それだけ!?」
コガネ君は食欲に素直だ。
まあ、確かに美味しいけどさ。わざわざ来てもいいかな、と思うくらい美味しいけどさ。
「帰りは他にも買い物していくがな」
「そうなの?」
「ああ。ケートスには色々揃ってる」
多分、こっちが本当の理由……ではないか。
帰りに買い物するなら行きはラミア経由で良かった訳だし。
そんな事を言ってる間に門を潜り、モエギが上空に舞い上がる。
「主、捕まってろ。午前中に行けるところまで行く」
「分かった!」
魔物は昼とか夜とか関係なく出るが、午前11時くらいが1番数が少ないらしい。
【世界とは何か〜魔物探求編〜】に書いてあった。
理由は分かってない見たいだけどね。
私としては魔物云々よりなんでレヨンさんは魔物の探求してみたのかが1番気になる。
時間は流れて現在午後2時です。
襲われた・追いかけられた回数は10回、生命の危険を感じた回数は2回です。
うん。今日も襲われすぎだね。
今も追いかけられてるしね。
「コガネ君、あれは何?」
「ラビットバードだ」
「兎鳥……」
「ちなみに鳥だ。兎は関係ない」
「ではなぜラビットバード?」
「耳が兎に似てる」
「耳だけ兎……というか鳥に耳ってあったのね……」
「あるぞ。出っ張ってないから見えづらいだけだ」
そういえばなんかで見た気がするな。
鳥の耳は空気抵抗を抑えるために出っ張ってないんだっけ。
……あれ?ラビットバード……耳が兎ってことは空気抵抗受けまくりじゃ……
「コガネ君、ラビットバードって馬鹿なのかな?」
「主、それは言ってはいけない事だ」
「そっか……ところであれ、どうするの?」
「撃ち落とす」
「へ?」
「ちょうど魔法を練り終わったからな。主、目を瞑っていろ」
よく分からんがコガネ君の指示には従うが吉だ。
そんなわけで目を瞑り、コガネ君に頭を押し付ける。
わー。真っ暗。
そして数秒後、コガネ君の声が聞こえたと思ったら一瞬世界が明るくなった。
……え?何事?
「主、もう目を開けていいぞ」
「コガネ君、なにやったの?」
「目くらましだ」
「めっちゃ明るかったよ?」
「かなり強いやつにしたからな」
コガネ君はケロッとしているが、サクラがパニックになっていた。
モエギは平気……じゃないね。プルプルしてるね。
お馬様は平気なのか。さすが。
というのが4時間前の出来事です。
うん。飛んだね。ぶっ飛んだ。
理由はもう言わなくていいや。
そんなわけで現在午後の6時です。
キマイラの灯棒が見えて来た。
サクラとモエギは先にレヨンさんのところに行っているので、コガネ君はちょっと急ぎ目だ。
「主、スピードを上げるぞ」
「はーい」
もう慣れた。乗馬楽しい。
いつか1人で乗れるようになりたいな。
いい加減コガネ依存をどうにかしないとね。
そんなことを考えているうちに門に到着。
そのまま馬貸しのところに行く。
「2日間、ありがとうございました」
馬に頭を下げる。馬は「こんなに魔物に追いかけられたのは初めてだったぜ!」と言っていた。
だろうね。私が追いかけられ過ぎなんだよね。
「主、行くぞ」
「うん……コガネ君、レヨンさん家の場所覚えてる?」
「ああ。……主、忘れたのか?」
「記憶にあるのは毒消しの作り方だけ……」
「1つのことしか覚えてられないのか……」
そんな会話をしながら歩くこと数分。
丘の上のレヨンさん家に到着だ。
とりあえずノックしてみると、すぐに扉が開いた。
「アオイちゃん、久しぶり」
「レヨンさん、お久しぶりです」
「サクラもモエギも来てるよ。入って入って」
「お邪魔しまーす」
久々に見るレヨンさんは相変わらずカッコよかった。
今日も今日とてアシンメトリーだね。
「あ!そうだレヨンさん、青龍の涙」
「ああ、持ってきて貰ったんだったね」
レヨンさんはコガネ君が差し出す木箱を受け取り、金貨を差し出してくる。
コガネ君がそれを受け取り、取引完了。私はなにもしない。それが1番安全。
「ありがとう、これでフサもどうにかなるよ」
「フサ?」
「友人だよ。堕ちし龍の呪いにかかった」
ああ。薬が必要になった人か。
……堕ちし龍の呪い……何回聞いても厨二病だな……
「さて。とりあえず荷物を置いておいで。二階の客間を掃除しておいた」
「ありがとうございます」
「いえいえ。ちなみに夕食は出来てるよ」
「やった!」
祭りは明日と明後日だ。
楽しみだな。




