守護天将
俺の名はクラウ=クラウン。
11歳の時にギルドの新人育成施設に入り1年ほど修行をしたのちに冒険者として活動を開始した。
それから破竹の勢いで活躍を行い、仲間を増やし、人脈を構築していった。
さらに、仲間達と共に《獅子皇帝》というパーティを結成し色々なダンジョンを攻略した。
そうしている合間に≪業火の魔術師≫と言う二つ名を得た。
二つ名を得て以降、危険区域から出た魔獣の討伐指令に呼ばれるようになり、そこで大活躍を果たした。
俺達の活躍はそこから世に知れ渡ることになる。
彼の伝説のパーティ、《散歩に行こう》が解散した影響もあるのだろう。
次々と危険区域から出てくる魔獣を退治する俺達の名声はうなぎ上りの天井知らずで上がって行った。
だが、そんな俺達の輝かしい伝説もたった一度の敗北で覆った。
誰もが俺の名を知るほどに名声が大きくなった頃、たった一度の失敗を犯した俺達の下にある噂が届いた。
『《獅子皇帝》なんかより≪暴君≫を1人呼んだ方が頼りになる。』
『《獅子皇帝》って何人のパーティなの?二つ名持ちは≪業火の魔術師≫とか≪白騎士≫だけ?他の奴らは雑魚なのか?』
『所詮は《散歩に行こう》の劣化版だろ?ま、どこのパーティも一緒だがな。』
それらは、有頂天になっていた俺達にとって耐えがたい屈辱だった。
たった一度の敗北でそこまで言われる筋合いはない。
寧ろ、危険区域から出てきた魔獣の討伐率は5割にも満たないのが通例だ。
下手をすれば王国が出した軍隊と冒険者の連合軍が文字通り全滅することすらありうる危険な任務なのだ。
にもかかわらず、なぜたった一度の敗北でそこまで言われなければらないのか?
それは、彼の伝説のパーティたる《散歩に行こう》がただ一度の敗北もなく勝利だけを積み上げたからに他ならない。
無敗
その絶対的信頼を覆すことは不可能に近い。
そこに並ぶためには最低でも同じことをしなければならない。
一度でもケチがつけばもうその差は埋められない。
俺達が伝説に勝つ方法があるとするならば・・・
伝説を超える伝説を築くか。
伝説を打倒するかの二択。
しかし、後者は使えない。
なにせ、伝説の英雄に戦いを挑むことは民衆への受けが悪い。
おまけに、彼らは様々な国の王に恩を売っている。
下手をすれば、国家反逆罪の罪を着せられる恐れすらある。
故に取れる手段はただ一つ。
伝説を超える伝説を築くこと。
だが、それは生半可なことではできない。
危険区域から出てきた魔獣の討伐任務において、魔獣の実力が運よく雑魚ばかりであったとしても、確実に勝てるものでもない。
そもそも、守護天将と言えども個人の力量で強力な魔獣を単独で倒すことは難しい。
そのため、守護天将に選ばれるのは二つ名を持つ個人の力量も大事だが、パーティとしての熟練度と総合能力が最重要である。
現に、守護天将に選ばれた者は全員が何かしらのパーティに所属しており、その代表として守護天将の名を授かる。
唯一の例外はただ一つ。
ギルドの永い歴史の中で、《散歩に行こう》のメンバー。六人全員が守護天将に任命されるという異例の事態を受けたのだ。
ただでさえ、メンバー全員が二つ名持ちと言う稀有な存在にもかかわらず、そのような伝説まで打ち立ててしまうほどの生ける伝説に挑もうなと普通は思わないし、そんな機会はない。
だが、幸運なことに俺達はその機会に恵まれた。
この機会、なんとしても掴んで見せる。
俺達新世代の実力を世に知らしめるためにも、戦いの中で散って行った仲間の為にも、何より俺達の失った誇りの為にも、この戦いには必ず勝たなければならない。
「で? 早速、コーフィ=チープを倒しに行くのか?」
仲間の1人がそう尋ねてくるが、俺は首を振るう。
コーフィ=チープの現在の居場所は魔の森の奥にある喫茶店らしい。
魔の森の噂は色々と聞いているが、俺達のパーティは今まで一度も潜ったことがない。
なので、魔の森のことに詳しいパーティと手を組むのと俺がコーフィ=チープを打倒する瞬間を目撃してもらう立会人にもなる人物を探さなければならない。
相手は伝説の存在とはいえ、たった一人の人間だ。
実力は最強と謳われるガイ=ドラグーンに及ばないだろうが、ガードナーでありながらも守護天将に選ばれた人物。
証人がいなければ、俺達だけで倒しても『数人がかりでたった一人を襲った』という不名誉な噂が出かねない。
それを一蹴できるほどの公正明大な証人が必要だ。
というわけで、俺達は証人を探しに旅立ったのだった。