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56,Q何をしてるんですか?A練習です。

 時刻はちょうど12時。

 本日のお昼ご飯は冷たいスープとフランスパン的な長細い硬めのパンだった。

 ちなみにジュース付き。

 美味しかったです。

 皿を洗って手を拭いたらリビングから店に続く扉を開ける。


「コガネちゃ〜ん。お疲れ様」

「お疲れ、主」

「お昼交代だぜ」

「うん。行ってくる」


 ハイタッチで交代完了だ。

 コガネちゃんは小走りでリビングに向かった。

 可愛い。走り方可愛い。


「よいせっと」


 コガネちゃんを見送ったあと、勢いをつけてイスに座る。

 そして、ヒエンさんに頼んで置いておいて貰った籠を手元に引き寄せる。

 中にはヌマスグリが入っている。

 ヒエンさんのようにはいかないが、感覚で掴む練習をしようと思っているのだ。


「よしっ!」


 気合いをいれて目を瞑る。

 そして指先で数を数えながらヌマスグリを手の中に落としていく。

 ……よし、こんなもんか。

 20個手の中に入れたところで目を開けてヌマスグリの数を数える。


「……うん。20個。でもなぁ……これだとなぁ」


 時間のかかり方は普通に数えるのと同じだ。

 なので、20個のヌマスグリを持った時の感覚、というか、手の締り具合を覚えておく。


「よしっ!次だ!」


 もう一度気合を入れ直し、目を瞑って籠の中に手を入れる。

 そして、今度は数えることはせずにヌマスグリを掴む。

 うむ、こんなもんだろう。


「さてさて……」


 目を開けて数えてみると、12個。

 ……少なっ!?

 あ、でも一応誤差の範囲内だ。

 でも少ないよな……

 …………よし、もっかいやろう。


 2回目の結果、31個。

 ……多すぎた!!

 今度は誤差の範囲外だよ!!

 なんというか、ヌマスグリ小さい。

 だから分からなくなるんだ!(言い訳)

 うん!もう1回やろうか!


 3回目、35個。

 おい!ズレが酷くなってるぞ!

 なんでだよ!なんでなんだよ!!

 ああもう!もっかいだ!!


 4回目、30個。

 ギリギリだな!?

 範囲内ギリギリ!!

 どうにか20台に収めたいんだよな……


 5回目、32個。

 なんだろうね!この微妙な感じは!

 全力で嘆くほどの誤差じゃないのにクリアも出来てないこの感じは!!


 6回目、28個。

 よっしゃきたぁぁ!

 6回目にしてようやく20台だ!

 よし、この調子で……


 7回目、33個。

 なんでだ!!なんでなんだ!?

 さっきのはまぐれか!?

 ……そっか。まぐれか……


 8回目、40個。

 ここに来て本日最大のズレが生じているよ……

 テンションガタ落ちだよ……

 まあ、続けますけどね。


 9回目、25個。

 よっしゃあ!イエイ!

 イヤッフゥー!!


 10回目、35個。

(´・ω・`)



 今日はお客さんも来なかったので、1時間と20分ほどで100回を越えた。

 休憩を挟んだり、途中で嫌になったりしてこの回数なので、ずっと続けてやっていれば150回くらいは出来た気がする。

 成功する確率は3割くらい。

 ちなみに一番酷いズレは51個でした。

 2倍の数掴んじゃったよ。


「主、冷たいの飲む?」

「飲む〜」


 コガネちゃんがティーカップを持って来た。

 中身はレモネードのようだ。


「ふひぃ〜美味しい……」

「もう初夏だもんね」

「えっまだ初夏なの?真夏じゃないの?」

「真夏はこんなもんじゃないよ」

「嘘だろ……」


 死にそう。

 もう既にかなり暑いんだけど。

 異世界コワイ。……いや、この世界がおかしいんじゃなくてガルダが暑いだけかな?

 そうであって欲しいな。


「ねえコガネちゃん」

「なに?」

「ガルダって雪降る?」

「降らないよ」

「やっぱりかぁ……」

「主の生まれた所は、雪降るの?」

「降るよ〜すごい降る。冬は数メートルくらい積もるよ」

「そうなんだ……」


 前にも考えてたけど、コガネちゃんは狐状態で雪の中にいたら分かんないな。


「そんなに雪が降るってことは、第6大陸あたりかな?」

「うーん……どうだろう……」


 日本ってどこの大陸だろうね。この世界、島国どころか島がないからな……分かんないや。


「……ねえねえコガネちゃん」

「なに?」

「この世界さ、島って概念ある?」

「……島?古代神話?」

「古代神話って?」

「島っていうのは古代神話に出てきた気がする」


 なんとまあ。古代神話なんかに出てくるようなものになっちゃうのか。島、お前出世したなぁ……


「主はどこで島のこと知ったの?」

「あ、一般的に知られてるものじゃないんだ?」

「うん。学者とか、暇な貴族とかしか知らないものだと思う」

「うーん……コガネちゃん、驚かない?」

「多分驚く」

「わあ正直」


 なんかもう、隠しておけることでも無いだろうし、言ってしまおう。

 コガネちゃんなら大丈夫だろ。多分。

 というかコガネちゃんが駄目なら誰にも言えないだろうし。


「私ね、島国の生まれなんだ」

「……島国?」

「うん。島全体が国土なの」

「……つまり、主の生まれた所は、島だったの?この世界には島なんて無いのに?」

「うん。そうなんだよ。私、この世界の生まれじゃ無いんだよ」


 さて、コガネちゃんはどんな反応を示すかな?

 最悪全否定されるだろうが……


「あ、そうだったんだ」


 ……え?


「主、あんまりにも常識的なこと知らないから、どんな所で育ったのかと不思議に思ってたんだ」


 ……あれ?


「いやあ、納得納得」


 おいおいおいおい!!

 軽すぎるだろ!?


「えっ、ちょっ、納得しちゃうの!?」

「うん」

「軽いな!?」

「正直、主が異世界出身だろうがなんだろうが主である事に変わりはないし」


 すごい思考回路だった。

 さすがキツネ。人とは考え方が違う。

 いや、異世界の人はみんなこうなのか?


「主、否定されると思ってた?」

「……思ってた」

「人は忘れたみたいだけど、白キツネとか、ほかの神獣たちは覚えてるんだよ」

「……何を?」

「異世界がある事」


 ……ん?

 つまり、なんだ、忘れたってことは、昔は異世界って普通に皆が知ってる事だったのか?

 それを、神獣たちは覚えてる、と?


「えっと、つまり、私が異世界から来たのも納得出来る、と?」

「まあ、そういう事」

「これって一般常識……」

「では無いかな。少なくとも人の中じゃ」

「だよね……だからレヨンさん、堂々とお話書いてるんだもんね……」

「え、あの人、今そんな話書いてるの?」

「らしいよ」

「読みたい……というか、あの人も異世界出身だったんだ」


 のんびり話していると、窓からサクラが飛び込んできた。


「ピッ!ピィ?」


 着陸した直後、カウンターの上に置きっぱなしだったヌマスグリに近付く。


「あ、サクラ、それ食べちゃ駄目だよ」

「ピ?」


 サクラを手のひらに収めつつ声をかけ、自分の傍に引き寄せる。


「これ、毒消しの材料だから食べちゃ駄目」

「ピィッピッ!(分かった!)」


 サクラが納得してくれたところで、モエギが舞い込んで来た。

 サクラが弾丸みたいな勢いで入ってきたのとは対照的に、ふわっと入ってきた。なんか優雅。


「チュン」

「うん。もういいの?」

「チュッチュン」

「そっか」


 昨日に引き続きガルダ内を飛び回っていた2羽だったが、もうあらかた回り尽くしたらしい。

 これからはエキナセアの近くで待機するそうだ。

 ある程度近くに居れば、私が呼んでいる声は聞こえるらしいから、用事がある時は呼べばいいらしい。


「ピッ!」「チュン」

「おー。その前にご飯食べて行きな」


 報告だけしてさっさと行ってしまいそうな2羽を引き止め、リビングからヒエンさん特製ミックスベリーパンを持ってくる。


「ピィ!ピッピッピィ!ピ!」

「うん、分かった、分かったから落ち着け」


 昨日の夜に食べてからこのパンの虜になったサクラが騒ぎ立てるのを聞きながら皿をカウンターの上に置く。


「チュン?」

「うん、お食べ」


 カウンターに置いた瞬間にがっついたサクラとは違い、モエギはお伺いを立ててきた。

 どこまでも対照的な2羽だ。

 サクラとモエギはその後数分でパンを食べ尽くし、元気に外へ飛び出していった。


「さて、私も練習再開しようかな!」

「主、頑張って」

「うん!」


 気合いを入れ直して籠を手元に引き寄せる。

 さあ、やりますか!

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