魔の森進攻
魔の森内部の進行は意外と楽だった。
ガイ=ドラグーンのパーティと合流したことで索敵や魔獣の行動や能力も事前に教えを乞うことができる。
予め必要になるであろうアイテムの購入も済んでいるので特に問題もなく快調に進む。
例え魔物に遭遇してもこのパーティの戦力ならば問題ない。
パーティメンバーの数は20名というかなりの大人数になっているが、問題ない。
実力的には魔の森で攻略組と呼ばれるクラスに到達している≪暴君≫のパーティに新世代筆頭たる僕のパーティが加わっているんだ。
魔獣の索敵を行うためにたびたび行軍が止まったりするが、今までに出会った魔獣は全て群れを成しておらず、単身でおまけにたいした実力ではなかった。
正直言って史上最高の難易度にして危険地帯である魔の森のレベルの低さに少し驚きを隠せない。
これならば僕達だけで来ても問題はなさそうだ。
今回は目的が≪無敗の防壁≫であるために彼が住んでいるという喫茶店に行かなければならないから案内が必要なのだが、今回の件が片付けば魔の森で狩りをするのも悪くないかもしれない。
「オラァ!!」
今も気合の入った一撃が魔獣の腹部を穿った。
念願の魔剣である≪フウマ≫を手に入れたデビットだ。
≪フウマ≫は両手につける籠手タイプの魔剣で風を操ることができる。
両手から繰り出される台風を纏った拳は全ての敵を一撃で吹き飛ばしていく。
さらに風の魔力は応用が色々と効く上に、炎や氷と相性がいい。
風を起こし、そこに炎を混ぜれば爆炎を撒き散らす竜巻になりすべてのものを焼きつくし、氷を混ぜれば吹雪となり全てのものを凍てつかせる。
戦闘を行いながら連携や新しく≪フウマ≫を使ってできるようになった技なんかを確認しつつ、夜は次に手に入れるであろう魔剣を何にするかの話し合いがすでに始まっている。
魔の森の進行。
そして、コーフィ=チープとの決戦は僕達にとってはただの通過点であり、その先の明るい未来のための布石でしかなかった。
そう、この時までは・・・
夜、必要最低限の見張りを残して俺は少しだけ拠点から外に出た。
目的はある人物と会話するためだ。
その人物との接触はすぐにできた。
相手も俺が来ることがわかっていたのか。
俺の分のコーヒーを淹れてくれていた。
「こんな時間に起きて来て大丈夫なのかい? 明日も早く行くんでしょ?」
相変わらず目の下にクマをつけたその人物は眠そうな目線をこちらに向けて、コーヒーの入ったマグカップを出しながら尋ねてきた。
「問題ねぇよ。昼間はほとんど《獅子皇帝》だったか? あいつらが敵を倒してくれたからな。俺は逆に体が疲れてなくてな。もう少ししねぇと眠れないんだよ。」
「そうか。ならいいんだけどね。」
俺の言葉に視線を外して夜空を眺めながら答えを返す。
その様子は自然体であり、あのコーフィ=チープの弟子とは思えないほどに気迫が感じられない。
普通の人間が見れば・・・ いや、おそらくは俺以外にここにいる誰も気づいていないだろう。
この男が『最強の冒険者』という肩書を持つ俺にさえ、実力の底が全く窺えない化け物であるだなどとは・・・。
コーフィの奴も実力的には底が窺えないのが同じであるために俺はどうしてもこの男とコーフィを比べてしまう。
おそらく、戦えばコーフィよりは弱いのだろうが、少なくとも俺よりは強いだろう。
「なぁ、他の『ゴコウテイ』もお前やコーフィみたいな感じなのか?」
「ん? 他の? ≪救世主≫や≪韋駄天≫にはあったことあるんだろう? 2人は私とは全く違うタイプだと思うけど?」
俺の質問に男は質問で返してきた。
確かに、『ゴコウテイ』の中で俺があったことがあるのは≪救世主≫と≪韋駄天≫の2人と、つい先日会ったばかりのこの≪雑魚狩り≫を合わせた3人だ。
これにコーフィを合わせて4人。
確かに、性格や価値観は違うがどいつも似たり寄ったりだ。
まず、『圧倒的な強さ』を持つ点に関しては4人とも同じだ。
おそらく残りの『ゴコウテイ』もそうなのだろう。
≪救世主≫以外の連中が『軒並み表だって地位や名誉を欲しない』のも共通項だ。
目の前にいるこの男も『ギルドの外部顧問』という偉そうな肩書を持っているが、俺は今までに『ギルドの外部顧問』なんて言葉を聞いたことがない。
おそらくは、『何かあった時のための名前だけの役職』なのだろう。
『ゴコウテイ』であるこいつが選ばれていることから『コーフィ=チープ絡み』の案件を担当する人材といったところだろう。
コーフィもそうだが、『ゴコウテイ』の連中はおそらく全員が怪物クラスの実力者だ。
その気になればいつだって『三大国家』の王程度にはなれる。
だが、彼らは地位を欲さない。
自分にとって都合のいい程度のもので満足してしまう。
なぜだかわからないが、彼らは人間の持つ『より良いものを』という欲求が欠けている。
(こいつ等見てると俺の向上心が萎えちまうぜ。)
俺はこいつらと違って向上心がないわけじゃない。
むしろ、強い。
最強の冒険者の称号も否定はしないし、地位や名誉も欲しい。
だが、自分よりはるかに強い存在がそれらを欲しないのでは自分がその地位に居ていいのかと考えさせられてしまい、あと一歩のところで踏み出せない。
そのせいで、出世の機会を逃している気がして少し物寂しい。
「考えても仕方ないよ。」
考え込む俺を見て≪雑魚狩り≫はそう呟いた。
「君はまだまだ未熟だからね。せめて、最下位の僕よりは上に行かないと同じ景色は見えないよ。」
その言葉に『ゴコウテイ』やコーフィとの力の差を思い出さされて少し寂しい気持ちになり、不貞寝することにした。
下を見れば塵芥や蟻のように人が存在する。
上を見れば天高くそびえる塔の如く立つ6つの柱。
ギルド内最強の2つ名を持つ男の見る景色は何とも寂しいものだ。




