69,Q綺麗ですね。Aすごいですよね……
クリソベリルの所にお使いに行ってから約1ヶ月が過ぎた。
……うん。この1ヶ月特になにも起こらなかったからぶっ飛ばしました。はい。
モクランさんも忙しいから、今は空き時間に魔法の概念を教えて貰ってるくらいで実技はやってない。
ちなみにクリソベリルの所に行ったのが月初め。今は月末。
月末と言えば……そう!今日はエキナセア定休日なのです!
そして今月の定休日には先月から予定が入っていた。
そう!ワックスフラワーに頼んでいた精霊花のネックレスが出来ているはずなのです!
「主、朝ご飯食べないの?」
「あ、食べる。食べます」
1人で盛り上がっていたらコガネちゃんに声をかけられた。
朝食の席で脳内会議はやっちゃだめだね。
ちなみに今日の朝ご飯はオムレツでした。美味しい。
「ごちそうさま〜」
「お粗末さまでした。お皿置いといて」
「はーい」
コガネちゃんは定休日恒例となりつつある気がするパン焼きをするらしい。
まあ、定休日じゃ無くても焼いてるけどね。
すごく楽しそうに焼いてるんだよね。可愛い。
「そういえばサクラとモエギは?」
「外に出たいって騒いでたから出したよ」
「そっか〜。ありがとう」
コガネちゃんは基本的に私より早起きなので、2羽は外に出たい場合コガネちゃんに頼むことが多い。
私が起きるの待ってたら我慢出来ないだろうしね。主にサクラが。
「主は今日出かけるんだっけ?」
「うん。ネックレス取りに行ってくる」
「……あ、精霊花の」
「そうそう」
コガネちゃんは話しながら洗い物に取り掛かった。
……メイドっぽいな。エキナセアの制服着てると。
「あれ?そういえばコガネちゃんは私服持って無いんだっけ?」
「旅用の服ならあるけど……」
「あれはコガネ君用だよね」
「うん」
……勝手に買ってきたら着てくれるかな?
多分着てくれるだろうな。
でも1人で服屋に入りたくないな。
今度一緒に買いに行こう。
「あ、そうだ。ヒエンさん見てない?」
出かける時は一声かけてから。
それがエキナセアのルールだったりする。
但しヒエンさんは守らない。
「店主なら作業部屋に居たよ」
「また?休みなのに休まないのかな?」
「……店主は、毎日半分休みだから」
「コガネちゃん、それ禁句」
いいのかヒエンさんよ。コガネちゃんにまで言われてるぞ。
確かにヒエンさん、普段店番しないけどさ。
基本的に私かコガネちゃんがやってるけどさ。
常連さん達から、「ハーブさんはまたサボり?」って聞かれたりするけどさ。
だからって毎日半分休みは言っちゃダメだろ。
「まあ、とりあえず一声掛けよう」
「あれ?もう出るの?」
「うん。市場見ながら行くから」
「そっか。気を付けてね。何かあったら呼んでね」
「はーい」
すごく心配された。
そんなに心配か?……うん。心配だよね。そうだよね。
でも大丈夫。現在時刻は8時です。
つまりワックスフラワーは開いてます。
いざとなったら駆け込むので大丈夫。
「よし。じゃあ行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
リビングを出て作業部屋に向かう。
「ヒーエーンーさーん」
「あら、アオイちゃん。おはよう」
「おはよーございます。ワックスフラワーに行ってくるね」
「はい。行ってらっしゃい。気を付けてね」
「はーい」
ヒエンさんはナベをかき混ぜながら本をめくっていた。
多分薬学書だな。
……なに作ってるんだろう?
清流の涙かな?
考えながら扉を開けて外に出る。
「……あっつ」
今日も今日とてカンカン照りですな……
夏の太陽は元気すぎると思うよ……もっと休んでいいんだよ?
「……大通り暑いな」
人が多いせいで余計に暑い。
……この人混みの中を通るの嫌だな……
うん。市場見るのやめて裏通りから行こう。
ワックスフラワーまでの道は分かるからその方が安全だ。
そんな事を考えながら裏通りを進む。
大通りに比べると若干暗く人通りも少ないが、普通に人もいるし怖くはない。
というかむしろ快適だ。
「あら、アオイちゃん。お出かけ?」
「はい。今日は定休日なので」
「そうなの。楽しんでね」
「はーい」
こんな風に近所の人に声かけて貰えるしね。
最近顔を覚えて貰うことが増えて、道で声をかけられるようになった。
なんか、地元感出てきたよね。嬉しい。
「……おや……」
のんびり歩いていたら大通りとの合流地点に着いた。
ワックスフラワーは大通りの向こう側にあるので、結局大通りを横断しないと行けないのだ。
……嫌だな〜大通り、入りたくないなぁ〜
仕方ないので行きますがね……
ああ、空飛びたい……
「こんなにもモエギとサクラを羨ましいと思った事はない……」
ブツブツいいながら大通りに入る。
入った瞬間人に押されて流される。
ああ、違う。私が行きたいのは逆方向なんだ……
そんな事を思ってもどうにかなる訳はなく、そのまま流されていく。
……これ、運悪く冒険者の方々の波に巻き込まれたな……
このまま行くとギルドに行ってしまう。どうしよう。
「アオイさん、アオイさん」
「ふぇ?」
どこからか私を呼ぶ声が。
聞き覚えのある声だな。
「アオイさん、大丈夫ですか?」
「ちょっと大丈夫じゃないです」
「どこに行きたいんですか?」
「向こう側に」
「わかりました。掴まって下さい」
そう言って差し出された手を掴む。
小さいが安心できる手だった。
引っ張られるままに歩いていくと、人混みを抜けて裏通りに入った。
「ここまで来れば大丈夫です」
「ありがとね、クロちゃん」
「いえ、大した事はしてないです」
助けてくれた獣人少女にお礼を言うと、微笑みと共にそんな言葉が帰ってきた。
可愛いな。相変わらず。
「アオイさん、大丈夫でしたか?」
「クロちゃんのお陰でね」
小走りで近づいて来たのは獣人少女コンビの片割れ、シロちゃんだ。
相変わらず可愛い。
「2人共、ガルダに来てたんだね」
「はい。今日入ったんです」
「昨日まで移動してました」
この獣人少女コンビは大陸を跨いで冒険していたりするのだ。
エキナセアが1番安心して買い物が出来るからとガルダに来ることが多いが、本拠地ではないらしい。
というか本拠地はないらしい。
「今度はどこに行ってたの?」
「カウイルです」
「えーっと、第2大陸だっけ?」
「そうです」
今回も大陸移動してたのか。
すごいな。
「それでは、私たちは行きますね」
「うん。助けてくれてありがとう。引き止めてごめんね」
「いえ。久々にアオイさんとお喋り出来て楽しかったです!明日お店に行きますね」
「はーい。待ってるね」
手を振って獣人少女コンビと別れる。
明日は癒しが来店するぞ……
「……頑張ろう」
癒しが来るなら頑張れる。
さて。ワックスフラワー行こ。
裏通りに入って数分歩くと、ワックスフラワーが見えてきた。
着いたぁー。疲れたぁー。
「おはよーございます」
言いながら扉を開けると、アリアさんが奥から出てきた。
「おはよう、アオイちゃん。ネックレス出来てるわよ」
「ほんとですか!?やった」
アリアさんは微笑んで手に持った細長い箱を差し出してくる。
この中に入ってるってことか。
受け取って蓋を開けると、なんかものすごく綺麗な物が入っていた。
え、なんかもう綺麗過ぎてよくわかんないんだけど?
「ふぉぉ……」
「どう?」
「すごいです。すっごい綺麗です」
「そう?良かった」
精霊花の花びらは綺麗にコーティングされていて、花びらの周りには大小様々な飾りがつけられている。
その多くは水色で、花びらに水滴がついているみたいだ。
チェーンは細身のシルバーピンク。
小さいけれど、ものすごく綺麗です。
いや、なんかもう綺麗しか言えないわ。
「そういえば、この花びらってなんの花?すごく綺麗だけど」
「あ、精霊花っていうらしいです」
「精霊花?」
「はい」
「……まさかこんな形で見れるとは……」
「アリアさん?」
「ああ、アオイちゃんは知らないのね」
「ふぇ?なにがですか?」
「精霊花ってものすごく貴重なのよ。アクセサリーにしたら相当高値で売れるわ」
……マジか。
あ、そういえばコガネちゃんも珍しい花だって言ってた気がしなくもなくもない。
「……これ、相当高くなったり……」
「花びらはアオイちゃんの持ち込みだから普通の加工代だけで大丈夫よ」
「おお、ありがとうございます」
「いえいえ。貴重な体験をさせて貰ったわ」
「で、おいくらでしょう」
「70ヤルよ」
「……安すぎません?」
「そんなことないわよ?」
前にもこんなやり取りした気がするな……
まあ、アリアさんがいいと言うならいいか。
ポケットから財布を出して70ヤルを払い、早速ネックレスをつけさせて貰う。
「……どうでしょう?」
「すごく似合ってるわ」
「ありがとうございます」
正直私には勿体ない気もするが、綺麗なので手元に置いときましょう。
そんな事を考えていたら他のお客さんが来店した。
お仕事の邪魔しちゃいけないか。
「それじゃあアリアさん、ありがとうございました」
「いえいえ。また来てね」
「はーい」
手を振ってワックスフラワーを出る。
さて。帰りますかね。




