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50,Q大丈夫ですか?A多分……

 コガネ君が向かったのは、中央広場の右端だった。

 そこで船のレンタルができるらしい。

 ちなみにこの船、ボートのような形をしている。

 もうボートって呼んでいいと思う。


「コガネ君、このボートのレンタル料金ってどんくらい?」

「ボート……?ああ、小舟のことか。そうだな、丸1日で12ヤルだったと思うぞ」

「それって高い?安い?」

「安いんじゃないか?……ちなみにボロ船だともっと安くなる」

「金銭的に問題ないならボロくない船でお願いします」


 コガネ君は了解、といった感じに軽く手を振ってボートレンタルのお店に歩いていった。

 そして店主と数言話して中くらいのボートを水に浮かべた。

 あ、手招きしてる。来いってことか。

 そう思い小走りでコガネ君の元に行く。


「主、1人で乗り降り出来るか?」

「……ちょっと不安かな」


 ボートに着地出来る気がしない。

 落ちる。絶対落ちる。


「分かった。手を貸すからゆっくり乗り込んで」

「はーい」


 久々にお兄ちゃんスイッチが入ったのか、コガネ君は子供に言い聞かせるような口調で言う。

 実際子供なので別に構わない。

 というか、コガネ君に言われても特になにも反発心が生まれない。

 なんでかな?白キツネが長命種で、コガネが確実に私より年上だからかな?


 そんなことを考えてながらコガネの手を借りて、コガネが足で岸に近づけてくれているボートに乗り込む。

 若干よろけたが、即座に座ることで事なきを得た。

 ちなみにコガネは簡単に、軽やかに乗り込んでいた。

 なんかすごくかっこよかった。


「で、コガネ君。これからどこに向かうの?」

「とりあえず市場だな」

「市場?」

「ああ。今日の分の食料と明日の朝飯を買いに行く。

 ついでに店主の知り合いも探してみよう」

「了解。……ヒエンさんの知り合いって、髪が赤からオレンジのグラデーションで、目が黄色と緑のオッドアイって言ってたよね?」

「見たら一瞬で分かるって言ってたな」


 確かに目立つだろうな。

 髪の色がグラデーションってだけで目立つだろうに、まさかのオッドアイだ。

 なんかもう、色々盛り過ぎてよく分からなくなった感がすごい。


「大変だろうな〜そこまで目立つ外見だと」

「……主も十分目立つと思うぞ」

「へ?そう?私の色合いは地味だと思うけどな……」


 私は黒髪黒目だ。典型的な日本人だ。


「そこまで見事な黒髪はそうそういないぞ」

「……そうなの?」

「ああ。というかそもそも黒髪自体珍しい」

「えー……マジかぁ……」


 私は目立っていたらしい。

 いや、いままでも道行く人に見られてる気はしていたが、隣のコガネちゃんを見ているのだと思ってた。

 ……考えてみたらコガネちゃんと並んで歩いてると身長差がないから白髪と黒髪が見事に揃ってる状態になるのか。そりゃ目立つな。


「でも、コガネ君の方が目立たない?」

「白髪は割といる」

「そうなのか……」


 なぜだ……これが異世界と地球の違いか……

 というか、この世界の人って髪の色すごくカラフルなのになんで黒髪はいないんだ?

 いてもよくね?


「さて、主。出発するぞ」

「はーい」


 ぼんやりと考えていたら声をかけられた。

 何も言わずに出発したら私がよろけるからだろう。

 座っていてもよろけるって、もはや才能だと思う。


「コガネ君、市場ってどこ?」

「国の中でも一番大きな川だ」

「川なんだ……どんな感じ?」

「さっき見た商売船みたいなのが沢山いる」

「あ、あれ商売船って言うんだ」

「店って言うには何かが違う感じだからな」

「確かに……」


 露店って感じでもないしな。

 なるほど、商売船……


「というかコガネ君」

「なんだ?」

「ここって色んなものが売ってるんだね」

「そうだな。第三大陸で一番物流が盛んだからな」

「やっぱりそうなんだ〜」

「ああ。他の大陸の物が入りやすい」


 前にも言ったかもしれないが、この世界は地続きになっている七つの大陸で構成されている。

 その大陸には1から7の番号が振られていて、ガルダ、ラミア、キマイラ、ケートスの四つの国があるここは第三大陸だ。

 ちなみに、この世界には「領地」の概念がない。

 塀の中だけが国、みたいな認識だ。

 理由は簡単で、領地とか持っちゃうと魔物&魔獣被害の対応が面倒だから。

(ちなみに、ガルダはちょっとばかし特殊な国だったりする。だからガルダだけ「王都」って認識が存在するのだが、この話は別の機会に。)

 今回キマイラ騎士団がウルフ族を討伐したのは領地内だからとかじゃなく、ケートスとこのままだと貿易出来なくなるし、キマイラの方が近かったからだ。

 それはそうと、1つ気になる事がある。


「あれ?海からの入国ってどうやってるの?」


 さすがに自由ではないと思うが、どうやって検査しているのだろうか。

 というか出国とか大陸越える時とかどうしてるんだろう?


「この国の海の出入口は入江なんだ。だから、そこに入出国の審査所を作ってる」

「ほぉぉ……すごい」

「後で見に行くか?」

「見えるの?」

「ああ。大きな建物だから遠目でも見えるぞ」

「みたい!」


 すごいな。入江を利用した審査所か。

 魔法がある世界だから、大きな建物というと本当に馬鹿デカイ建物だったりするのだ。

 こんなの日本にもないぞ!?

 ってくらい大きい建物とかあるのだ。城とか。


「分かった。後で行こう」

「やった!」

「それはそうと、市場に着いたぞ」


 コガネ君の言う通り、賑やかな通りに入っていた。

 ここが市場なのだろう。

 周りには大量の商売船が浮かんでいるし、買い物客も多い。すごく多い。


「賑やかだねぇ〜」

「そうだな。ガルダも賑やかだが、ここもだいぶ賑やかだ」

「どこが何のお店か分かる?」

「ああ」

「すごいね……」

「俺たちの種族は目がいいんだ」


 越えられない壁があった。

 ……言っとくけど、私も目が悪い訳じゃ無いんだよ?

 右はBだけど左はAだからね?

 コガネ君の目が良すぎるだけだからね?


「あった。まずは食料の確保だな」

「なんのお店?」

「果実だ。小さいのも売ってるから、サクラとモエギの分を買おう」

「了解した」


 ピシッと敬礼して答えると、コガネ君は店に向かってボートを漕ぎ始めた。

 慣れてる感がすごい。速い。


「いらっしゃい!」


 この店の店主は、なんというか、八百屋!って感じの人だった。

 まあ、それは置いておこう。

 商売船には様々な果実が置いてあった。

 見たことないのも多いが、向こうの世界にもあった奴がちらほらとある。


「あ、ブドウだ」

「ブドウ……?」

「おお!?嬢ちゃんよく知ってんな!」

「あれ?有名な果物じゃないの?」

「全然有名じゃないぞ」

「……え?マジか……これでワイン作りますよね?」

「ほぉ、それも知ってんのか。家でワイン作ってたりしたのかい?」

「あー……私が産まれたところでは常識だったんです」

「これが、ワインの元の果実か……うまいとは聞いていたが……主、本当にうまいのか?」

「うん。美味しいよ」


 なんか噛み合わない。久々のこの感じ。

 ワインは普及していたから、ブドウもポピュラーな果物と思ってたんだが、違ったようだ。


「ワインの原料がブドウってのが常識となると……嬢ちゃん、第五大陸の出身かい?」

「うーん……違いますね……多分、私の育った地域が特殊だったんです」


 どこだろう。第五大陸って。

 ガルダから近い関所が第二大陸との間だったから、キマイラに近い関所を越えた先かな?

 その関所を越えた先は第四大陸だったな?

 だとすると第四大陸の隣。

 つまり、遠いところ。


「とりあえず、このブドウってやつを1つ」

「毎度あり〜」

「ところでコガネ君、この赤いのはなに?」

「……主、それはかなり有名だぞ」

「え、そうなの?」

「なんだなんだ、不思議な嬢ちゃんだな」


 不思議ちゃんになってしまった。

 しかし間違ってはいない。

 ここはもう、育った環境が特殊だったって事で納得して貰おう。というか、そうするしかない。


「あはは……かなり情報が偏った地域で育ったので……」

「どの大陸だい?」

「……覚えてないんですよね〜それが」


 覚えてない、としか言いようがない。

 日本ってどの大陸だろう?


「……本当に不思議な嬢ちゃんだな」

「えへへ……」


 必殺、笑って誤魔化す。

 ただし誤魔化せる確率は5%です。


「店主、これも1つ」

「ほい、毎度あり〜」

「美味しいの?」

「ああ。主は好きだと思うぞ」


 つまり甘いのか?

 私が好きってことはそういう事か?

 そんな疑問はコガネ君に買ったばかりの果物を渡されることで解消される。

 コガネ君がボートを漕いで次の店に向かっている時に齧ってみると、柔らかな実から甘くてフルーティな果汁がこれでもかと溢れだし、口に入った実はほろりと崩れた。


「んんん!!」

「うまいだろ?」

「ん!」


 こくこくと頷くことで意思を伝える。

 美味しかった。すごく。

 なので、すぐに食べ終わった。

 果汁がすごいので手がベタベタする。


「コガネ君……手がベタベタだよ……」

「川に手を突っ込めば解決するぞ」

「なるほどね……この川肉食魚とかいないよね?」

「いたら突っ込ませる訳ないだろ」

「それもそうか」


 落ちないように気を付けながら手を伸ばして川に浸ける。水が冷たくて気持ちいい。

 手を洗い終わった後もしばらく水遊びを楽しみ、コガネ君に渡された布で手を拭く。

 そんなことをしている間にコガネ君は次の店を見つけたらしい。

 1隻の商売船に向かってボートを漕ぎ始めた。

 あれは……パン屋か?


「いらっしゃいませ〜」

「おお、パン屋だ」

「ここで明日の朝飯も買ってしまおう」

「了解した!」

「あら、ありがたい相談が聞こえる」


 店主は女の人でした。

 美人、というより可愛い感じの人。

 並べられているパンはどれも美味しそうだ。

 見てるとお腹がすいてくる。


「今食べるならこれがオススメ、明日の朝ならこっちがオススメよ」

「主、どれがいい?」

「朝の分はお姉さんのオススメ、今日の分はオススメのやつと、その隣のが気になる」

「じゃあ、両方買うか。半分づつにしよう」

「やった」


 お姉さんは笑いながら、注文したパンを袋に入れてくれた。

 明日の分、と言ったパンはしっかりした袋に。

 今日の分、と言った二種類のパンは、なんと二つに切ってくれた。

 なんて優しいのだろうか。

 そんな親切なお姉さんにお礼を言って商売船から離れると、サクラとモエギが戻ってきた。


「ピー!」「チュン」

「お帰り〜いいとこあった?」

「ピッ!」

「お、じゃあ案内よろしく」

「ピィッピー!」


 いいところを見つけたらしい。

 サクラは嬉しそうに鳴いて、ボートの前を飛び始めた。

 モエギはサクラの少し上を飛んでいる。

 コガネ君はそんな2羽に目線を向けてボートを漕いでいる。

 私は見てるだけだ。

 しいて言うなら、さっき買ったパンとブドウを抱えてる。


 2羽について行くこと約10分、1つの建物に辿り着いた。

 看板がぶら下がっているから、宿なんだろう。


「主はここに居てくれ。サクラとモエギも」

「分かった〜」「ピィ」「チュン」


 1人と2羽が揃って返事をすると、コガネ君はボートから降りて店の中に入っていった。

 サクラとモエギは私の両肩に止まる。

 どうでも良いが、右にサクラ、左にモエギが止まる。

 なぜか反転はしないのだ。

 1羽しかいなくてもこの止まり方をする。

 2羽で相談して決めたりしたのだろうか?


「ピィッピィ!」

「ん?うん。ありがとう」

「ピィ!」

「……チュン」

「モエギもありがとうね〜」

「チュー」


 擦り寄ってくる2羽を指先で撫でる。

 ふかふかだ。気持ちいい。

 そんなことをしていると、コガネ君が店から出てきた。手には鍵を持っている。


「主、お待たせ」

「いや、そんなに待ってないよ〜宿取れた?」

「ああ。隣が部屋だ」


 言いながらボートに乗り込んだコガネ君は、隣の建物に向かって行く。

 ……壁なんだけど、どうするんだろう。

 考えていたら、コガネ君が壁に鍵を差し込んだ。

 すると、ちょうどボートが1隻入るくらいの隙間があいた。

 壁かと思ったらドアだったらしい。

 コガネ君はその中にボートを漕ぎ入れて、鍵を渡してくる。


「主、鍵閉めてくれ。」

「分かった〜」


 鍵を受け取り、後ろを向いて鍵を閉める。

 前を向き直ると、コガネ君は更に奥へボートを進める。


「よし。主、先に荷物を下ろそう」

「はーい」


 返事をして荷物を渡す。

 コガネ君はそれを抱えて奥の足場に降り立ち、荷物を置いてこちらに向き直る。

 そしてボートに片足を乗せて足場に引き寄せ、私に手を伸ばしてくれる。

 その手に捕まり、引っ張られて足場に着陸した。


「ふひぃ……ところでコガネ君、この宿どうなってるの?」

「上に部屋があるんだ。ボートを一番下入れて上にある部屋で寝起きする。シャワーも付いてたな。サクラとモエギがいい宿を見つけてくれた」


 コガネ君がサクラとモエギをつつく。

 サクラははしゃいで指にじゃれつき、モエギは照れたように私の首に寄ってきた。

 実に対照的な2羽だ。


「さて、上に行こう」

「うん。……はしごだけど、コガネ君荷物持って上がれるの?」

「この量なら大丈夫だ」

「さすがだね……」


 そんなこんなで、ケートス到着1日目は無事に終了した。

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