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闘氣術と秘伝について

「なるほど、皆。【中伝】まではある程度体得しているか。極めていると・・・」


模擬戦の結果。

コーフィはそんなことを言いながらこれからの訓練メニューを考えているようだ。

1人ならともかく、これだけの人数に練度の違いによって別メニューを考えるのは相当面倒なことだろう。

俺も、自分のパーティメンバーに修行をつけるときはそこが一番面倒だった。


人は、1人1人考え方や感覚が違うので、覚える速度も順序も違う。

そこを考えなければ全員を同レベルに押し上げることはできない。

無論、才能的な限界は人それぞれにあるので一律にはできないが、ある程度までは押し上げることができる。


「まぁ、最初に闘氣術に対する簡単な説明から始めようか。」


最初に、認識の違いを埋めるために講義を行うようだ。

最初に教えた人間が違うので、情報伝達に齟齬がある可能性を排除するためだろう。


「最初に、大まかに闘氣術は【初伝】【中伝】【上伝】の三つに分かれれて、【初伝】から順番に体得して言って、全て体得すると免許皆伝になって【秘伝】を教えられるレベルになる。まぁ、飛ばして覚えられるようなものじゃないから自分に教えられる以上の余計な情報は排除した方がいいよ。その方が効率的だからね。だから、それぞれ説明を聞くのは自分のところまでにしよう。」


俺は【秘伝】の存在は知らなかったが、元々順番を飛ばして教えるつもりはないらしい。


「まず最初に教える【初伝】だけど、これは皆できるよね。」


【初伝】は簡潔に言えば闘氣の基礎だからな。

魔法でいえば『魔力を感じて動かす』程度の初歩中の初歩だ。できない奴はここにはいない。

まぁ、氣の存在事態が最近発見されたのでまだまだ世界には出来ない奴が多いが、そのうち魔法と同じで誰でもできる技術に落ち着くだろう。


「次は【中伝】だけど。これは『体内で氣を練って大きくすること』と『より効率的な肉体の強化』を行うことだよ。」


魔力も体内で練ることによってより大きな力になる。それを氣で行うだけだから理屈は誰もが理解できる。

肉体の効率的な強化は、魔法でいうところの魔法術式の高速化や威力の向上などといった分野に相当するが、魔法と違って氣は『肉体の強化』に特化した特性を持つので魔法と違ってそこまで難しい使い分けはない。

魔力そのものを直接使う無属性と基本属性である火・水・風・地の四つに上位属性の光・闇・雷・氷ある魔法に比べれば、攻撃・防御・速度・治癒の四つのどれを重点的に強化するかぐらいしか役割のない氣はシンプルだ。


ここまでの説明を聞いたところで【中伝】をマスターしていない連中が、別行動になった。

【上伝】の説明に入るからだろう。

まぁ、別にやることは大差ないのだがな。


「次に【上伝】だけど。やることは特に増えない。今までの延長だよ。今度は『全身・・で氣を練る』だけだよ。」


あまりにも余計な情報のない説明に話を聞いていた連中が口を開けて放心状態だ。

何を聞けばいいのかわからないのだろう。

コーフィも説明は終わったと言わんばかりに次の説明に入ろうとしている。


「いや、もう少し詳しく説明してやれよ。」


仕方なく俺がコーフィに説明を求めてやる。

他の奴らじゃ声をかけづらそうだからな。


「ん? どの辺がわからなかった?」


本気でこいつは・・・

仕方ないので俺が説明しよう。


「【中伝】で氣を練ってきたお前らは知らないだろうが、この練るという行為に使っている質量によって氣の量を上げることができる。これは魔力を練る時にも応用できるぞ。」


魔力を練る感覚で氣を練っていた連中が一番つまずくのがこの【中伝】と【上伝】の違いだ。

力を体内で練ることによって氣や魔力の総量を増やすことができる。

ここまでは常識として誰でも知っているが、問題はこの練っている場所だ。


力を全身に行き渡らせる場合のイメージは血だ。

全身を駆け巡っているからな。

では、力を溜める。もしくは練るイメージで扱うのは?

これには二通りの方法がある。


一つは体内からエネルギーを取り出すイメージなのだから、栄養を吸収する腹部に力を籠める方法。

もう一つは空気を取り込んで力に変えるところから肺をイメージして行う方法。

【中伝】はどちらでやっても正解だが、【上伝】はどちらもやる。

寧ろ、真の意味で全身を使う。


この力を取り出す行為だが、今までの常識や知識でわかりやすく、理解しやすくした反動だろうか。

逆にここで理解に少し苦しむが、要は『力を練る場所を限定している状態』を『力を練る場所を限定しない状態』に持ってくることなのだ。


「それで強くなれるんですか?」


俺の説明を聞いていまいち理解できていない奴がそう聞いてきた。

まぁ、最初の内は理解できないだろうがやってればなんとなくわかるようになる。

この時に想像すべきなのは力を練る場所を『変える』のではなく『増やす』ことだ。


「例えばだ。手だけで相手を殴るのと全身を使って殴るのじゃ威力が違うだろう?」


手だけで殴るのでは体重が乗らないし、体の捻りによる遠心力もない。

それと同じように、氣と魔力は練る場所を増やすと量も上がる。

胴体を1、両手で1、両足で1、頭部で0.5とすれば練る場所が1から3.5に増えるわけだから単純に総量は3.5倍になる。

さらに細かく分ければ、腹部と肺のどちらかでしか練っていない者は最初の総量が0.5なわけだし、イメージしにくいが人間には骨とか皮膚とか大小様々な臓器とかいろいろとあるわけで・・・

それらすべてを使えばさらに氣の総量は増える。

無論、魔力にも転用可能なこの技術は体得して損はない。


というか、使えるか使えないかで単純に使える氣と魔力の差に雲泥の差が出る。


「なるほど、僕達の実力はまだまだということか・・・」


≪業火の魔術師≫がようやくそのことを認めたらしい。

というか、自分達が雑魚だって気づいてなかったのか。

言っておくが、俺が本気を出せばお前らなんて瞬殺だぞ?


「じゃ、説明も終わったみたいだから最後に【秘伝】について教えようか。」


俺の説明を聞き終わって他の奴らが納得したところでコーフィがそう言って場所を移動した。

これから俺はあいつら同様に地獄を見るようなひどい目にあいながら修業をするのだろう。

その証拠に修行に入った連中が絶叫しているのが聞こえる。

正直、コーフィの修行法は強引すぎて引くレベルだ。

それが一番効率的なのはわかるが、あんな地獄の苦しみに耐えながら行う行為は修業でなく苦行だ。


「さて、【秘伝】についてだけど。口で説明することしかほとんどできないから自分で何とか体得してね。」


そう言ってコーフィは【秘伝】の説明を始めた。

最初に、既に免許皆伝を行った俺の実力はほぼ人類としての限界にあるらしい。

言い方を変えれば人類の持つ力を最大限引き出した状態が現状だそうだ。


(ん? じゃこれ以上強くなれないんじゃのか?)


俺より強い奴は目の前に2人いる。

【秘伝】の説明をしているコーフィとそばでそれを聞いている≪雑魚狩り≫だ。

明らかに俺とは次元の違う2人の実力者がいる以上、人類の限界はまだ先のように思えるのだが・・・

それはコーフィの【秘伝】についての説明で理解できた。


曰く、人体の限界を迎えた以上は人体の外から力を得るしかない。

というのが、【秘伝】と言われるものの真相だった。

今までの人体の内側を理解する修業とは一転して、今度は人体の外側を理解しろとのことだ。

え?

何を言っているのかって?

すまん。

俺にも理解できん。


「簡単に言うと自然から力を貰うってことだよ。まぁ、見ればわかるよ。」


そう言ってコーフィは体内で練った氣を自身の外側に放出して消費していく。その氣の総量は俺とほぼ同等だった。

氣はどんどんと周囲の草木や大地に吸収されていく。

やがて、全ての氣が体外に放出されてコーフィから氣が感じられなくなった。


「こうして、体外に氣を出して自然に自分の氣を取り込ませたらいつも通りに氣を練るイメージで自然から氣を取り出すんだ。そう、まるで自分が自然と一体化したかのように・・・ 草花や大地を手足の延長線上にするんだよ。」


そう言った次の瞬間。

周囲の草木や大地から氣が発せられた。

自然物である草木や大地が氣を発するだなんてことは今までの人生で一度もない。

なにせ草木や大地には意思がない。

何らかの意思がなければ力が発言するはずはない。


「あとは取り出した力を自身に戻すんだ。」


俺が周囲の大地から力を感じ取ったのを確認してからコーフィは周囲の氣を取り込んで自分のものとした。それは最初に生成していた氣の数十倍。

おそらくはコーフィの全力開放状態なのだろう。


「これが、【秘伝】と呼ばれる技術だよ。見ての通り人体の限界を取り払ってそれ以上の力を得ることが可能だよ。」


確かに、先程まで纏っていた氣の総量は俺とほぼ同じ。

人体の大きさは個人差によって異なる。

同じように闘氣術を皆伝しても、その総量差は人体という決められた枠内でしか使えないために普通なら自分より大きな存在に勝つことはできない。

だが、この【秘伝】ならばそれが可能。


体外から『自分が制御できる』量の氣を得ることができればいいわけだから、あとは氣の操れる総量さえ大きくなれば理論上は無限に力を得ることができる。

実に、強引な理論と方法ではあるが・・・

だからこそ、使いこなせれば『最強』になりえる。

ああ、そうだ。

これで俺もようやく本物の『最強』になれる。

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