06 慣れました。いつか脱出できるといいな
一か月も経てば、大抵の人間はどんな環境でも慣れる。
それくらいになると、手錠はもう外してもらったけど、こっそり室外にでようとすると王子様がヤンデレ化してしまう。
そして、驚異的なセンサーを発揮してこちらの動きを察知てくるので、難易度は相かわらずのままだった。
「そろそろ諦めてくださいませんか王子様」
「何をかな。リエラ。私には君以上の魅力的な女性を妻にするつもりはないよ」
「そもそも、どこが気に入ったんですか」
「好みの顔だったからだ」
だめだこいつ。
「というのは冗談で、いや私の好みもあったが。誰もなしえなかった事をなしえた君の不断の努力に胸を打たれたからだ」
王子様は、その時の事を懐かしむ様に語りだす。
そんな風に感傷にひたりながら喋るようなロマンチックな出来事ではないはずなのに。
「月明かりの中にたたずむ君の美貌に惚れたというのは本当だが、私の元まで必死になってたどりついてきた努力を見て、気に入ったのだ」
「暗殺しにきたんですが」
王子様の言い方だと、ただ逢引きに必死になった、熱心な王子様ファンみたいな台詞だった。
「君の強さに惹かれたのだ」
そこまで言って王子様は、一か月前までは剣だこにまみれていた私の手をとった。
「目的がなんであれ、君が尋常ならざる努力をしたのはかわらない。今まで誰も成功しなかった事に挑戦する勇気、大きな困難を達成させるために積み上げた努力。それが気に入った。私は、王子として強くあらねばと思うけれど、なかなかうまくいかなかった。でもそんな時に現れた君が、とても力強くて頼もしく見えてしまったのだ。ずっと傍に置いておきたかった。許しておくれ」
そういって弱々しく笑う王子様は、王子様というよりも一人の悩み多く男性にしか見えない。
脱出できるかなぁ。
私はため息をつきながら、それからも長々と自分語りをしている王子様を見つめる。
忌み嫌われる暗殺者としての職業の良い所を見つけてくれたのは、この人が初めてだった。
もしかしたら、それは演技なのかもしれないと思うけれど、王子様が私に向ける笑みは、脱出は明日で良いかと先延ばししてしまうくらいには効果があったのだ。
いつか脱出できるといいなぁ。